第39話 Re
「スクリスは発展を遂げたのデスね。シオン様、イーギルの白焼きを1つ所望したく存じマス」
シオン等はスクリスへと帰還した。門を潜るなりイリスが何かしら感慨深いとの報を告げる、そしてシオンはイーギルの白焼きを4本購入し全員に分け、食べる。
「見事な開き方デス。技術が定着シテ更なる改良も施さレテいるようにも感じるでござます」
そのイリスのコメントにシオン等は無言で返す。
「ねえシオン、イリスは人間じゃないかも、って詳しく聞いてもいいかな?」
「多分ですが僕も分からないと思います。詳しくは本人に後から聞きましょう、今はこの人たちを組合にまで連れて行ってからですね」
数人の顔が腫れあがった冒険者を罪人のように両手に縄、そして腰縄で括り付け冒険者組合に突き出す算段で歩かせている。この後の彼らがどうなるのかはシオン、ニーア共に知りはしない。知っているのはベローズ、そしてイリスはそもそもの興味が無さそうだ。
昼間のスクリスはそこらで屋台や店舗から串焼きの煙が上がっていてタレが焼けるニオイ、魚の油が焼けるニオイが充満している。そしてゾロゾロと人を連れて歩いているシオン等は注目の的になっていた。やもするとこれから何かのショーが始まるのではないかと、そんな目で見つめる村人もいる。
一行はそんな注目の視線を浴びながら買い食いをしつつノンビリと冒険者組合へと進んでゆく。悔恨と怨嗟の呻き声を背後に聞きながら。
「こんにちは、この人達なんですが僕等に襲い掛かって来たんで捕縛して連れてきました。もう1人居たんですが事故により死亡してしまいました」
「いらっしゃいませシオンさん。7人もですか……シオンさん達は何事も無かったんですね?」
組合長はシオン一行をチラリと見やる、まだ日が高い内に出没しているベローズに視線を向け、すぐにそれをシオンに戻した。
「はい、全員無事です。証明出来る物は何もないですが襲い掛かって来たのは事実で、そして事故で1人死んでしまったのも事実だと主張します」
「ああ、いえシオンさん、固くならなくても大丈夫ですよ。ちゃんとした聞き取り方法があるので」
この「ちゃんとした聞き取り方法」なのだがシオンはその詳細をどんな物かを知らない。故に指紋も血痕も何もないのにどう取り調べをするのだろうと疑問に思う。そしてその疑問が顔に出ていたのか組合長はニコリと笑いベローズに視線を向けて頷いた。
「シオン、取り調べの方法は吸血族独特の方法なのだわ。的中率はかなりの精度を誇るモノだから安心していいのかしら、何なら宿で説明をするのだわ」
「そうですか。あ、組合長さん、ついでにこのイリスさんも冒険者に登録をしていただけますか」
「はい、承りました」
これで一応の一件落着の形にはなった。しかしシオンは色々と疑問が残っている。
「あの、この人達はこれからどうなるのですか?」
「……そう、ですね。有罪と認められれば野盗と同様打ち首かもしくは奴隷落ちですね。大抵の場合は奴隷落ちを選びますが。その場合鉱山や娼館で働くことになり、逃げれば問答無用の打ち首になります。……気の毒には思わない事ですよシオンさん」
「そうは言いましても……」
「シオン、ニーアも。犯罪を犯す者は何度も繰り返すのだわ、野盗に出会った事が無いのだから仕方ないけれど、こうするのが当然なのよ。野盗を許してその身柄を放したらまた窃盗や強盗、人攫いをを繰り返し被害は拡大し続けるのかしら、シオンはその方が良い?」
「良くは無い、ですね」
「ワグリズの被害と似たようなモノだね、人も結局は魔物や動物と同じなんだよ」
シオンは一抹のもの悲しさを憶える。しかし郷に入りては郷に従えとの言葉もあり、更にはベローズと組合長の経験に沿った言葉は重要だ。シオンは顔をピシャリと両手で挟むように一喝する。
「この後はお任せします。ではこれで失礼しますね」
ペコリと一礼をし冒険者組合を後にする。日が高い内のスクリスをベローズが珍しい物を見るかのように視線を彷徨わせ、店舗を冷やかしながら宿へと帰りつく。
「シオン、冒険者の奴隷落ちを気にしてるのかい?」
「そうですね、僕の故郷では人の命は凄く尊重されていましたから。それこそ犯罪者でも。でも組合長さんやベローズさんの言う事もよく分かるんですよ」
「シオンには慣れが必要なのだわ」
「そうですね。あ、そうだ、イリスさん、僕はエモトシオンです。異世界からやってきました」
イリスに対してシオンの本当の自己紹介。その自己紹介に対しイリスは動きをピタリと停止させる。シオンはイリスの詳細を、イリスはシオンの詳細をよく知らないのだ。
「シオン様、異世界……トハ、もしや地球の事では?」
一同がこのイリスの言葉にギョッとする。
「イリスさんは地球、日本の事を知っているんですか?」
「奥様とベローズ様には伝ワリにくいのですガ、当機の創造主は西暦2467年の日本新国の首都岡京出身者デス。そして当機は運搬を主目的トシタ、ホムンクルスC型108番でごぜます」
ニーア、ベローズはイリスの言葉にほぼ無反応と言うよりはキョトンとしている。そしてシオンは頭にクエスチョンマークが並んでいた。
「……日本、新国……?ですか。首都は東京ではなく?」
「ハイ、創造主は歴史の事ハ詳しくないらしく、大雑把に2371年に遷都ガ行われたと。遷都の理由はトある国同士の戦争が故」
「僕は2018年にこっちに来たのですが」
「申し訳アリません。2018年の事はデータ不足でごぜます」
「シオン、わらわ達にも詳しく説明して欲しいのかしら」
「……簡単に説明すると出身国は恐らく僕と同じ……だと思います。そして僕よりも400年以上未来の……多分日本人がこのイリスさん、ホムンク……人造人間?を作ったらしいんです」
シオンの説明はしどろもどろで行われる。イリスの言う「創造主」が果たして本当に日本人かどうかもすでに疑わしいので当然と言えば当然。更にシオンから見れば400年も先の未来から自分よりも過去に人が送られていたのだ。あくまで西暦を元に換算すれば、の話だが。
そしてイリスの言動から推察するに、スクリスの発展やイーギルの調理法などはその「創造主」が幾分関係してると見て取れる、しかし確証はない。
「結局の所、僕にもよく分からないんです。ホムンクルスと言う物は大昔の物語上に存在するモノなんです、あくまで僕の基準では」
「ハイ、ホムンクルスとは便宜上の名目デいわゆる錬金術的な名称のホムンクルスではありません。しかし我々は2400年代より人口減少を食い止メルため、かつ防衛戦力として機能させるために作りあげラレたでごぜます」
シオンは体を横に曲げ、何かしら苦しい表情を作る。これは心境として暗澹とした未来を見せつけられているからだ。しかもその原因がどこの国かが明確になっていないし、その原因を知ったところで伝える術がない。伝える術があったとしても眉唾として片づけられる物事になるだろう。
つまりどうしようもない。
「シオン、傾いてるよ。よく分からない単語だらけだけど結局は戻る事は出来ないし、ここで生きていくしかないんだよね?ならそれで良いじゃないか」
「結論としてはそうなるのだわ。シオンには悪いけれど意味のない事で苦しむ必要はないのよ。イリス、それで問題はあるかしら?」
「ベローズ様、問題ござりましぇん。シオン様におかれましても始まってもいない物事で悩む意味は無いと存じます」
現代の日本人が昔の戦争に頭を悩ませても意味が無いように、シオンも自分自身がどうにも出来ない未来を案じても意味が無い。今生きている「ここ」で悩み苦しむだけで十分なのだ。
「そうですね。今をどうするかに集中した方が建設的ですね……気を取り直して、現在の目標は一軒家を購入する事。まだ稼がないと購入できないのが現状です」
目標を見つめなおす。偶然かはたまた運命か、未来より来る贈り物にシオンはつまずきかけるが何とか持ち直した。こんな言葉がある、過ぎ去った過去を悔やむより、未だ来ぬ未来を憂うより、現在を足掻く事こそが自らを助ける、と。
目的意識の共有により4人は連帯感を強め、ここより再スタートが始まる。
一応ここで一区切り。
作中の「岡京」は岡山県の事ですw




