第60話 おつかいミッション
一夜明ける。
昨夜のカイハ等冒険者同士の交流を深めるための食事会は大成功と言える部類に入るだろう。互いの目的や次の目的地であるロクスの情報をシオンはしっかりと頭の中に入れていて、更には軽くだが他の「都市」と呼べる場所の話も仕入れる事が出来た。確かに猫獣人、ファニの話は雑だが情報は情報である。
ムクリとシオンは宿屋のベッドから起き上がる。両隣にはいつものようにニーアとベローズが寝転がっているのが確認出来た。ただ少々問題なのはシオンの服の中に2人の手が侵入していて、シオンは眠っている間に何をされたのか毎朝何かしらの想像をしてしまう事だろうか。だが衣服は着用しているので恐らく何も行われてはいない……行われてはいないのだ!
ちなみにルロイは何事かを遠慮して別の部屋で寝泊まりをしている。これが大人の配慮と言うモノなのだろう。
「おはようゴザイますシオン様」
「おはよう、ございます……」
眠たげな眼を擦りながらシオンはボンヤリと考える、イリスさんはいつ眠っているんだろう?と。シオンはイリスがベッドに潜り込んでいるのを目撃してはいたのだが眠っている姿を見た事がない。朝起きる時は常に先にイリスが起きていて目覚める瞬間もその目にしたことが無かった。
さておき、宿屋に備え付けの机の上には真っ白とはいかないまでも乳白色に近い灰色の物体が4つ並べられている。
「これはなんでしょうか?」
「石鹸デス」
石鹸。体を洗う際に使う物なのは日本に住む人ならばほぼ誰でも知っている物ではある。だが、その材料が揃ったのは昨日のはずなのだが何故か個体の石鹸が机の上にはあった。しかしシオンはその石鹸が長い時間をかけ液体から個体に変化し「石鹸」と呼ばれる物になるとは知りもしない。
何一つ不思議そうな顔も見せずその石鹸を手に取り、光にかざしたりニオイを嗅いだりと品質を確かめている。
「イリスさん、何かコレ変なニオイのような?」
「油はドノイスより、香料ハ花より抽出シタ天然素材100%ノ人体にも自然にも優シイ作りとなっておりマスゆえ、多少のニオイは仕方ないのでゴザマス」
分かり易く簡潔に説明するならば「科学的に合成された香料」が無いと言う事である。
「ふむ……これぐらいの出来ならば問題無いどころか売れ筋間違いないのだわ。イリス、上出来なのよ」
いつのまにかベローズはベッドから起き上がってきてシオンが問題視したニオイを確かめていた。そして「シオン、これをカイハに渡しに行くのだわ。わらわはもう1度寝るかしら」と再度ベッドに潜り込む。その隣ではニーアがイビキを掻いてまだまだ起き上がる気配を見せない。シオンは眠りを妨げぬよう外出の準備を始める。
チチ、ヒヨヒヨ、ヂッ!青々と茂った木には数羽の小鳥が枝に停まり、何とも平和そうに鳴き声を上げる。辺りを見回しながらあっちにフラフラ、こっちにフラフラと無軌道にセブの村を散歩するシオン。先日の物々交換の影響か、どこかしこで肉の焼けたニオイが残っている。
爽やかな空気の中、大人の中に子供も混じり畑の仕事に精を出している。大きな籠を背負い、手際よく作物を収穫する姿に感心しながら開店準備中の店の前を通りすぎる。
(村の外には魔物がうろついてるようには感じないぐらい平和。日本にいた時は平和が当たり前みたいに思っていたけど、ここでは違うんだ……)
そんな事を考えながら歩いているが、言うほど日本も平和ではない。さておき、シオンの腰には革製の巾着が括り付けられている。その中には乱雑に貨幣や件の石鹸、その他諸々が放り込まれていて、少々の寄り道や買い食いは了承されていた。だがあまり発展していない村、そして朝早くと言う事もあり買い食いが出来るような店は見当たらない。開いている店はせいぜい鍛冶屋ぐらいのものだろう。
一見長閑に見える村の中をシオンはカイハの宿泊する宿屋へと歩く。
「あー!シオン君ニャ!」
「おはようございまーす。早速ですが要件を先に伝えますね。石鹸が出来たのでカイハさんに見本を渡して来いって頼まれました、これです」
「おめー、シオン君遊びが無いって言われねーかニャ?見るけどニャ」
巾着袋から石鹸を取り出して早速ファニに渡す。尻尾をビンビンに立てながらファニは石鹸を受け取るとニオイを嗅ぐ。
「……ドノイスのニオイがするニャー。美味そう……」
「ニオイで分かるんですか!?僕には変な匂いにしか感じられないんですが」
「おめー人間の鼻だもんニャー、ニャー達みてーにニオイで個人を嗅ぎ分けたり出来ねーもんニャー。シオン君からは吸血族の姉ちゃんのニオイとニーアちゃんの匂いがプンプンしてやがるニャ。とっかえひっかえかこのスケベが」
「ス、スケベな事はまだしていません!」
「ふゥ~ん……まだ、ニャぁ~。まぁいいこれぐらいで勘弁してやるニャー、これをカイハに見せれば良いんだニャ?付いてこいシオン君、ニャー達のヤサを見せてやるニャー」
ヤサとは住居や家の事を指すがファニはその場の勢いで仮宿をヤサと言ってのけた。とにかくシオンは付いていくことになり宿屋の受付から奥に進んでゆく。とは言ってもシオン達が寝泊まりしている宿屋とほぼ同じような作りではあるが。
「カイハ、お客さんだニャ!シオン君が来てくれやがったニャー!」
ファニはノックもせず豪快に扉を開ける。その奥にはいつもの事で慣れているのであろうカイハが1人荷物の点検をしながらこちらを振り向いた。
「ん、おうシオン君おはよう。どうしたんだ?」
「おはようございます。今日はお試し品と言うか石鹸を作ったのでソレをカイハさんに渡して来いと言われまして」
「これニャ~。もっと色が汚くて臭せー石鹸なら見たことがあるけどコイツァ中々のモンだニャー」
シオンからすればその中々の石鹸でも匂いが気にはなるが、こちらの世界では結構な物らしい事を学んだ。カイハはファニから石鹸を受け取ると光にかざしたりニオイを嗅いだりとシオンと同じような行動を取る。
「これは……スゴいな……昨日の皮といい一体何者なんだキミ等は?」
「カイハ~シオン君達が何物でも問題無いニャー。結果としてニャー達に利益が出ればそれで良いんじゃないかニャ~?」
「まあ、そうなんだが……んー、そうだな。あまり深くは首を突っ込まないでいようか」
「正直なところ、僕にもあまり説明が出来ないのでそうしてくれると助かります。で、次なんですがロクスでの僕たちの話になります」
子供たちの遊ぶ声が外から漏れ聞こえてくる、窓を目いっぱい広げて朝日を取り込んだ部屋の中で商談に近しいすり合わせをシオンは始めた。
カザンの方は隣の部屋でイビキをかいてますw




