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第76話 牙を剥く世界

 「ドノイスの足跡、コレ。こっちが少し古いワグリズの足跡」


 「ダメだ……分からないです……」


 「シオン君、痕跡の発見は狩人の初歩。凄腕の狩人は街中で個人の足跡も追跡出来るようになる」


 「えぇ……そんなに凄いんですか狩人って……」


 大火災の鎮火より更に数日が経つ。冒険者組合の緊急依頼である食肉用の魔物狩りは何とか功を奏し、ロクスの住民にかなりの割合で食料が行き届いている。無論問題が無くなったワケではない、住居や職場が消失した事で将来的なモノを危惧する声はそこらから聞こえてくるのだ。しかしロクスの街の職員はのんべんだらりと仕事をしているワケではない、どちらかと言えば街のトップから下っ端の職員に至るまで目を血走らせながら働いている。それこそ睡眠不足で仕事中に気絶するかのように倒れている事もしばしば見かける程。


 ところ変わってロクスの郊外ではシオンとカザンが2人で森の浅い場所をウロついている。狩を効率的に行うためカザンが獲物である魔物の痕跡を丁寧にシオンにレクチャーしたり罠の作り方を教えたりしている。


 カイハ達の死より期間は短いが意味も無くクヨクヨする事などもっての外で、そんなヒマがあるなら生きていくために少しでも稼がなければならない。シオンはまだ体験してはいないが冬になれば寒さだけで死ぬヒトが多数出て来る世界だ、思った以上に死が身近にはある。


 日に日に気温が下がってきているのをシオンは感じていた。気のせいか空模様がクリアになったように深く、透明感が増し太陽光もキレが良い。それは秋が深くなっているという事だがその事ですらシオンは初めて肌で感じる事になる。


 「おお、大きいサーマスがかかってる。シオン君、お腹を出して血抜きしておこう」


 サーマスとは中型の川魚で見質は柔らかく、秋が深くなると産卵のために遡上し、それが魔物や人々のタンパク源になる味の良い魚である。そしてサーマスの内臓はワグリズの好物の1つであり、そのニオイを利用してワグリズを罠にかける等の技術も存在する。尚、サーマスを咥えたワグリズの木彫りの像はロクスよりもずっと北にある都市で人気のお土産品となっており、裏側にその都市の名前が彫られていないのはニセモノとされ一段どころか二段下の品質のモノとして扱われる。


 「卵が入って無いからオス。もう何日か経っていたら身がスカスカになって美味しくない」


 「コレ、何度食べても飽きない味ですよね」


 大きさからして4kgはあるだろう川魚の頭を落とし、内臓とともに罠を設置している場所に置く。


 結構ノンビリしているようにも見える2人の行動だが、その動きは俊敏で、必要になりそうな繊維質のつる性の草を巻き取り荷車に乗せる等無駄が少ない。このつる性のカズラのような草は縄になったり粗末な衣服の材料にもなったりする重要な植物だ。


 この数日間はかなりの頻度で組合の仕事を受け、割安ではあるが食肉になる魔物を卸したりもしていた。シオンの元々生真面目な性格と、火災の原因は自分のせいでもあるとの心境から他の冒険者に比べると多めの仕事をこなしている。


 「大きいのが獲れたじゃないか、今日の夕飯にでもなるのかいシオン君」


 「そうですね、炭で焼いたのが美味しいですからね」


 シオン等にとって仕事を割安でも多く受ける事は悪い事ばかりでもなかった。少女然とした子が真面目に黙々と仕事をしているのだ、組合内部でも話題になったり声をかけて仲良くなる冒険者も数組存在した。今も声をかけてくる冒険者もそのうちの1人でモサモサとした口ひげが特徴的な熊のような人間だ。


 冒険者同士の付き合いという物はかなり浅い。それはいつ死んでしまうか分からない等の事情もあるが、野盗に落ちた時に遠慮なく止めを刺すためという裏の事情もあるためだ。一種の気遣いとも言えなくない。シオンとカザンに声をかけた冒険者は簡単に2~3言葉を交わして去って行った。


 「う!そろそろ帰ろうシオン君。罠はあと何日か経たないとダメ」


 「どっちがかかるんですか?ドノイス?」


 「うん、歩幅だと中型以上。下手するともう1台荷車がいる」

 

 シオンは頭の中で食肉と毛皮が追加との計算が立つ。本日の狩はツタが多めとサーマス。ツタは大した金額にはならないが生活には重要な品になるのでこれを組合に届ける事となる。




 ロクスにまで付く頃には夕暮れ前になっていた。アーッアーッ!とカラスのような鳥の声。相も変わらず門の内側には身を立てる術無くボンヤリと死んだ魚のような眼をした浮浪者の子供。火災によりかなりの数の家は焼失したがヒトの生態はあまり変わる事が無かった。それも冒険者組合や街の職員の努力の賜物ではあるが。


 「……メイラの実」


 「どうしたのシオン君」


 「丁度ここらへんでルロイさんとコメ、メイラの話をしたな、と」


 「あたしは食べた事がないけど美味しくはないんだったね」


 「みたいですね、でもいつか手に入ったらロクスにまで持って来てみましょう」


 満載にはなっていないが荷車は冒険者組合までの道を行く。メイラと呼ばれる米に似た植物の詳細はルロイより聞き漏らした情報である。どれほどの規模で栽培され流通しているかは分からないがソレ自体は確実にあるのだ、諦めるか死ぬかしなければいつかは手に入るはず。思い出や仲間の死に浸るような年齢ではないがシオンはルロイからの情報を無駄にしたくはなかった。


 冒険者組合に到着すると組合内部は多数の冒険者がごった返していた。男性も女性も人間も魔族も革鎧に身を包み、弓や槍、はたまた剣や斧で身を固めている。その中の数人がシオンにヒョイと手を上げて軽い挨拶をする。それに答えながら荷車を裏手に回し、ツタを卸そうとした時だ。


 「お願いしまーす」


 「ああ、ツタですね。縄の在庫が少ないので有難い……え、と……シオンさん、でよろしいですよね?」


 「え?あ、はい」


 「あの、街の職員から黒い髪の子供を見かけたら出頭させるようにと通達が来ているのですが……何かしました?」


 シオンはその言葉を聞き、微動だにせず、顔色をピクリとも変えず、平静を保ちながら受け答えをする。


 「特に覚えは無いですが……髪の色、ですか?」


 「そう、ですね。髪の色が黒の子供だと聞いています。これと言って特に何をしたなどは聞いてはいないですね。とにかく出頭させるように、と」


 「んー……分かりました。一度身なりを整えて向かってみます」


 冒険者組合の職員に背を向けるとシオンの表情は能面のように無感情になる。心の中にはただ「髪の色か、ベローズさんの言う通りだ」とその言葉だけが渦を巻いていた。


次かその次で1区切りになりますw

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