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第74話 放屁虫

 「ファニ姉……カイハああああああ!!」


 火の粉が飛び交う街中にカザンの絶叫が響き渡る。喉の短剣を突き立てられたまま倒れそうになっているカイハにカザンが駆け寄る。血が止まらない、カイハは口をパクパクと動かしながら何も無い空中に手を伸ばす。気道に突き刺さった短剣で呼吸が出来ないのだ。


 カザンはカイハの傷口を手で押さえて止血しようと試みるが血液は零れるばかり、仮に止まったとしてもそれはすでに致命傷でどうする事も出来ない。カザンの指の間から真っ赤な液体が漏れ、地面に流れる。


 「ぃ……げ……」


 「止まらない!血がっ!!誰か!!誰か助けて!!」


 「おやァ~?血が止まらないならワタシが止めて差し上げましょうかァ~?」


 得体の知れない昆虫のような顔をしていても分かる、その怪人はニタニタと笑っているのだ。その言葉を聞いてカザンは腰が抜けた、ヘナヘナと力なく地面に座り込みその絶望の瞬間まで何をする事も出来はしないだろう。


 だが。


 「……13号、まだ意識があったのかァ。その再生力、どこまで覚醒したんだァ~?中々才能があるじゃないか羨ましい事だなァ~」


 文字通り首の皮一枚で繋がっているシオンの首と胴。再び体を繋ぎ合わせようと切断面からは肉が伸びて黒い粒子が溢れ出している。そしてその手は火を操る怪人の足首を力無く掴んでいた。


 だがそれだけである、依然として窮地である事は何1つ変わりが無いのだ。


 足首を掴まれた怪人が鬱陶しそうに軽く足を上げるだけでシオンの手は地面に落ちる。怪人はそのまま足首を掴んでいたシオンの左手を踏みつける。ゴオンと重い音が鳴り、シオンの左手は手首から先が砕け、潰れてしまう。


 「……じゃあそろそろ終わりにしておくかなァ~。魔族の……お嬢さん、お名前を教えてくれると有難いですねェ。愛玩動物の名前が魔族じゃ締まらないでしょう?」


 蒼褪め、涙を流しながら震えているカザンに怪人はそう言い放つ。カザンの体には力が入らない、足がすくみ、腰が抜け、息が荒くなる。だが、一度チラリとファニの死体と、まだなんとか生きているだけのカイハを見やる。


 そんな事をしても力は湧いては来ない、何かが好転するワケでもない。だが!カザンは強がりを、今できる精一杯の抵抗を、一矢報えずとも心までは破れない気持ちで口を開いた。


 「お前、なんかに……教えるか……!死んでも、死ん……ぅぅぐ……教える!ものか!」


 「あぁ~そう……4号、その魔族を押さえておけ。ワタシは13号の首を獲る。帰り着いたらたっぷりとカワイがってやるからねェ、楽しみにしておくんだなァ~」


 4号と呼ばれた蛾のような外見をした怪人はノロノロと動き出す。カザンはガタガタと震えたまま目をつぶる。蛾の怪人が手をゆっくりと伸ばし、カザンを羽交い絞めにしようとした瞬間だった。


 ッパシ、ヂィンッ!と4号のコメカミ辺りに小さな穴が開き、地面から火花が散る。その穴の開いた反対側が割れたスイカのような状態に吹き飛んだ。蛾を人間を融合したような女性型怪人の頭は半分ほどに砕け、カザンに手を伸ばしたまま地面に倒れ伏す。


 数瞬遅れ、燃え盛る街中に「タァーン」と乾いた音が響き渡った。追手の男、カザン共に何が起こったのかを把握出来ず、頭部から脳漿を飛び散らせ、ダクダクと血液が流れる4号をただ無言で見つめていた。


 「フシッ!!」


 突如、追手の男は群青色の何かに飛び蹴りを喰らう。シオンの時とは違い完全に不意を突かれた形になった昆虫型の怪人は蹴り飛ばされ、シオンとの距離が開く。当然その蹴りを放ったのは獣成の姿のニーアだ。怪人との距離が開いた瞬間を見逃さず、ニーアはシオンを抱え上げカザンの近くにまで飛び退いた。


 「カザン、済まない……遅れたね」


 「ニーア、姉……カイハと……ファニ姉が、シオン君が……」


 「やってくれたのだわ、コイツ等……!」


 カザンの近くにはその惨状を目の当たりにし、青筋を立てた憤怒の表情でベローズが仁王立ちしていた。ベローズの握る大ナタのグリップがメシメシと不穏な音を立て、視線は倒れ伏した4号へと注がれる。


 問答無用の大ナタは動けない4号の首筋へと全力の威力、速度をもって打ち込まれる。その勢い、怒りは4号の首を切断するだけには留まらず、地面に深くめり込んだ。時を置かず4号の胴体はドロドロに融け、何故か頭部はそのままの状態で転がる。


 「シオン、聞こえるかな!?」


 「ニ……ご、め……」


 ちぎれかけの首はまだ繋がってはいないが返事が出来る程度には回復している。未だ黒い粒子は立ち昇り、変身は解けてはいないシオンを見て何とかギリギリ胸を撫で下ろすニーアだった。

 

 「私の話も聞かずに飛び出して……その事についてはアイツを倒してからにしようか、まずは安全な場所にまで行かないとね」


 「は……ぃ……」


 「カザン、カイハはもう……代わりにシオンを見ていて」


 カイハは死んでいた。だが今はまだ別れを惜しむ時ではない、目の前には未だ正体不明の怪人と仮称している敵が立ちはだかっているのだ。カザンはこの世界特有、冒険者特有の切り替えをする。戦争で死ぬ、病気で死ぬ、飢えて死ぬ、凍えて死ぬ、魔物に襲われて死ぬ、命は軽く僅かな事で失われる。そんな世界だ、切り替える事が出来ずに死ぬよりは、多少薄情だと思われようが生き残った後から仲間の、家族の死を悼めばいい。死んだらそんな事も出来ないのだ。


 「ニーア姉、ベローズ姉。死んだらダメ」

 

 「そういう時は、あのクソッタレをぶっ殺して!と、送り出すものなのだわ」


 炎に巻かれながらも怪人が戻って来る。ニーアに飛び蹴りを貰ったのがイラだったのだろうか家屋を破壊しながらゆっくりとシオンが倒れていた位置にまで歩いて来た。


 「珍しいなァ魔族ゥ……獣成か、そっちは吸血族とはまた珍しいじゃないか。2匹とも追加でワタシの愛玩動物にしてやろうかねェ~」


 「わらわ、放屁虫ヘッピリムシのご主人様には興味が無いかしら。ニーアはどうなの?」

 

 「私もゴメンかな。確かに色合いがヘッピリムシそっくりだね」


 ニーアが言い終わるや否やのタイミングで追手は仕掛けて来た。先手は確かに追手の男が仕掛けて来たのだが、先に拳が相手に到達したのはニーアの方だった。そう、ヘッピリムシの怪人は再生力、放火能力はあるものの戦闘能力自体はそう高い物ではない。


 更にはシオンの攻撃が効いているのか失血の影響か動きは鈍くなっている。しかし問題点は放火能力の事を知っている者はこの場にはシオンしかいない、しかしそのシオンもやっと喋れる程度になったばかりでその情報はニーア、ベローズには届かなかった。


 だがそこには何一つとして問題は存在しない。


 一合目、ニーアの拳が怪人の顔に届いた瞬間の事だった。その瞬間、周りが炎のオレンジ色で見落としそうになっているが、赤い光の点が追手の額の中心を捉えて逃がさなかった。そう、この場にはいないもう1人……1機が後方高所に身を潜めていたのだ。


 イリスである。


 彼女はある武器を闇の中で構えていた。長い筒のような武器、銃を。その銃身にはJP2400と簡素な刻印が彫り込まれており、材料不足で単純なボルトアクション式を採用せざるを得なかった背景はあるが銃、ライフルは完成していたのだ。その名を二千四百式歩兵銃、三十八式歩兵銃の正統進化系列だがそれは異世界の材料で制作されていた。


 イリスは戦闘特化型ホムンクルスではなく運搬用ホムンクルスである。だが引き金を引く事だけならば戦闘特化型ではなくとも出来る。


 創造主と呼ばれた人物の言いつけも現在の主であるシオンの言いつけも保留にし、ただ自らの完全な意思を持ってイリスは引き金を引いた。シオンをこの窮地から救い上げるために。赤い光点は今この瞬間も怪人の額を捉えている。


 ニーアとベローズは無策に怪人の前に立ったワケでは無かった。イリスが後方で「とアル武器を使うでゴゼマス」と献策をしてこの状況を作り上げたのだ。つまりニーアとベローズは最初から囮としての役割だったのだ。


 弾丸は闇夜を滑る。2400年式の高精度の銃身から射出された弾丸はイリスの弾道計算により違うことなく今、炎を操るヘッピリムシの額を




 射貫いた。




 怪人の後頭部が割った柘榴のように開いた。脳が電気信号を体に伝えるのを停止し、怪人はそのまま膝からストンと崩れ落ちる。その瞬間を見逃す事は無く、ベローズの大ナタは怪人の首を切断する。


 もう1発の乾いた音は時間を置いてニーア達の耳に届いたのであった。


まー色々あるんですがとりあえず、4号の煙を操る能力は魔法です。作中で書こうと思ったけどそれよりも死ぬ方が早かった。


それと、銃とかの知識は0なんでツッコミは無しでおなしゃすw

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