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第84話 サーマスの炭火焼騒動

 月明かりの下、カザンは狩人の眼に変化しており所々に落ちているサーマスの鱗と草履の跡を追跡する。それと同時にニーアもニオイを嗅ぎながらカザンのサポートに回った。


 カザンの見立てでは足跡は少し小さめで歩幅もそれほどの広さが無い。10のうち8か9は子供のモノだろうとの推測をするがここで油断してはならない、カザンも小柄だが小人族の大人で足も小さければ歩幅も広くは無いのだ。仮に獲物を盗んだ者が子供だとしても少々の油断で取り返しのつかない事態になる可能性さえ無くもないのだ。


 カザンはその事を小声でシオンとニーアに伝える。ニーアは当然その事を重々承知はしているがシオンはと言うと少々苦い思いをしている。それこそ油断では無かったが頭に血が上り過ぎたせいでカイハとファニの命が失われ、自らも死の寸前だったからだ。油断も怒髪天と同じく戒めねばこの世界では少々厳しい、そうでなくとも命の安い世界なのである。


 「カザン、ニオイがだんだん強くなってきたよ。これは炭焼きにしたみたいだね」

 

 「サーマスの、炭焼き……酸味のある果実と一緒に食べたい」


 「メイラとも合うと思いますよ、僕は……」


 ふざけているようにも聞こえる、だがコトを成そうとしたり、急な対処をしようとする時は集中するよりもリラックスした方が効率が良いのだ。慌てても得は無く、急いでも体は硬くなり、集中と散漫は似ていはいないが同じモノ。これはニーアの経験則である。


 3人はゆっくりと慎重に歩を進めると川に削られて深くえぐりこまれた川谷に辿り着く。周りを伺えばエイハトにもほど近い場所になっており、流木や大きな石、流れ着いた草の束が散乱している。


 「近いね。カザン、私の後ろへ」


 隊列の順序はニーア、カザン、シオンの順番になっている。戦闘力の無いカザンを守る形へ編成し直し川辺の探索を決行する。


 「洞穴、かな。少しだけ明りが漏れてるね」


 「あの角度じゃ上からは見えませんでした」


 「ニーア姉、捕まえて処す?」


 「いや、子供かも知れないんじゃないの?もうちょっと冷静にいこうよ」


 カザンはフスー!と鼻息を荒くしてサーマス泥棒を懲らしめようとするがニーアにソレを止められる。それでも怒り冷めやらぬままのカザンをシオンが宥める役に回った。


 天然ものには見えない洞穴からはチラチラと炎の光が揺れている。シオンはそれを見て「こんな所にヒトが住めるのか?」と疑問を抱くが、やがて考えを改めた。それは、ハイエトの周りは森や林のようなモノが極端に少なく魔物の数が少ない。そして、洞穴は小さくよく見れば流木や枯草などでカモフラージュされ、更には木と石で作られた槍の先が洞穴の外に少しだけ出ているのだ。


 これは1人から少人数で防衛をするための知恵と工夫なのだろうとシオンは思い直す。そうして考えを改めると洞穴の足元に転がっている丸い石さえも何かしらの工夫なのではないかと見えてしまう。


 「ニーアさん、カザン姉さん、あの洞穴って防衛拠点になってるんですかね?」


 「シオン君、偉い。良く気が付いた」


 「ちょっとずつ見えるようになってきたねシオン」


 シオンの心中は「お!」とそのような心境だが更にニーアが問題をぶつけて来る。


 「じゃあ、あの洞穴を攻略するならどうする?多分槍の他にも中から弓で撃たれるんじゃないかな?ついでに言うなら数人の……2,3人の子供が中にいると思う」


 「どうするか……んー、煙でいぶり出す?とか」


 「あたしなら石を投げ込む」


 「どっちも結構いいセンいってると思うけどまだまだ甘いね。答えはこうする」


 ニーアはニカッと笑いのしのしと洞穴の近くに歩いてゆく。そしてその洞穴近くに鎮座しているニーアと同じぐらいの高さのある石を獣成の状態になり持ち上げた。


 「あ、なるほど」


 ズゥン!と重たい音とともに洞穴の出入り口であろう場所が塞がれて、そこからは掌1枚分しか通す事の出来ない隙間しか無くなってしまう。そう、安全に、且つ簡単に拠点を攻略するためにそもそも戦闘行為を出来なくしてしまえば良かったのだ。


 シオンとカザンは両名とも「おおー!」と喝采を上げた。これで中からは大人の力でもどうする事も出来なくなり、例え兵糧戦にもつれ込んだとしてもシオン側の圧倒的勝利が約束されてしまうだろう。洞穴の内部に潜む者はすでに降参の道しかなくなってしまったのだ。


 ニーアとしては獣成の姿で蹴散らしてもそれはそれで良かったのだが、どうせなら1つでも知恵を絞ればこんな事も出来るのだとシオンに知らしめたかったのだ。


 「おーい、中にいるのは分かってるんだよ。大人しく降参するなら場合によっては手荒な真似はしないよ」


 異変に気が付いたのであろう、洞穴の中からは男の子と女の子の慌てふためく声が聞こえて来る。そして気を付けなければいけない事はこの出入口を塞いだ状態を長く続けると洞穴の中で火を焚いているので酸欠になりかねないと言ったところだろう。


 1分かからない程の時間が流れた。洞穴の中は多少落ち着いて、そこからチラリとシオン達を覗き見する目が見える。


 「こんばんわ。手荒なマネはしませんから話し合いとかしませんか?」


 「……ヤダ」


 「じゃあ、ずっとこのままの状態でいますか?長い時間そうしているとお腹が減ったり困ったままになりますよ」


 「……」


 洞穴の中からは口を尖らせてブスったれているのが雰囲気だけで丸わかりになっている。ニーアとカザンはこの中に居るのが子供だと見抜いたがシオンは経験不足でそれを見抜けない。だがそれはそれとしてシオンは話し合いに持って行こうと説得を続けた。


 「あそこの川で罠を張って魚を獲ろうとしてたら誰かに盗まれたんですよ。キミ達ですよね?」


 「知らない、オレ達じゃないもん」


 「美味しかったよー」


 「ちょっ!黙ってて!」


 「兄ちゃんもいっぱい食べたじゃん」


 「う!お前等があたしのサーマス盗んだのか!炭焼きか!?美味しかったのか!!?」


 「カザン姉さん、ちょっと抑えてください……」


 互いにもう1度落ち着く時間をとり、再度シオンが話し合いの場に立つ事となった。カザンは歯をむき出しにしながら威嚇するかのように洞穴の隙間を睨んでいるがそれを抑えるようにニーアがカザンの手を握っている。


 「サーマスはまた捕まえたらいいだけなんで、とりあえず話だけ聞かせてくれませんか」


 「……オレ達を捕まえたり殺したりしないの?」


 「そうしたいならそこら辺に落ちている木をここに積んで火を付ければいいだけですよ。わざわざ話し合いをする必要が無いです」


 「兄ちゃん、大丈夫だと思うよ」


 「……分かった、暴れたりしない」


 こうして何事も無く話し合いの場を設ける事となる。だがカザンは威嚇の状態のままだった、食い物の恨みは恐ろしい。


謎の川魚サーマス。白身魚ですがエサの色素により体色はサーモンピンクのクマが大好きそうな魚ですw

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