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第85話 兄妹

 「よっ、と」


 再度ズゥン!と振動が腹の奥に響く。洞穴の出入り口を塞いでいた大きな石をニーアが持ちあげて移動させたのだ。その中からおっかなびっくりシオン達を見つめる兄妹と思わしき2人がいる。


 その2人はやはり子供で共にボロボロの服装、頭髪も煤だらけ灰だらけのボサボサ頭で顔も真っ黒。洞穴の中で焚火をしているので当然そのように小汚い格好になるワケだ。


 そして「兄ちゃん」と呼ばれた男の子の方は警戒心を剥き出し、しかし妹であろう方はややぼんやりとしていて警戒心が見当たらない。


 「えーと、とりあえずは自己紹介しておきますね。僕はシオンって名前です。最初に言っておきますが特にキミ達を捕まえに来たとかそんなんじゃないですよ」


 「わたしルピス。おねーちゃん、お魚美味しかったよ。久しぶりにお腹いっぱいになった」


 「いや、僕はおねーちゃんじゃないんですけど……そうですか、久しぶりにお腹いっぱいに……その、家はどうしたんでしょうか?」


 「おうちはここだよー。前はエイハトの隅っこの方に住んでたけど無くなっちゃった」


 「ルピス、あんまり近づいちゃダメだ」


 「兄ちゃんもお礼しなきゃいけないよ」


 シオンは妹、ルピスの言葉を聞き、すでに魚がどうのと言う気が一切無くなってしまう。それどころか何とかして保護しなければならないのでは、と考えている。単純に人助けがしたいなどの感情ではなく、あまりの不憫さにどうしようもならなくなっているのだ。この兄弟はそれほどボロボロの格好で、体格はあまりにも貧相だった。


 しかし困った事にベローズやニーアの言葉も思い出す、人助けをしたいなら余裕のある範囲で行えと言う事を。流石にシオンも頭の中では理解しているのだ、自分の命が最優先で、いつどこでどうなるとも知れない他人は2の次だと言う事を。だが、だがなのだ。


 「ニーアさん、カザン姉さん、どうしましょうか……」


 「あー……まあそうだろうね。カザン、何か言ってあげて」


 「ぅえっぐ、ふぇっ……お、お腹、おなが空いで……家、いえ”もなぐな、だ……」


 カザンは一言で表すならばグシャグシャになっていた。涙はボロボロと零れ、鼻水は垂らし、しかしそんな事はどうでも良いと言わんばかりに恥ずかしがる事も無く泣いていた。


 カザンは自らの幼少期を思い出し、この兄妹に重ね、シオン以上にどうしようもなくなっているのだ。それを隣にいたニーアは気づいており、どちらかと言うならばシオンに対し助け船を出す形でカザンに言葉を求めたと言うワケである。


 「カザン、涙と鼻水拭いて」


 「な、ないで……な”い!あだじ!ない”てない!」


 「お姉ちゃん、これで顔拭いて?」


 「あ!ルピス!」


 カザンの様子を心配したルピスがテテテと駆け寄り、1枚のぼろ切れをカザンに差し出す。するとそれを見たカザンは崩れ落ち、差し出されたルピスの手に縋りついてギャン泣きが始まった。決壊寸前だったダムが完全に崩壊してしまったのだ。


 


 「スラン。俺はスランって名前だよ、シオン……にーちゃん?」


 「スラン君、覚えました。しかし何でこんな魔物のうろついている郊外に住んでたんですか?」


 「仕方なかったんだよ、エイハトの貧民窟で生きていくよりもここの方がまだマシだと思ったから。実際、マシだった……」


 「そんなに、酷いんですか?貧民窟は」


 「酷いよ。食べ物は盗まれる、仕事をしてもらった給金も盗まれる。でも、それだったらマシな方かな、4軒隣の友達だった奴は殺されて物を盗られた」


 「……」


 「たまに頭のおかしいのも沸いて来てさ、弱そうな魔族の子供を見ると襲い掛かって来るのもいたんだ。魔族は死ね!とかそんな事言ってたよ。俺とルピスはそれに襲われるのが怖かったからほらこれ」


 スランは人差し指を自分の額に向ける。するとその額の真ん中辺りが開き、そこから目が1つ現れた。


 「その時から顔もススだらけだったから上手く誤魔化せてたんだけど、それでもエイハトの中にいる限り外にいるのとそんなに変わらないかも、ってね」


 スランとルピスの兄妹。この2人は三つ目族と呼ばれる魔族の一種でその額にある第3の目がこの種族の大きな特徴だ。能力的には人間とそう大差ないとは言われているのだが、そんな事はない。基本的に視力が強く、夜目が利き、人間には見る事の出来ない光の色の種類を見分ける事が可能である。


 「にーちゃんは人間なんだよな?」


 「……そうとも言い切れない事情がありまして。まあ、それは置いてですね。ここに居てもいつの日か魔物に襲われるか盗賊に襲われるかだと思うので、その……どうするか」


 「シオン君、人助けじゃなくて雇えば良い。ベローズ姉は結局、ケジメをちゃんと付けろと言いたい」


 カザンはルピスと手を繋いでシオンに提案する。ガンとしてテコでも動かない、そんな強い意志をカザンは発していた。勿論雇えばタダで人助けをする事にはならないかも知れない、だが今のシオン達もこの兄妹と本質的にはほぼ同じのその日暮らしの根無し草なのが問題だろう。


 けれどもこの洞穴に長い間住まわせておけばいつの日にかは必ず何かしらの原因で命を落とす事は明白。シオンはこの兄妹を現状から救い出すにはもうその手しか無いだろうと腹を括った。カザンに対し強く頷いてニーアの方を向くとハンドサインで親指を立てている。


 「よし!スラン君、エイハトで一緒に暮らしましょう。住み込みのバイ……小間使いとして僕達の商売の手伝いをしてください。ルピスちゃんも」


 「有難い話なんだけどさ、良いの?俺達は商売とか全く分からないんだ」


 「計算したり売り子、荒事は出来る人がやれば良いだけです。スラン君達には別の事で僕達を支えてくれれば良いですよ」


 「んー……正直な話、まだにーちゃんたちを完全に信じたワケじゃないからダメだな、って判断したらまたここに戻るけどそれで良い?」


 「後悔をさせるつもりはありません。最低限でも食べ物だけは保証しますよ」


 あわや盗賊の捕り物になるかと思われたこの一連の流れだったが、最終的には浮浪者の子供を2人を雇い入れると言う形で保護をする結末を見せる。シオン達は明るくなるのを待ち、それからエイハトへと向かうのだが最後の難関であるベローズの説得がそこに待ち構えているのだ。


 それでもあの手この手を考えながら歩き、やがてはエイハトへと無事到着する。


ロクス、エイハトと大きな街には貧民窟や奴隷商などがあります。しかし、各自に微妙に制度が違っていてそれが街の特色にもなっていますw

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