第58話 セブの村
「おねーちゃん、竈の灰と使わなくなった服と草履持ってきたよー」
「おお、かなりの量だね。ごくろうさん、ちょっとだけ多めにドノイスの肉をつけてあげよう」
宿屋で荷物整理をしてそのまま休み、1日が経った。この村の名前はセブ、色とりどりのネコミミが特徴的な魔族と人間が半々ほどの割合で住まう村。高く積み上げられた石垣と粘土で形成された頑強な防護壁の内側で農業をしつつ、狩猟も同時に行い経営をする村落である。
このセブの村民は弓の腕前が確かな者が多い。それは村から遠く離れた場所に魔物が見えた際、防護壁の上に昇り弓で射撃をして撃退などを繰り返してきたからである。その技術を転用し狩猟に充てていると言う事だ。
しかし中型から大型の魔物にはそれほど弓が効果的なワケではなく、ごくたまに来る武装商隊との物々交換でカツカツな食生活を余儀なくされている。シオンは行商の補佐をしながらザッとセブの村民を見回したが、印象としては自分よりも少しだけ痩せていると感じている。つまり栄養状態はそれほど良くは無い。
しかしベローズはそんな状態の村をその目で見てよく知っている。丁度食肉と例の皮製品が物々交換のタネになるだろうとイリスと値段設定に明け暮れていた。欲の皮が突っ張っているようにも聞こえはしたが、いざふたを開けてみれば使いどころが無くなった衣服やボロ草履、竈の灰でも交換すると言ったセブの村人でも首をかしげるような品々との交換をしていた。
ともあれ、物々交換はかなりの好調である。
「この、皮?は売り物なのか?」
「それ、凄いでしょ。一応売り物なんだけどね、この村じゃソレに見合う交換品は無いんだよね」
「一応値段を聞いてもいいか?」
「その大きさの皮1枚で金貨1枚だね。これでも結構割安にしてるんだってさ」
冒険者風の身なりをした男が例のフェブリスキンをまじまじと眺めて売り子をしているニーアに値段を聞いてきた。その冒険者風の男は目利きがあるのか少しの凹凸も無い皮を手に取り「安すぎるだろ、コレ……」と独り言ちた。その言葉を聞いていたイリスの顔が若干ドヤ顔になっているのをシオンは見逃さない。
露天商モドキをしている一行だが、ベローズは宿で成果を待っているだけであり、ルロイはまだ村を散策中。残りのメンツでチンドン屋よろしく大声で口上を述べながら集客をしている。商品を陳列している仮店舗は電動荷車の荷台だ。
「ところで姉さん、竈の灰を集めて肉と交換なんて何に使うんだ?ああ、勿論秘密だってんならこれ以上は聞かないが」
さっきのフェブリスキンを眺めていた冒険者風の男が再度質問をニーアに投げかける。
「まあ、不思議に思うだろうね。私だって灰を集めてどうするんだって思ってるよ。畑に撒くでもない、汚れを落とすでもないんだってさ……私はニーア、お兄さんは?」
「え?ああ……カイハ・ベイ……ただのカイハだ。割と名うての冒険者らしい」
カイハと名乗る男は村民とは一味違う礼儀正しさをもち、深々とお辞儀をする。その慎み深い態度はどこかしらスクリスの冒険者組合の組合長を思い起こさせた。
「名うて、らしいって一体何なのかな?どっちなの?」
「いや、名うてってのは他人からの評価だ。自分で自分の実力はどんなもんだって計れるような力量はまだ無くてな、だかららしい、だ」
カイハの謙遜に近い言葉を聞いていたシオンとニーアは何とも感心したような表情になる。イリスは無表情。
カイハの格好は使い込まれた皮鎧を代表に全身を何らかの皮製品で覆いつくしている。籠手、脛あて、皮張りのバックラー。腰には短剣のようなものが1振りのみを帯びていて、赤茶けたボサボサ頭だが冒険者には付き物の剣呑、野卑な雰囲気は薄い。身に着けているモノを取り換えるだけでどこかしら由緒ある家の出だと言われても頷いてしまう雰囲気の持ち主である。
「で、カイハはその皮を買ってくれたりするのかな?それか何かと交換とか?」
「うーん、困ったな。この皮が欲しいんだが生憎手持ちが無いんだ……この先にあるロクスって街に持ち家があってな、そこには金があるんだ。……もし良ければ売るのをちょっとだけ待ってくれないだろうか?」
「ロクスなら僕達もそこに向かっているんですよ。ニーアさん、この皮、この人に売ってしまいましょう」
ピョコ、とシオンが飛び出す。フェブリスキンが予約できたのとロクスに住居があるという会話を聞いたから勢い余ったようだ。
「おお!ならオマケと言うか、ロクスに向かう時はオレに言ってくれ。せめて護衛を承ろう、お嬢さん3人じゃ道中はキツ過ぎるだろう?それにこの皮は金貨1枚じゃちょっと安すぎるからな」
「いや、このシオンは私の旦那だよ」
「!?」
「!?」
強引。シオンの知らぬ間に婚姻が成立していたらしい。この世界には結婚、婚姻という概念があって無き物だがニーアはこれを機に既成事実を作り出そうと画策していた。人間の心とは不安定で容易に刷り込みが可能なモノ、何度も「シオンは私のモノ」と言われ続ければそのうち「僕はニーアさんの旦那です」と刷り込みが完了してしまうかも知れない、恐るべしニーア。
「これは……失礼、でいいのかな?男だったのか……」
「よく、そう言われます……」
このようなやり取りの後、行商モドキは快調に物々交換を交わし、鉱山で見張りと同時に作っていた壺4つ分の灰や廃品に近いような物品をそれこそ山のように手に入れる事が出来た。しかしまだまだ肉類やフェブリの皮の在庫はあり、次の目的地であるロクスでも行商モドキをやる事になるだろうとニーアは予測する。
カイハともかなり仲良くなった。互いにどこの宿に宿泊しているのかを教えあい、夜になれば余っている肉で焼きドノイスを食べようと提案が出たほどだ。
「じゃあ、また後でな。オレの仲間が来ると思うからソイツ等の分まで多めに頼む」
「肉はまだ丸々1頭分あるからね、それぐらいあれば流石に余裕じゃないかな」
時刻は夕暮れで、ここで一旦カイハと別れてシオン達は宿に戻る。途中、畑をぼんやりと眺めているルロイと合流し、宿ではベローズに出来高の報告をして締める。
草木灰はあらゆる事に使用出来る魔法の粉ですねw




