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第37話 脱出

 赤い瞳、薄桃色の髪を持つやや肉付きの薄い女性が目を醒ます。体のいたる場所に点滴のような管を刺されて痛々しく見えるものの、過去にシオンが作っていたような青黒い痣のようにはなっていない。


 その女性はボンヤリとシオンを見つめると、ふらつきながらも立ち上がろうとする。その行動で体に刺さっていた管がスルスルと抜け落ちた、その個所から赤い血が滲むも完全に立ち上がり周りを見渡す。


 「貴方がマスター……?シオン様でよろシイ?」


 シオンは真っ赤になりながら顔を左手で隠し、ミーロから剥ぎ取った衣服を慌てて女性に差し出している。女性は長い髪が体に張り付いているが堂々と全裸をシオンの前に晒しているのだ。シオンはこの女性を最初は死体か何かだと思っていたので平気だったが、一瞬の内に蘇生してしまったので今では慌てて衣服を渡そうとしている。


 しかしその衣服はミーロの血液がベッタリと付着している、そんな所までシオンは気が回らなかった。


 「合ってますけど様を付けられるような身分でもないし、とりあえず服を着てくれませんか」


 女性はその服を手に取り血のシミの部分に視線を送っている。


 「これを着ればよろシイか?」


 そしてその服を手に取るとパッとどこかに消え去ってしまう。シオンはその瞬間を目撃していないが1秒かからない間に再度その服が女性の手に現れた。一度消え去った服には血のシミが跡形も無く、新品のようになっている。


 「シオン様、着がえ完了シタ。次の指令ヲ」


 シオンはソロリと女性の姿を見やる。当面を凌ぐためだけの衣服のつもりだったがシオンの目には何故かサイズがピタリと合っているように見えた。所々にあった血のシミが消えている事にも気が付き訝しむ。


 「血のシミとかがあったと思うんですが……それに服の大きさも合っているような」


 「血のシミは洗浄シタ、サイズはその際に合わせまシタ」


 シオンの頭にはクエスチョンマークが並ぶ。女性はその顔を見て手をシオンの方に突き出した。その手には赤黒い小さなキューブ状の何かが乗っている。シオンはそれを摘み上げるとやはりよく分からない表情で眺める。


 「血のシミをキューブ状に固めタ物デス。廃棄品としての扱いを推奨」


 「それは一体どうやって……」とシオンは言いかけるが分類上どうでも良い事になるその問いを飲み込む。今はここを脱出するエレベーターに乗り込む事が最優先だろうと決める。しかしその前に質問すべき事はある、基本的な事だ。


 「あなたの名前は何て言うんでしょうか?」


 「形式番号FS-H108C、通称はイリスァーレ申しマス」


 「イリサーレさん?」


 「ノンノン。イリスァーレござます」


 「……イリスァーレ、さん。言いにくいんでイリスさんでも良いですか?」


 イリスァーレはシオンの言葉に素直に頷く。「スァ」の辺りに独特なイントネーションがあり、その部分が何となくシオンに発音し辛いようで、言いやすいイリスと呼び名を改める。


 そして割と重要な事がもう1つ。


 「あの、外の通路に人の死体があるんで、それを片付けてから脱出しようと思っているんですよ。……手伝ってもらっていいですか?」


 「……位置を把握。死体は放ってオイて問題ナイ、1日経てばナノマシンが分解して有効利用シマス」


 何気にサラリとSF気味な名称が出たがそれをシオンは捉えきれてない。TV番組ではそもそもSF作品が少なく「ナノマシン」などと言われたところでそれが何を指しているのか理解の範疇には無いのだ。せいぜいが〇ンバのようなお掃除ロボみたいなのがあるのかな?ぐらいの認識である。そして更にツッコミを入れるとしたら「有効利用」の方だろう。


 ともかくまずは脱出を図ろうとエレベータに移動しようと言う事になった。


 「色々聞きたいことが沢山、と言うかありすぎてどこから話せば良いか分からないんで、落ち着いた後で聞きますね」


 「YES、古典では3サイズの質問が妥当とのアンサーがありますがイカガいたします?」


 シオン、これを無視してエレベータの到着を待つ。別に自爆装置が作動していたりするワケではないので落ち着いたものであった。


 エレベーターが到着するも到着時のベル音は鳴らず、ただ扉が開くだけの使用だった。それに2人は乗り込み地上1階へのボタンを押す。


 「あの、イリスさん。僕には今、家族に近しい人が2人程いるんですがその人達とも仲良くしてくれますか」


 「問題ナイ。当機はシオン様の命令に従うごぜます」


 エレベータの上昇による重力が全身にかかり気だるい感覚がシオンを襲う。何気に初めての経験で少々フラついた。


 落とし穴に落ちてから数時間が経つ、恐らく外はもう明け方になるだろう。下手をするともう半日あまりはこの神殿に待機して夕方スクリスを目指す事になるかも知れない。しかし妙に長く感じた地下施設探索も終わってみれば不思議な出会いで締めくくられ、残るはニーアとベローズの無事な事を祈るだけとなる。


 「……」


 「……」


 2人はエレベーターの階数表示のアラビア数字が少なくなっていくのを無言で眺めている。シオンの心境は、知り合ったばかりで押しが弱いから何を話せば良いか分からないので気まずい。そしてイリスの方は完全な無表情でその思考の方向は読み取れない。


 シオンだけが感じる気まずさはどうにか1階へ出る事によって雲散霧消される。


 「シオン様、1つお願いがアル。地下の事はみだりに話さないデ欲しい」


 「……なぜでしょうか?」

 

 「この世界にトッテ危険なモノがある、アル程度理解のある人以外は黙ってて欲しい。それが設立者の願い」


 イリスの言う「危険な物」の程度がどのぐらいのモノか計り知れないがシオンは頷く。


 エレベーターの扉は開き、そこから朝日が薄く射しこんで来る。周りはガレキだらけで、そこは神殿部分の裏手あたりだった。シオンはキョロキョロと周りを見渡しニーアとベローズの居所を探る。


 「シオン!シオンッ!」


 ニオイでシオンの居所を探り当てたのか先にニーアにお迎えをされた。そのニーアの拳と革鎧は何故か血まみれで、走って来る奥をよく見ると散々に殴られ、蹴られたミーロ等一団の姿があった。


 何はともあれこうして無事地上へと戻る事が出来た。


まあ普通に人造人間……ホムンクルス……そんな所ですw

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