第55話 欠けしモノ
カメレオン男、ルロイが目を覚まして更に数日が経過した。その間シオン等の採掘作業は快調に進み、気のせいかも知れないが若干イリスの表情、雰囲気はホクホクとしている。鉱山より産出される豊富な金属類はシオン等に新しい装備をもたらす。
採掘中は皮鎧が余計な物のため脱いでイリスに渡していたのだが、それを転送して地下研究所でレストアし、皮鎧の所々にネタマルゴの肉、シオンから出た繭の糸、鉱山での金属を加工した硬質ゴムのような硬さの部品を融合させていた。見た目はただの皮鎧のようだが性能面では格段に向上しており更には手甲、脛あてなども新たに制作された。
外見は女の子然としたシオンだが中身はさすがに男の子であり、新調された防具を身に纏っては体を動かして上機嫌のオーラを周囲にまき散らしまくっている。
そして新たな装備品として重要な物が1つ完成した。靴である。
「軽いのに硬い、草履みたいに尖った石を踏んづけても痛くない。これは本当にすごいね」
「今現状で揃えらレル最高のモノを贅沢に使いマシテござりましゅる。シカシ、やはり硫黄がございマセンので耐久性には問題がアリ。60日に1度の調整が必要デス」
形状はブーツに近く、それぞれの人物に合わせた派手になりすぎないようにカラーリングも施されている。例えばシオンは黒をベースにして黄と赤のワンポイント。ニーアは群青と白。ベローズは黒のベースに銀と緑だ。これは各自の皮鎧にも施されていた。
この新装備はイリスとルロイには支給されていない、単純に素材の在庫が無いからだ。その中でも特にシオンの繭の糸がかなり重要な位置を占めており、イリスはシオンにもう1度繭の状態になれないかと尋ねた事もある。が、シオンはなり方がまだ分からないとの事。
「ルロイのおっちゃんは体の方はどうかな?調子が戻ってきた?」
「もうかなり調子はいいと思いますよ。数日前のように視界が霞みがかった感じも無くなっているし」
強い後遺症は無かったがルロイは目が覚めた直後、極度の近視眼のように目が不自由だった。体の強張りをほぐすと同時に今まで療養しながら更なる情報交換、共有をしていた。ただ安静にしているだけだったが回復速度は目を見張るほどのものである。
療養中、ルロイは情報の共有、つまりは単に話し合いをしていただけだが若者が目的を1つにし、ロクスで居を構えると言う話に非常に感銘を受ける。これは自分が野盗にまで堕ちた経緯があるからだ。療養3日目にはルロイ自ら採掘作業を手伝わせてくれとの打診をベローズが受けたがこれを拒否する、あくまで療養が先だと断られた。
その他にもルロイはいろいろな話を主にベローズから聞き出している。それは「今年の暦」だ。
ルロイが覚えている記憶よりも4年ほど暦が先に進んでいる事に非常に強いショックを受ける。4年もの間の記憶がスッポリと抜け落ちているという恐怖にも似た感覚を覚えるが、まだ家族、妻は生きているかもしれないと僅かな希望を胸にシオン等とロクスにまで同道する旨を伝える。
そして今日この日に至る。
「ロクスに行くのはもう少しだけ待てるかしら?採掘をもう少し続ければ余裕がかなり出来るのだわ」
「ああ、いえ……正直なところでは妻も生きているかどうかは分からんのです。俺の事には構わず必要な事を続けて欲しいかなと」
一応は殺し合いをした仲、そして元野盗という過去を持つルロイだがシオンはこの男を見て「普通のおじさん」だという感想を抱いている。野盗の事はニーアとベローズに散々聞いている、見つけたら極力殺し、捕まえたら殺す事が前提になる魔物と同等の生き物だと聞いたうえでだ。
特にシオンと話をする時は眉毛が八の字に垂れ下がり、シオンの喋る事に度々過去の事を思い出すかのように遠い目をしてさみしそうに笑う。不思議な表情だと強く思った、家族、肉親がいればこの不思議な表情になるのか?と。
シオンはこの時、自分には足りていないモノがあると自覚した。
エブオルの研究所にて。
「所長、報告があります」
「……ん」
「使いに出していた8号が未帰還。予定より2日も遅れています」
妙齢の女性、シビリの報告は何かの書面をガリガリと一心不乱に書きなぐっている老人、所長に半ば無視されたように部屋の中に響き渡る。おどろおどろしい物品が棚を占拠し、部屋の薄明かりがその不気味さに拍車をかけていた。
シビリは所長の答えをジッと黙って待ち構えている。曲がった背を見つめ微動だにもせず。
「どこの方面に向かわせたんだったか……」
そう呟くも筆記する手は止まらない、まさに机に嚙り付いていると言う形容がピッタリな姿勢で作業を続ける。
所長の呟きはシビリに届いていた、書面に向かっている時は大体がこのような受け答えになるので慣れたものだった。
「スクリス方面です。8号に与えた任務は危険性のない物だったので死亡したとは思えませんが」
「……ふむ。どら、地図は……」
机の上をガサガサと老人が掻き回す。パサリ、パサリと何事かを書きあがっていた羊皮紙が床に散乱してゆく。それを1枚1枚シビリは拾い上げると老人は1枚の手書きの地図を手にしていた。
「確か10号も行方不明だったな……この川を直接下った、か……」
所々が擦り切れ、薄汚れた地図の上を老人の指がなぞる。その指の行きついた先には海がある。あくまで地図上の話だがその指の近くには「ルワン」との表記が見られる。
「……シビリ、10号は行方不明だな。今度は8号も未帰還だ……この方面、何かしらの注意をしたら、と思わんか?」
「……注意?ですか……所長はこの方面に何があるとお思いで、す……もしや13号が何かしら関係があると?」
「それは分からんのう。何度も同じ事を言うが、シビリ。全面的にお前が考えながら自由にやるがいい」
シビリの眉間に皺が寄る、険しい表情で地図を睨みつけ体をゆらゆらと揺らしながら考え事を始める。
ここ、エブオルの研究所にとっては13号、5号、10号、8号と立て続けに実験体の消失、死亡が確認され、やや偶然に近いながらもスクリスで行方をくらませたカメレオン男、8号の消失によりその方角に何らかの措置をする運びとなる。
偶然は3つ重なると最早偶然とは言い難くなると言います。所長はなんとなしにそれを理解してシビリに指令を与えていると言う事ですねw




