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第62話 生きる事は戦いで

 「よし、じゃあここで解散といこうか。シオン君はこのまま帰るのかな?」


 「そうですね、僕は……どうしよう」


 シオンとカイハ達は昼を少しだけ過ぎたころにセブの村へと帰りつく。帰り道ではシオンがカイハに罠の説明を求めたりどんな獲物が掛かるのかをつぶさに訪ねていた。


 特に「リカード」と言う名の獲物は一体どんな生き物かを熱心に聞いていた。リカードとは肉食の大型のトカゲだとカイハは答える。かなり凶暴でフェブリ程度なら簡単に捉えてしまうという事だ、ヨダレをまき散らしながらの疾走は今でも恐怖感を抱くとの事。しかしその肉はしっとりとして美味、ニワトリに味は近いがどちらが好きかと聞かれればリカードに軍配が上がるだろう、とも。


 シオンはその説明中にゴクリと喉を鳴らす。病院食とは違い歯ごたえ、鮮度、味の濃さ、種類は少ないがこちらの世界で食べた物の方が上質で、すっかり食の虜になっている。


 ……そして現在に至る。


 「シオン君、今度はニャーがそっちに訪問するんだニャー。カザンはどうするニャ?」


 「う!行く!」


 「てなワケでちょっくら行ってくるニャー。あ、シオン君コレをやるニャ」


 ファニは籠の中から「ラフラの実」と呼ばれた果実を1つシオンに渡す。千切りたての正真正銘の新鮮さ、緩やかにデコボコとしたこぶし大の、梨のような色合いをした実だ。


 「おお、ありがとうございます」


 シオンはその実を掌の上に乗せジッと見つめる。ルワンの村でも数種類の果実を食べた事はあるがラフラの実は食べた事が無かった。その実を宿にまで持って帰ろうと考えたがニーアとベローズはどうにも甘いものは好きな部類ではないそうで、それなら一口齧ってみようと思い至る。


 ちなみにイリスの好みは全くの不明。


 シオンはおもむろにモゾリとラフラの実にかぶりつく。


 「あまり……美味しくはない、ですよねコレ?」


 それを見ていたカイハ等は全員が「ブフー!」と吹き出した。まるで事態を飲み込めていないシオンは頭の上にクエスチョンマークが並んでいる。


 「いやー、それをやる人を久しぶりに見たニャー!シオン君は最高だニャー」


 「シオン君……ラフラは火を通して肉と一緒に食べる。そのままだとあまり美味しくない」


 「もうちょっと早く言って欲しかったです……」


 気を取り直してシオン等の宿泊している宿へと向かう。一口齧ったラフラの実は責任を取るという意味合いでシオンが全部食べてしまう。水分が多め、油分が少なめのナッツのような味わいが口いっぱいに広がっていった。確かにそのままでは美味しくはないが塩味を加えると丁度いい野菜のようだとの評価を心の中でくだす。


 「……シオン君、ラフラの食べ方は割とどこの地域でも知られている……子供でも知ってる」


 カザンはシオンの正体の核心に迫る鋭い質問をする。つまり、シオンの年齢を考えると知っている方が普通で、知らない事はかなり珍しいと言う事だ。するとシオンは少々困り顔に変化し「うーうー」と唸った。


 「……言えない?」


 「と、言うよりは止められていまして。出来ればもうちょっと時間をもらえれば答えられるんですが」


 「気にすんニャ。生きてりゃー言えねー事が増えてくるもんだニャー。ニャー達もそこまでツッコもうなんて考えてないニャー」


 「ファニ姉の言う通り。あたし達は冒険者になるまでコソドロしなければ生きていけなかった」


 「まあ、あれはアレで楽しかったニャ」


 考えても仕方のない事なのだろうが、自分はもしかしたら幸運な部類だったのではないかとシオンは考えた。もし、そう「もし」シオンがこちらの世界での生まれだとしたならば年齢が2桁になるまでに命は無かっただろう。シオンからすれば壮絶な過去だがファニとカザンは懐かしそうにケラケラと笑っている。


 それが一応の救いではあるだろう。


 生きることは戦いで、どんなことをしてでも生き残った方が正義で、結果として死んでしまえば何も無く、それはすべての生命に等しく伸し掛かっている。老いも若きも男も女も、善悪正邪綺麗汚いも、生きているうちにしか価値が無い。死んでしまえば全ては無くなるのだ。


 「シオン君、シケたツラしてんじゃねーニャ。コソドロをやってたからその技術が今になって生きてるんだニャー」


 「……森の中での足跡探しと索敵の事ですよね」


 「そうニャー、呑み込みが早いのは良い事ニャ。冒険者稼業が頓挫したらカザンも一緒に大泥棒でも目指すニャ」


 「いえ、そうならないように僕が頑張りますよ」


 「う!シオン君女殺し!」


 潔癖症ならば「罪は罪、償うべきだ」と言うのかも知れない。しかしシオンはそれほど潔癖症ではなく、過去の情報を合わせても「法」と言うモノをよく知っていない。無論こちらの世界の法も知りはしない。ほぼまっさらな状態での判断は好きか嫌いかでの判断でしかなく、そしてソレは常に危うい。悪心ある者がシオンを操ろうとするならばそれは容易いだろう。


 ニーアとベローズはその事に気が付いている。運よく今まで出会った中で悪心ある者は女冒険者のミーロ達だけだった。初めにシオンが流れ着いたのがルワンのニーアの元ではなく他の場所、他の人物だとしたらシオンの運命は大きく変わっていたはずだ。


 「お、話し込んでたら付いたニャー。ニーアちゃんのお出迎えまであるとは余は満足ニャー!」


 「ただいま帰りましたニーアさん」


 「おかえりシオン、早速そこに座ってくれるかな」


 「ん?え?あの、ニーアさん、昨日一緒に肉を食べた仲のファニさんとカザン姉さんですよ?」


 「それは知ってるよ。でもそこが問題じゃないんだよね、カワイイ娘2人と一緒になって帰ってくるのが問題なの。しかも時間も大分遅いよね?」


 能面のようにピクリとも動かないニーアの表情にシオンは負けてもいないのに負けを悟る。ソロソロと大人しく地面の上に座るとニーアの説教がのどかな田園風景に響く。その姿を目撃しているファニとカザンはオロオロするもニーアに動揺は無い。


 心の中で「これ、どこかで似たような事があったような……」とシオンは思い、ファニの青灰色の尻尾は自らの股間を隠すように巻き付いていた。

 

シオンの危険察知能力は低いのですw

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