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第68話 販売初日

 夜が明けて朝日が射し込んでからすぐの事。荷車に積み込んでいた荷物は一旦イリスに預け、それを売るべく荷車を屋台のような形に改造している最中。


 「……ただいま」


 「ん、ルロイのおっちゃんおかえり……見つかった?」


 「うん、妻には会えたよ。色々大変だったけど娘も今はロクスの大きな屋敷で働いていて大事にされてると言ってた」


 「そっか、良かったね。んー……これはあくまでも個人的な意見で何を選ぶかはおっちゃんの自由なんだけど。もし抜けたいとかだったらもうちょっとだけ一緒にいてお金を稼ぐまでガマンした方がいいよ」


 「はは、ありがとう。どこまでも優しい事を言うんだよな、君等は。抜ける、と言うか……君等がここ、ロクスを出ない限りは一緒にいるよ、もう妻とは離れたくないから……本当にありがとう、感謝してもし足りないけど、ありがとう」


 宿屋の外で屋台の屋根を組み立てながらニーアとルロイの会話。朝日がルロイの顔を照らしているが、その目は真っ赤に充血し一晩中泣いていたのがニーアにはすぐに分かった。だがルロイの顔、表情そのものはどこまでも晴れやかで今まで浮かんでいた不安感や迷いは一切見受けられない。


 無論、シオンとルロイにまつわる全てが拭い去られたワケでは無いが、ルロイにとってはある1つのターニングポイントにはなっている……これからどう生きていくかの。


 一礼し、ルロイは宿の中に入ってゆく。


 宿の一室にはすでに全員が起床済みであり、それぞれがこの後ロクスの街中へと出かける準備をしていた。ルロイが扉をノックし、部屋に入ると全員が一斉に「おかえり」と唱和する。なんとなしに暖かなモノを感じ、この若き世代に多大なる感謝をルロイは胸に抱く。


 「壁が薄いから内容は大体聞いていたのかしら。でも間違いや勘違いがあったらいけないからちゃんと報告はするのだわ」


 「そりゃ勿論だ。あ、それとこの銀貨は返しとくよ」


 「それは持っておくのがいいかしら、何かの用意をする資金の足しにでもしたら良いのだわ。それにわらわ達は今日からもっと稼ぐのだから」


 そっけなく、多少尊大な物言いだがルロイは知っている。短い付き合いではあるがベローズは実際には面倒見がいい事を。ベローズの言葉を要約するならば自分の家族優先で生活の足しにしろ、これからもっと稼ぐのだからその程度は気にするな、になるだろう。


 他にもシオンは小さく、細いが勇敢である事も知っている。ニーアは世話焼きで、イリスは……イマイチ良く分からないが優秀だと概ね好感を抱いている。


 「じゃあ、ありがたく貰っておくよ。それと、俺はこれから妻の家に転がり込むから場所も教えておく」


 ルロイは先日の事を報告する。内容はニーアに喋った事と変わりは無かった、付け足されていたのがルロイの妻の家の場所のみ。そしてその家の状況を聞く限りは掘っ立て小屋に毛が生えた程度のモノで、やはり銀貨をそのまま渡したのは正解だった。


 簡単にだがこうして報告は終わり、ルロイは宿を出る。その際ルロイにはロクスでの仕事の内容を説明しておいた。結局は素材、材料集めのために冒険者家業、つまりは魔物の討伐や木材の採取、それとロクスの隣に通っている大きな川から砂鉄や川魚を集める作業の通達だ。


 その仕事でルロイの役割はロクスの外に出て魔物の討伐に分類される。何だかんだでシオンと同じように変身するとかなり戦闘能力があるのを皆が知っているからだ。この採取作業に従事する他の人員はシオン、ニーア、ベローズ、それとカザンになる。


 そして材料の加工、つまり製品化するのはもっぱらイリスの役割。これはあまりハデにやり過ぎると悪目立ちし、変な噂になると困るので最初の内は手心を加える事に決まっている。荷車2両分の積み荷が毎度宿に届いてそれがどこかに消え失せるのがあまりにも露骨に怪しいからだ。


 次に販売はシオン、ニーア、ファニの3人。カイハは貴族関係に充て、石鹸やその他の販売ルートの開拓を任せている。




 ルロイが宿から出て程無く屋台のような屋根付きの荷車が完成した。単純に屋根を取り付けるだけでも一目でそれが何らかの店であると認識出来るようになるのが不思議だとはニーアの談。その屋台を引いてシオンとニーアが街中へと繰り出す。


 「ニャー!遠くからでも目立つ荷車だニャ。これ、旗も立てればもっと目立って客足が多くなるんじゃないかニャ?」


 「あー!いいねソレ。宿に帰ったらベローズに報告してみようか」


 「ニーアちゃん、その時はニャーの名前を出してベローズにニャーの優秀さをしっかり伝えるニャー」


 大通りの隅、人の通りの邪魔になりそうにない場所で荷車を停めているとファニが合流してきた。その隣にはカザンも一緒に付いて来ていて荷車の建て付けをみているのか柱をバシバシと叩いている。


 「カザン姉さん今日は販売の仕事だから休んでいてもいいんですよ」


 「う!……家で休んでいるとカイハがあたしをイヤらしい眼で見つめて来る」


 「カザン、カイハはデカい乳が好みだニャー。それに朝っぱらからすぐ実家に行ったと思うんだがニャ」


 「……シオン君の心をザワつかせてあたしに夢中にさせる作戦が早くも失敗。要するにヒマだからあたしも手伝う」


 「前後が繋がっていない気がしますが、手伝ってくれるのはありがたいです」


 予定とは違うカザンの合流だが人数が多くなっただけで何の問題も無い。まずは小手調べ、市場調査の意味合いもかねてからの実践販売が開始された。


 珍しい形の荷車が影響したのか、それとも外見は女性にしか見えない集団が売り子をしているのが影響したのか滑り出しは好調を博す。売り物はそこらに売っている干し肉や加工した木製の雑貨だが、品質はイリス謹製ともありさすがに上質である事をすぐに見抜かれ売れる。


 中にはシオンをナンパしようといかつい冒険者風味のチンピラが寄って来た。それをニーアが渾身のボディーブロウで昏倒させるなどの見せ物もあり、チップのようなモノが投げ入れられるという事態も起こった。


 こうして初日は盛況な状況で店じまいとなるのであった。




 その一部始終を建物の影から覗く1対の目にシオン等は誰も気づく事無く宿へと帰還する。


ロクスへ到着する前に積み荷にあった木材はさすがに加工しました、生木とか売れないってw

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