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第78話 人攫い

 取調室。その個室に入って一望した感想はそんなところだろう。木製の机とセットの椅子、とくに飾る事も無く淡々とした雰囲気を醸し出す部屋をシオンは眺めている。


 入口の扉には鍵のような物、閂のような物は無い。簡単な引き戸が立て付けの関係で少々重くなっているだけだった。そして部屋の奥にはさらに戸が1つ、これもやはり引き戸で鍵は無いが閂をするための作りにはなっている。中を覗くとシオンが通された部屋とほぼ同じもので別段注視するような物は無い。


 シオンはとりあえず椅子に座って次に起こるアクションを待ってはいるのだが、しばらく待っていても何も起こりはしないしそれどころか誰もこの部屋に入って来る気配がない。それもそのはず、部屋の外からはバタバタと仕事に追われて走り回る職員とグッタリとして疲れ切った顔をしながら腰かけている職員しか見当たらないのだから。


 (……これは、拍子抜け……になるのかな?そうだったら良いんだけど、ダメだ……気を抜いたらダメだ)


 シオンがこの施設にノコノコ顔を出したのは、いい加減待つだけの立場にイラ立っているのが少々あり、多少でもいいから追手側の情報を入手したい気持ちがあったからだ。そうでなければこの仕事で混乱している事を利用しロクスから脱出すればいいだけなのだから。


 カザンはシオンに「仇をぶっ殺したい」と言った。そしてそれはシオンも同じような気持ちを抱いている。短い付き合いだったが死んでしまった3人はシオンの中では間違いなく仲間だったのだ。


 ……暫く座っているといきなり引き戸が開く。そこに現れたのはハゲあがり中肉中背、いかにも中間管理職然とした男が1人と小太りの身なりの良い男が1人。ハゲあがった方はなんとも申し訳なさそうな態度だが小太りの方は無遠慮にシオンをジロジロと嘗め回すように眺めている。


 「うむ、珍しい髪の色だな。顔立ちもここらの田舎者共とは一味違う……か。ふむ……」


 ベロリ。そんな音がシオンの耳に聞こえて来た気がした。幻聴ではあるものの小太りの男の視線は女を漁る時の男の視線そのもので、普段はナリを潜めているシオンのカンが警報を鳴らす。


 瞬時にシオンはどうすべきかを思考する。コイツが追手の情報のカケラを持っていると仮定して、それを「どう」引き出すかを。


 とりあえず一礼をし、多少引きつり気味に微笑む。シオンの中では上手く微笑んだはずなのだが、嫌悪感をぬぐい切れていないその表情は小太りの男の失笑を買う事になった。そしてその瞬間にシオンの中で怒りに火が付きかけるのだが、それはいわゆる逆ギレに他ならない。


 「リンス様。この者の名はエモト・シオンと言う者で冒険者組合に所属しており……その、最近の貢献度はかなりのモノでしてですね……」


 「だから……?それがどうだと言うのだ」


 「い、いえ……出来れば……その、穏便にですね……」


 「穏便に行くかどうかはコヤツの態度次第だろう。一々口を挟んで来るな鬱陶しい」


 小太りのリンスと呼ばれた男は何かしらの権力者、恐らくは貴族関係の何物かだろうとシオンはあたりを付ける。ベローズは追手に使われている記憶を消すほどの薬品は見たことが無いと言っていた。しかし現にカニ男とルロイにはソレと思わしきモノが使用されていて、つまりは珍品か莫大な金銭が必要になるような薬品だとも推測出来なくも無い。


 更にはこの施設の役員でもなさそうなのにこの態度だ。何かしら追手の大本の関係者と踏んでも概ね問題は無いだろうとシオンは考えた。


 「あの、早速ですが僕は何故ここに呼ばれているのでしょうか?」


 「……なぜキサマがワタシに質問をしているのだ?質問をしていいのはワタシだけだ。理解したか小娘?」


 「……あ、はい」


 自らがそう感じてしまうほどシオンの心の中で吹雪が吹き荒れる。いつもの「僕は男です」のセリフが出ないのはもうどちらでも良いか、と一種の諦めがそうさせているだ。


 リンスは無遠慮に椅子にドカリと座るや否や、備え付けの机を蹴りあげた。机がひっくり返り、ハゲた男は腹を押さえながら「うう……」と呻く。シオンはキョトンとした表情になり、リンスはニタニタと笑う。三者三様の反応はこの部屋の中の現在の力関係を如実に物語っていた。


 「おい、キサマにもう用は無い。ここから出て行っても良いぞ」


 「え?いえ、それでは質問の内容をこちらが確認出来ませんので……」


 「……ワタシにもう1度同じ事を言わせるつもりか?……そう言えば最近貧民窟の盗賊モドキが頻出しているらしいな、被害者が出なければ……いいんだが、なぁ……」


 あからさまな脅しである。ハゲた男はこれでも頑張って抵抗した方ではあろう、非常に申し訳のない顔をシオンに向けて部屋を退出していく。これでこの部屋の中にはシオンとリンスの2人のみとなる。夕暮れはすでに宵の口の明るさとなり、不穏の空気は部屋中に蔓延していた。


 「小娘、シオンとか申したな。これからキサマはワタシがとある場所へと護送する事になる、その身に着けている野蛮な物を全て外し縛につけ」


 「……?いきなり、ですか?僕に何の罪状があり、アナタに何の権利があるのでしょうか?それととある場所とはどこですか?」


 「質問をしていいのは私だけだと言っただろうがッ!!」


 リンスは怒鳴る。シオンは未体験の流れになっているが流石に驚きを通り越した呆れが脳内を支配する「権力者ってこれで良いの!?」と場違いな感想は恐らくシオンだけではないはずだ。


 「ワタシに歯向かえる気概は中々だな、良かろう。ワタシが直々にキサマに教育を施してやろうではないか」


 リンスは立ち上がり腰に括り付けていた荒縄をシオンの両腕に括り付ける。それが終わるまでシオンは大人しくしていたのだが、リンスは非常にサディスティックな笑みでその圧倒的に不自然なシオンの行動に違和感を抱いてはいなかった。


 縛り終えるとリンスはご満悦に縄を引っ張り部屋を出る。無論それにシオンも付いていく事になるのだが、その2人を施設の職員全員が目撃しており、中にはリンスの方に殺意ある眼を向ける職員もかなりの数が居た。


 だがリンスはその目を全く気にする事は無く、犬を散歩に連れて行くかのようにして建物を後にする。家の帰路についている人の群れはジロジロとその2人の姿を眺め、リンスは満足気だがシオンの方は少々ではない程に赤面していた。


 怒りではない、恥ずかしいのだ。だがここまで来たらもう少しだけガマンをしなければならない。心の中で叫ぶ、早く人目のない所に移動して!と。


 大手を振りながら大通りを進み、何度も曲がり角を抜ける。辺りは時間と共に暗くなり、丁度人込みの無い場所でリンスは立ち止まった。するとシオンも一瞬何の事なのか理解不能な言葉をリンスは紡ぐ。


 「おい、しゃぶれ」


 「……?」


 リンスは縄を片手に、器用にズボンをずり降ろそうとする。そこでシオンも流石に気付くのだった「ああ、そういう事」と。


 ブヅリ。


 それは縄が切れた音だったのだろうか、それともシオンの中で何かがキレた音だったのだろうか?それは判明しないままにシオンの右拳はリンスの腹部に埋まる。それこそ手首を通り過ぎる位置にまで。手加減はしようと思ってはいた、だがそれでも歯止めが利きそうにないシオンの中のナニカが暴発したのだ。


 リンスは「へむッ!」と小さく呻き、膝から崩れ落ちる。顔面からロクスの地面を迎え入れ、その顔面積の約半分に土が付く。少しだけスッキリした感覚だったがそれ以外は何か汚い物を触ってしまった心境をシオンは抱き、そしてこの後もこのリンスと名乗る汚物を抱えなければならないのか、と多少途方に暮れた。


 後日、ロクスで1人の貴族が姿を消したとウワサになるのだがそれはまた別の話。


これで1区切りです、リンス様の運命やいかに!?w


ちょっとだけ投稿する期間を空けますね、見直しとか色々やるんでw

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