第83話 飛行訓練
夜間、エイハトの郊外で冒険者組合の仕事を請け負うと同時にシオンは飛行訓練を行う。
エイハトの近隣には森のようなモノが見当たらない。それもそのはず、木材は人間が住む建物を建てるためにエイハトが小さな村の時より長らく伐採が行われてきたからだ。故にエイハトでは木材は外来より運び込まれる物であり、かなりの高値が付く資材である。
ある一種不便そうに見えなくも無いが、エイハトの周辺には魔物の隠れ潜む場所が少なくなり、ある程度の安全は確保されておりそれが人口増の要因の一つとなっている部分があるのだ。だが同時に森の恵みの類は期待できず、食べられる魔物も少ない。つまりはそれ以外の何かしらで補わなければ貧乏人は飢える仕組みにならざるを得ない、痛しかゆし。
だがそれも過去の事だった、メイラの実を外来より持ち込む事で飢え死にするヒトを極力減らせるようになった。細かな話にはなるのだがその運搬するにあたって当然魔物の襲撃が行われるのだが、食性の問題なのかメイラの実だけは無事な場合が多い。これは人間にも見られる特徴なのだが生でデンプン類を食する事で腹を下す場合が散見される。デンプンは加熱しなければ食べられないのだ。
だが未だ魔物の生態を調べる「学者」のような者が出現していないのである一部の者からは「メイラの実は魔物を避ける効果がある」と信じられている。全くそんな事は無いにも関わらず、だ。
閑話休題。
「カザン、あるかな?」
「……無い」
「まあ、こんな隠れる所も無い場所だしそんなに簡単に盗賊とかは見つからないよね」
「むしろハイエト内部を調べる方が見つかるかも。シオン君、一応高い場所から明りを探して」
シオン一行がハイエトに辿り着き数日が経過している。そして現在まで追手の手がかりは何も掴めてはいない。そこでヒマを持て余すのは良くないとの事で誰からとも言わず、冒険者組合の仕事の一つ、懸賞金付きの盗賊の捕獲、殺害を行う事になったのである。
とは言ってもそんなに簡単に見つかるならばそもそも懸賞金などはかからない。あくまでシオンの飛行訓練の一環として外に出る口実を冒険者組合で作ったとも言えなくも無い。
夜間では見え辛い透明な翅がシオンから生えた。それは高速で振動するように震えると砂埃を巻き上げながらシオンが宙に浮く。この数日間の夜間哨戒である程度の飛行訓練は積めたのだ、だがまだまだ自由に飛び回り長距離を移動出来るようには至ってはいなかった。
2つの月の丁度真ん中ほどにシオンが逆光で暗く、小さく見えた。その場所あたりからヴゥンと奇怪な音がニーアとカザンにまで小さく聞こえて来る。シオンの空中移動の度にその音がドップラー現象のように変化して聞こえて、クルクルと高所を周回しながらピタリと止まり少々ホバリング。それが終わるとシオンは地上へと降りて来た。
「やっぱりどこにも光、火の類は見当たりませんね」
「まーそうだよね、魔物がウロついてる郊外で生活出来る腕のある盗賊だったら他の大きな街に移動してどんな形かで雇われてると私は思うんだよ」
「う!同意」
「でも、夜間哨戒自体は結構お金になるんで良いんじゃないでしょうか」
冒険者組合で斡旋される仕事の1つ、夜間哨戒。この仕事は一言で表すなら全く人気のない仕事である。街中で行われる仕事の排泄物の運搬と処理やゴミ掃除の方が人気としては高い方だろう。
当然である。このハイエトでもスクリスやロクス同様夜間には門が閉じられるからだ。魑魅魍魎が跋扈する郊外に1晩でも放り出されたいか?と言われればどんなヒトもしり込みするだろう。金銭も人命あってこそ価値を発揮するモノであり、ヒトにとって一番高価なモノは自分の命以外にはほぼ無いのである。
しかしそこは夜間行動に慣れていて、夜目が利き、戦闘能力もあるシオン達にはうってつけの仕事になるのだ。懸賞金の付いた盗賊の確保はただのついで。
「シオン君、ニーア姉、次は川の方に行こう。罠を回収」
「またサーマスがかかってるといいね。アレは美味しかったよ」
「う!まだサーマスの時期。いっぱい獲ってイリス姉に塩漬け保管してもらう」
元カイハのチームだったカザンは罠の作り方やその他諸々を受け継いでいた。小人族であるカザン、彼女は手先が器用で戦闘力は無いのだが、こと生活面の支えと金銭確保にはシオン等にとってかなり重要な位置に立っている。そしてそれを後方支援するのがイリスだ。この2人がいる事により、川魚の塩漬けや魔物肉の塩漬け、エイハトに至るまでの道のりで得られた果実の塩漬けが増えに増えた。
果実の塩漬け。日本での代表格は梅干しにあたるが、探せば他にも果実の塩漬けはかなりの種類がある。栗のような物、酸味がある物、柿のような物、ラフラの実が今まで獲れた物で山菜の塩漬けまでもを確保していた。果実の塩漬けは冬場のビタミン補給のための重要な食物であり、それを大量に漬け込むための容器の制作と保管はイリスの担当。食べ頃になるまではまだ時間は必要だが備えあれば憂いなしはカザンの信条である。
そして当のイリスだが人目に付かない夜間、ベローズと共に街中へと繰り出してゆき、何やらハイエトの土を大量に確保していた。ベローズが不思議がってその事を聞くと「ここらの土中ニ含まれるトアル成分が今後必要になるかも知れまセン」と謎の言葉を残すのみだった。
当然ベローズにはイリスの言葉、真意が理解出来はしない。しかし黙々と土を回収しては元に戻す作業をこなす姿を見てイリスが言うならばそうなるのかと追及する事を止める。
それぞれがそれぞれに次に進むための準備をしており、そしてその準備は果たしてどんな結果になるのかはまだ誰にも分からない。
エイハト郊外に流れる川にシオン、ニーア、カザンの3名は到着する。その川の向こう岸にはカザンの仕掛けた捕獲用の罠が設置されており、それを確認するためにシオンはニーアとカザンを抱えて飛行した。短い時間ならばそんな事も出来るが長時間となるとまだ出来ない。そしてこの川を飛び越える理由としてはエイハトから流れ出る汚物処理水を出来る限り避けるためである。
「……かかってない。向こうにも……おかしい」
「そんな日もあるんじゃないの?カザン」
「そんな事はない……これ、魚が暴れた跡」
カザンが仕掛けた罠には魚がかかっていなかった。しかしその罠の一部が倒れており、魚が暴れて自然に罠が壊れたとカザンは考えていない、何故なら罠の近くの岸辺には月光で銀色に光るサーマスの鱗が何枚も落ちていたからだ。
カザンは川を背中側に、地面に顔を近づけてみる。
「草履の跡がある……シオン君、ニーア姉、魔物の仕業じゃない、盗賊か何か」
ザワリ、とシオン、ニーアの空気が変化した。ひょんな事で見つけてしまったヒトの痕跡。夜間の捜索が始まりの火ぶたを切る。
シオンは一部分だけ変身して飛んでいます。




