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第40話 すり合わせ

 人はちっぽけな存在で、自分よりも大きな物事には大抵の場合対処が出来ない。それは万人が共通の事でソレを責める事は出来ない。出来るたとしたならば自らの存在を過大評価している者だろう、そしてその者は決して自らを振り返ったり、自らの手で大きな物事をやり遂げよう等と言う事は一切ない。


 結局小さなことからコツコツとやる、別の言葉で1つ1つの積み重ねを絶え間なく行う事で、やがて大きな物事をやり遂げる事が出来る。それは小人物も大人物も同じ事。


 シオンは現在の地球、未来の日本は400年後には別の国の様相になっている事をイリスに告げられ、何となしにやるせない心境になっていたが考える内に結局どうする事も出来ないと言う結論に至った。「どうにか出来るだろうか」と考えた所で日本に帰る事も出来ないからだ。


 帰る事が出来た所で誰に相談したら良いのかも見当がつかず、現在の状況を鑑みるに生活をするだけで精一杯なのでは?との結論が出たからだ。そしてイリスの持つ400年後の技術で日本に帰る事は出来るかを問うが「それが出来るナラ140年以上前に帰ってイルはず」との言葉に妙な納得をしてしまう。


 「気になっているんですがイリスさんの手ってどうなってるんですか?こう、持った物がパッと消えるように見えたんですが」


 「当機の機能として物質の転送機能がアリ、シオン様が訪問サレタ地下の研究室の一室に紐づけサレており、そこに転送されていまス。そしてナノマシンがそこで物質の変換加工を担い、当機がそれを取り出す仕組みとナッテおりまする」


 イリスはシオンの前に両掌をスッと差し出す。シオンはそれを見つめ、軽く握ったりひっくり返したりと調べてみるが何の変哲も無いただの手にしか見えていない。


 日本に帰る事、もしくは行き帰りする事をスッパリと諦めてしまうと次に頭をもたげるのはイリスに対する興味。自らを「掃除機洗濯機の類」などと自称しているイリスはベローズの衣服も「洗濯」して見せた。


 長い期間魔物討伐で汚れていたりほつれが見える部分を新品同様にし、更に強度と着心地、デザイン性までもを向上させるその「洗濯」はシオン等全員を驚きで満たす。


 「普通の手ですね……じゃあもしかして僕を地下研究所まで転送する事も可能なんですか?」


 「人体におきマシてはいわゆる、電子レンジで加熱される以上の影響がございマス、それでもヨロシければ」


 「いえ結構です」


 シオンは一度だけTVのトンデモ番組で電子レンジで猫を乾かすという放送を見た事があり、それを思い出してはイリスの手のひらを凝視し震える。


 「あ、じゃあ私をその地下研究所に送ってみてよ。どんな所なのか一度見てみたいし」


 「かしこまりマシた」


 「ダメですニーアさん、頑丈さ云々の問題じゃないんです。イリスさんも簡単に了承しないで」


 電子レンジをイマイチ理解していないニーアはいとも簡単に「送って」と言うがそれをシオンは必死に止める。

 

 「他にイリスさんが伝えておきたい事って何かありますか?」


 「……肉、たんぱく質の補充と各種金属の補充が必要デス。研究所のナノマシン、各設備の機能保全に使われます。個体名ミーロはスデニ分解再構築済み」


 サラリと不穏なワードが飛び出てくる、シオンはどうツッコんでいいのかを散々に迷いこれをスルー。ギリギリのところで「死体の再利用だから、セーフ?なのかな……?臓器提供とかもあるし……」と現代地球の倫理観でなんとか忌避感を抑え込む事に成功した。


 宿屋の一室でそんなやりとりをしつつイリスの機能確認や、新メンバーになるイリスへのすり合わせを行っている。現在ベローズは昼間のスクリス内へと買い物に赴いておりこの場にはいない。イリスの制作したバイザーがやたらと気に入ったとの事だ。


 


 話は一段落しベローズが帰って来る。手には土産物の串焼きが数十本を確保してあり大きな葉に包まれたそれをテーブルの上に置く。


 「昼間は活気があるのは良いけれど失礼な輩が寄って来るのが鬱陶しいのだわ、2人ばかり沈めてやったのかしら」


 ベローズの現在の格好は黒ずくめのドレスに銀のストレートヘアで目には黒い布のようなバイザーをしている。都会になり切れていないスクリスの村にその格好はやや浮いていて目立つのは必至。長身にミステリアスな出で立ちが夜の雰囲気を醸し出し、荒くれ者揃いの冒険者が絡んでくるのは仕方がない事だろう。


 一同はベローズの買って来た串焼きに群がり、人数分を取り分けると大人しく席に着き今後の方針の報告を始める。


 「方針としては前と変わらず魔物狩りだね。イリスが魔物の死体や金属がいるんだって」


 「何に使うかは聞かないのよ、聞いてもよく分からないのが分かるのかしら。でも大きく方針が変わらないのはいい事なのだわ」


 「ザックリと説明すると、そのバイザーや他の物を作る時、その機能を維持するためにも必要だと言ってましたよ」


 「ニホンの技術は凄いのだわ、でも金属はどうするのかしら?」


 「金属は金銀銅デハありません、鋼やモリブデン、木炭、アルミ、酸化マグネシウムや水酸化ナトリウム等デス」


 シオン達はイリスの欲しい物を聞いても全くピンとこない顔をしている。シオンですらアルミと鋼、木炭ぐらいしか分かっていない。しかしアルミの精製法も鉄と鋼の違いも分からず、ニーアとベローズの知識量と実際は大差がない。


 「イリスはそれを見分ける事が出来るのかしら」


 「出来まする。正確には当機ではなく研究所のナノマシンなのデスが」


 「細かい事は良いんだって。とにかく必要っぽかったらこの中の誰かに許可を取れば良いんだからさ」


 このすり合わせの中で重要なのはイリスは戦闘能力が無いとの報告だった。しかし物品を研究所に転送するにはイリスが付いて回るのが一番効率が良いだろうとなる。ムグムグと串焼きを食べながら雑談も交えた会議はこれで終わる。






 夜間、スクリスの門前。


 「ハッ、ハァ……!開けてくれェーッ!頼む!」


 ボロボロの革鎧を纏った男がスクリスの閉ざされた門を強く叩く、必死の形相で汗だく、泥にまみれて息を切らせている。それでもドンドンと強く門を叩いて何かを伝えようと必死になっていた。


 「頼む、頼む……!開けてくれ、頼むよぉ……ッ!」


 それでも門は開かない、ついに男はボロボロと泣き出した。門にもたれかかり、みっともなく。恥も外聞も気に留める事無く、それでもただただ必死に泣きじゃくり門を叩いた。


 門はそれでも開かなかった。夜間、深夜のスクリスは取り決めで門を開かない決まりになっている。


 男は泣き叫びたかった「神も何もあったモノじゃない!どうして誰も反応しないんだ!」と。


 そして何かの気まぐれなのかその音に、声に気が付き近づいて来る者がいた「門の外」から。


 「あの、どうされました?」


 「……え!?」


イリスの転送の仕様は、超小型のワームホールを発生させてある程度の大きさ重さの物質を転送する仕組みです(震え声)なお、地下研究所の物資は枯渇気味。

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