第77話 狭まる包囲網
「シオン、結論をまず先に話しておくのだわ。恐らくなのだけれど何かしらの権力関係を使ってシオンを捕らえるか抹殺するかの手を使ってくると思うのかしら」
「追手に怪人を使う以外、にですね」
「そう、けれど確証は無いのだわ。それを踏まえて聞いてほしいのだけれど、かなりあやふやな指令がロクスやスクリス、ある程度の大きな市街に流布されると思われるかしら……例えばシオンの特徴である髪の色、黒の髪色をした人物を発見したら出頭させよ、かしら?」
「出頭したらどうなるんですか?」
「そうね、何もされないか……最悪は重度のイタズラをされるかなのだわ、冗談抜きなのよ。その後に相手の手の内へ護送されてしまうかしら」
「……勘弁してほしいところです……」
大規模な放火を平気で行える追手の対策を真剣に話し込む。ベローズは対峙した追手の男の事をかなり頭のおかしな人物だと感じていた。戦闘能力は無いが小賢しく、それでもあと1歩でシオンは殺され、カザンも拉致されていただろう。だが思い返してみるならば大局を見れるような人物像ではなく、作戦や方針を考える人物は他にいるとベローズは睨んだ。
そして重要なのはシオンの面は割れているが、シオンの正確な位置情報は入手していないと思われる事だ。これには理由がある。シオンの面が割れているのは同組織出身として当然、正確な位置情報を掴んでいない理由は戦力の逐次投入とロクスでの検問に引っかからなかったためだ。根拠としてはあと数点何かしらの証拠はほしい、だが命がかかっている以上少ない根拠でも何もしないよりはある程度の予想をして行動方針を固めるのは良策だとベローズは考えている。
この予想は火災が鎮火したすぐ後の話で、この予想が当たらなかったらそれに越した事は無いと念を押した。しかし、この予想は後日的中する事となった。
冒険者組合の1室ではいそいそとシオンが身支度を整えている。そしてそれは他のメンバーも同じだった。だがシオンの身支度とその他の身支度ではちょっとだけ意味合いが違う。
「シオン、くれぐれも変な事されそうになったら全力で潰しに行っても良いからね」
「いや、そこまで無茶な事をするヒトは……いないですよね?流石に」
「ニーアが看守だとしたらシオンにイタズラはするかしら?」
「するね、牢屋に入れられたら何を言ってもウヤムヤにされるだろうし、もしそんな状況になったら自分の立場が上の強者だと勘違いしきっている人間は手を出して来るだろうね」
例えばこうする!とニーアがシオンにちょっかいをかけるとシオンは勿論良い声で鳴く。閑話休題、シオンはこれから計画的に捕まる準備、そしてニーア達は狩を行うと見せかけてロクスを出る準備をしている。
これはファニを人質に取られた苦い経験から来ているモノだ。あの事を思い返すたびにシオンの血液は沸騰し心臓が焦げ付く感覚になるのだ。
「落ち合う場所は川を上流に上った場所にある村なのだわ。シオンが到着するまでに掘っ立て小屋を1軒借り入れておくかしら……シオン、くれぐれも相手に従う必要が無いのだわ、自らの命が一番大事。良いわね?」
「大丈夫です。こうなってしまっては遠慮する方が間違ってると思いますんで」
シオンは自分のせいでロクスが火災に見舞われたと考えていた、そして少しでもその穴埋めが出来ればと思っていたがこうなってしまっては話が別になる。革鎧の遊びを調整し、準備万端の状態のシオンの袖をカザンがクイクイと引く。
「シオン君、クソッタレの仇をぶっ殺したい」
「……多分ここにはいないと思いますが、分かりました」
「……でも、無理だったらすぐに逃げて」
シオンはカザンの言いつけを無理をしない範囲で守ろうと思っている。カザンからしても実際はシオンが無事でいたならそれで良い、が本心であり単純に気付けの一言でもあった。
準備は整う。夕焼けは眩しく輝きその1日の終わりはもうすぐやってくる。部屋の中を再確認し、痕跡が残っていないかを最終チェック。全員で円陣を組み、計画に漏れは無いかを確認した後シオンは1人、部屋を出る。
出来れば復興の手伝いに参加したかった、けれど位置情報が割れれば更なる不幸事が舞い込んでくるかもしれない。そんな事はもう2度とゴメンだ、だが相手はもう目の前にやって来ている。
ならばもうどんな事をしてでも生きてゆく覚悟をしなければならない。
シオンは冒険者組合の受付で街のどこに出頭したら良いのかを聞き出し、そこへ向かう。残ったメンバーは時間を置いて1人ずつ外に出て、出来る限り目立たぬようロクスを出立する準備を始める。荷物はほぼ全てイリスに転送してもらって遠出するようには見えなくする徹底ぶりだ。
シオンの目の前にある建物はロクスの重鎮や高名な冒険者、もしくは名うての商人が出入りする……現代で言う所の市役所のような施設だ。取り決めなどの確認や契約の更新に訪れる身の上が立派な人物が、まだ子供にしか見えないシオンをチラチラと見やっている。
シオンは何の疑いも持っていない面持ちでその施設の門を潜った。受付には落ち着いた雰囲気の女性が座っており、その女性に向かって尋ねる。
「あの、髪の毛の色の事で出頭しろと言われたのですが……ここで合っていますか?」
「髪の毛の色……?ああ、伺っています。そちらでお待ちください」
受付の女性も髪の毛の色の事で呼ばれたと申し出るシオンを訝し気に見たが、手元にあるボロボロの使い古した羊皮紙を数枚めくるとその内容が確認出来た。女性から促された位置には木製の簡素な長椅子があり、そこにシオンは腰かける。
職員の半分以上がてんてこ舞いで仕事をしている姿はすさまじい。隣の長椅子では職員のような恰好をした魔族の男性がイビキをかいて眠っており、ほとんどのヒトがシオンの事を気に掛けるヒマがないほど働いている。
そこへ歴戦の冒険者風、2人組の男達が現れる。
「やあ、こんにちわ」
「あ、こんにちは」
「え、と。いきなりなんだけど……キミ何かしたの?そんな風には見えないけど……前にどこかで窃盗とか刃傷沙汰を起こしたりしたとか?」
「……いえ、僕の方も髪の毛の色が黒だから来ただけで……よく分からないと言うのが正直なところです」
「うーん……そうだろうなぁ。一応なんだけどココ、拘留するための施設でもあってね……その、悪いんだけど1日だけそこで質問をさせてくれないだろうか?そこに通せと言われているんだ」
この2人組は申し訳なさそうにシオンを説得する。この2人は何故シオンを拘留しなければならないのかを通達されていないのだろう。
「ああ、いえ、お気遣いなく。僕も何かの間違いだろうと思っているので問題ありません」
そしてシオンはこの2人の先導についてゆき、少しだけ奥にある頑丈な扉付きの個室に入る事になった。
捕まえる理由は下っ端には説明されないです。んで、羊皮紙は削って再利用したりしますw




