第61話 提携
カイハ達の宿の部屋。立てかけられた槍、弓が綺麗に整頓されている。今日の予定は決まっているのだろうか荷造りされた荷物が並ぶ。しかしこの村、セブには冒険者組合が無く魔物を狩ったとしてもここで換金する事は出来ない。だが荷造りはされているのだから何かしらの金策があるのをシオンは感じ取った。
「単刀直入に言うとですね、石鹸をカイハさん経由で売買してほしいとの事です。その他にも向こう、ロクスに着いた後ちょっとした提携をしないかの打診ですね」
「ふむ……」
「シオン君正直者ニャー。ニーアちゃんがその提案をしたんじゃねーニャ?あの吸血族のねーちゃんだろー?」
「そうです。僕は交渉とか初めてやるんで、こう言えと言われてここに来ているだけですね。吸血族、ベローズさんって言うんですが、誠実なヒト、実力のあるヒトは手の内に多く居ても困らないそうです」
シオンはパッとベローズの言葉を晒す、これは当然「他意は無い」との意思だ。そしてベローズの言葉は逆に返しても真理になる、つまり「あなた達が身内になるならこちらもソチラの身内になる」と言う事だ。当たり前の話だが一方的に搾取する関係は必ず破綻する。
利己的な言葉にも聞こえはするが、命がかかっている仕事をする以上本音で話す事が最も信頼、信用を得やすい。これはカイハ側も同様。無論シオンはそんな事まで気が回っていないのだが。
「何故オレが貴族関係に伝手があると思ったんだ?」
「そうですね、主にニーアさんのカンなんですが、家名を言い淀んで訂正したのとその物腰だと言ってました」
「うーん……まいったな。合ってはいるんだが、オレは末っ子でな、家の金をどうこう出来る身分じゃ無いんだ。それでも良いのか?」
シオンはカイハの言葉に一先ずホッとする。ベローズからも10の内9は断られない、断られても他を探せばいいと言われても色よい返事が出るのは有難いからだ。
「良い返事が返ってきたらこう言えと言われました。正直なところ貴族かどうかはどっちでもいい、お金を稼ぐ手伝いが欲しい。と」
「シオン君の所にいるねーちゃん等は大したタマだニャー。カイハ、ニャーはこの話に乗りたいニャー。カザンも同意するだろうニャ」
「そうだな、ここまであけっぴろに言われたら疑う必要も無さそうだ。末永く頼むよ」
シオンとカイハは握手をして、いわゆる商談成立の形となった。割とアッサリ決まったのはファニの後押しもあったからだろうかとシオンは考えるが、まだまだ知恵、知識がたらず答えは出ないままだ。
しかし結論として貴族への伝手と石鹸等販売のルートも確保。更にはロクスでの冒険者家業の提携と金策は上々の成果と言える。無論これはカイハ側も同じ。
「じゃあ、昨晩は話し損ねた事とかも聞いてみようかな」
カイハは話し損ねた事などと言うが蓋を開けてみれば雑談に近いような話ばかりで、これも互いの状況の確認と目的の共有、更には好きな食べ物まで話をしていた。時間は少し進み、カザンが起きたのか扉の所からジッとシオンを観察していた。
「昨日の……シオン君」
「あ、おはようございます。カザンさん」
「う、おはよう。昨日はお肉美味しかった……」
「入って来るニャー、カザン。シオン君はもう半分ぐらいニャー達の仲間になってるニャー」
カザンが扉の所からテテテと部屋の中に入って来て「どう言う事?」とファニとカイハに尋ねるとさっきまでしていた話をカザンに伝える。
「なるほど……じゃあシオン君はあたしの弟分?」
「そう、なんでしょうか?」
「あたしの事はカザン姉か姉さんって呼んでよね。分かった?シオン君」
いつの間にそんな仲に……とシオンは動揺するも別段悪い気分でもないと気が付き、つい「はい、カザン姉さん」と元気よく返事をしてしまう。
シオンよりも頭1つ分背の小さな姉が出来た瞬間だった。
「そうだな、シオン君にオレ達がどう稼いでいるのかを見せた方がいいよな?」
「未来の提携先だもんニャー、手の内を見せておく方が早いし今日の稼ぎのついでだニャ」
他の冒険者チームの狩。シオンとしては気になる事だろう。今までは剣ナタでフェブリなど魔物を仕留めてきた、その他は変身してからの素手、肉弾攻撃だったからだ。そして同時に自身の弱点も薄々気が付いている。攻撃能力に比べそれに耐久力が追い付いていないのだ。杞憂の可能性はあるがその弱点をどうにか埋めなければどこかで何らかの支障をきたすかも知れない。
カイハ等に連れられセブの村の外に出る。シオンは宿に泊まっている皆に伝えなければマズいかも知れないと告げたがカイハは、下見とちょっとした罠を仕掛けるだけだよと受け答えをしてシオンを連れ出した。
セブの村の外には大きな森があり、それを茂らせるための川が流れている。照らす陽光を水面が反射してキラキラと輝いて見える。カイハがその川辺に近づくと木の棒を何本も半円形状に突き立てる。
「それは……何でしょうか?」
「川魚を捕まえる罠だよ。ここのスキマから入ってくるんだけど何故か出ていけなくなる仕掛けなんだ」
そして突き立てた木の棒の上に被せるようにしながら落ち葉や枝を乗せる。カイハがやっている罠は魚の習性を利用した罠で、これを応用すると海でもカニや小魚を捕獲できる罠だ。
カイハが罠を仕掛けている最中はファニがニオイで回りの探知を行い、カザンは矢を弓にかけずに警戒態勢を取っている。見事なチームワークでこのチームは構成されていた、シオンは無言でその1人1人の動きをチェックしている。小さな体、少ない力でもやり方次第で物事は回る。
「カイハ、あっちにラフラの実があるニャ」
「フェブリの足跡……随分前の」
カザンもフェブリが通った跡を発見するなどの活躍を見せる。そしてシオンに向かいドヤ顔でアピール。シオンがハンドサインで親指を立てるとカザンはニンマリと笑い鼻息がフスー!と巻き起こる。姉の威厳が一段階上がったのだ。
ラフラと呼ばれる実を成熟している物だけもぎ取り籠の中へ。ファニは更にキョロキョロと周りを探知する。
「あっちだニャー。カザン、リカードだニャ」
「う、分かった」
カザンは地面に腰を下ろし更には顔を横にしてリカードと呼ばれた何かの痕跡を探す。シオンはカザンのその姿勢から背の低い何かの魔物か動物だと察した。
「あった、あそこが通り道。カイハ……あとよろしく」
「よし、この罠を仕掛けたら一旦帰ろうか」
カイハは荷物からタケのような筒状の物を取り出す。そして穴を掘りその筒を埋め、近くの木に紐を括り付ける。
シオンの弱点を克服出来る何かは見つからなかった。が、これはこれでとても実りのある見学だったと満足し、カイハが罠を設置した後は音をあまり立てないようにそそくさと森の中を進みセブの村にまで無事帰りつく事が出来た。
ファニの索敵範囲はそれほど広くはないです。




