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第82話 新機能

 ハイエトで宿泊するための宿を取り、荷物を置いて早速メイラを購入した。それは探すまでも無く食料品の専門店に、それこそうず高く積まれた袋にはち切れるほど詰め込まれている物を数点購入する。そして同時に種もみもだ。


 食料品店の店員には飯屋でも開くのかと尋ねられたがシオンはそれを否定しつつパンパンにメイラが詰まった袋を荷車に乗せて宿へと帰還した。これで当面の食糧に困る事は無くなり、イリスに種もみの栽培を任せれば後は増やしていく工程だけになる。


 だがここで流石にシオンも気が付く事になるのだ、どう運搬したら良いのかを。


 「やっぱり先に追手の関係をどうにかするのが先決ですよね」


 「……そうとも言えないのが現状かしら?リンスはハイエトの使者からの指令でシオンを捕まえようとした、つまりはリンスよりも上の貴族か城に出入り出来る権限を持っている誰かとの繋がりがあると言う事」


 「……その誰かを特定するのに時間がかかる?でしょうか」


 「その通りなのだわ。下手をすればハイエトにまで、追手の喉元に来たまではいいけれど手がかりがここで途絶えているのかしら。要するに今の所打つ手が無しなのよ」


 「なるほど……逆に考えると自由になる時間があるからその間に何をするかが問題になりますね」


 「……当面は自由行動なのだわ。でも、くれぐれも1人での行動は控えるように」


 一行は各々コクリと頷く。リンスを尋問して得られた情報は僅かなものだった、所詮彼も地方の下っ端貴族の1人で事の詳細は伝えられずに、且つ運よく「黒髪の子供」を捕獲出来れば儲けものぐらいの程度だったのだろう。ここらはシオン側に運が傾いたと言える。写真も無く、似顔絵のような物も出回らない情報を伝える手段が限られている世界が故だ。


 これが現代日本だと顔写真1枚で日本中に捜索の手が伸びているところだ。情報の密度は目であり耳であり、武器である。


 一行はベローズの言動通り自由行動に入ろうとするが、いざ「自由」と言われたところで何をしたら良いのかを迷ってしまう。そこでニーアは何かが決まるまでベッドに潜り込み、ベローズは白湯を用意してカザンと共に肉串のつまみ食いを始める。イリスは座ったまま微動だにしない。


 時間も中途半端に昼を過ぎた頃なので何をやるにしても明日からの方がキリがいいのだろう。そこでシオンは思うところがあるのだろう己の手を変化させた。偶然なのか必死だったのか分からないが、ロクスでの戦いの時に新たに獲得した針のような物を自分の意思で出し入れ出来るよう訓練を始める。


 「シオン様、その杭の先に塗らレテいるモノを解析したいのデスガよろしいカ?」


 「え?あ、はい……そう言えばイリスさんは糸も欲しがってましたよね」


 シオンは手首の上ら辺から黒い針を出し入れしながら、その先に塗られている液体を藁で拭いイリスに手渡す。その瞬間シオンはある事を閃いた「あれ?僕はネタマルゴを倒した時に飛んだ、はず……じゃあ、もしかすると糸も出せるようになっていないか?」と。


 イリスの話では体中から糸状の物質が吹き出したらしいが、それをシオンは見ていないし自覚もしていない。しかし体中から糸を出して繭になれるなら、と指先に集中してみる。


 「あ……出来た……」


 「シオン様、それを大量に確保しタイト存じあげまシュル」


 一度自転車に乗れたら補助輪無しでも走行出来るような感覚と同じように割とアッサリとシオンの指先から糸が伸びた。とりあえずイリスの容貌に応えるためにスルスルと一塊になるほどの糸を制作する。


 と、なれば次は飛べるかどうかだ。ネタマルゴの時は焦りや不慣れな機能のせいでロクにコントロールが出来なかった、そう思いながらソロリと背中側に集中してみると。


 「出来てますよね、翅」


 シオンの背中からは透明な翅が生えた。それは透明でトンボやハチ、昆虫が生やしているまさしく「翅」と言われるモノにそっくりだった。ただただ巨大だと言う事を除けば、だが。


 一同はシオンの姿を見てギョッとしている。シオンはそれに気づかず、慎重にゆっくりと翅を動かしてみると「ヴァンッ」と唸りを上げてシオンは一瞬だけ浮き、後方にあった椅子は倒れてニーアが被っている掛布団がめくれる。


 「……これは部屋の中じゃダメかも」


 「シオン様、解析するために是非1枚ほど頂けマセんか」


 「まだ待ってくださいよ、千切られたら痛いかも知れないんで」


 軽く翅を動かしただけで色々な物が倒れたりしてしまうほどの強力な羽ばたき。シオンの体重は40kgを少しだけ上回っている程度だがその40kgを宙に浮かすためには猛烈な勢いで翅を動かさなければならない。ニワトリは自重のせいで飛べない、だがシオンが飛べるのはここが地球ではなく更に何某かの力が働いているからだろうか。


 「驚きが止まらないのだわ、じゃあこれでシオンは空中を高速で移動出来るから一緒にイリスも運べばメイラを広める事は目前になるのかしら?」


 「んー、まだ訓練が必要な気がします。長時間飛べるのかも不明ですし」


 シオンの体からは黒い粒子が立ち昇り、背中の一部分が黒く変化してそこから翅が生えている。飛行訓練をするにしてもここではないどこかで、人目に付かない夜ではないと色々とマズい。シオンはまだ訓練が出来ない事を悟り翅を仕舞おうとすると、サラサラと黒い粒子が空中で掻き消え、同時に翅も消えてなくなる。


 「でも、本当にベローズさんの言う通りメイラを広めるのは目前のような気がします。僕でも誰かの役に立てる日が来たんだ……」


 シオンはジッと手を見つめた。メイラを広めるにはまだまだ難関が数点あるのだがシオンは今までにない手応えのようなモノを感じながら希望を胸に抱く。何かが吹っ切れたように「借り物の力でも何でもいい」と言う言葉を本当の意味で噛み締める、結局は自分のやりたい事をやった過程で、結果で誰かが助かったり喜べばそれで良いのだ。借り物だとか本物だとかは全く関係が無い。


 「翅ヲ、1枚……」


 「あ……」


 イリスの望みは忘れられたがシオンはまた1歩前進する。

 

まーアレですね、モデルはハチ系統ですが地球上の生物ではないので糸とかも出しますw


ぶっちゃけシオンの弱点って火と煙なんですよねw

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