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第32話 悪辣

 内陸にある都市に居を構え地盤を固める事を方針とした時から2日経つ。夜間に魔物討伐や食糧確保などをこなし滑り出しは順調。ベローズはすでにスクリスでは有名な部類であり、シオンとニーアも徐々に名前を憶えられてきている。


 特にシオンの名前の覚えられ方は独特で、初見はほぼ必ず女の事間違われる。そしてその後にこれも必ずニーアとベローズのツッコミが入るのだが、その証拠らしい証拠は見せる事は出来ないと突っ撥ねる事により一層「女の子」ではないかとの噂が立つ始末である。


 密やかに、ごく一部に囁かれるシオンの通り名は「男の娘シオン」中には「男でも良いじゃないか」との剛の者までが現れシオンの身の危険は僅かながら上昇する。


 「……そんな事を良い寄って来る野郎がいたら遠慮なく全力で殴るんだよシオン。なんなら私が先だって始末しても良いんだ、ニオイで大体の目星は付いてるからね」


 「まだ何かの犯行にまで及んでないのでそれはちょっと……」


 「もし声をかけられたら最低でも美青年を選ぶのだわ、汚いオッサンだけは絶対ダメなのよ」


 「ベローズ、汚いオッサンも美青年もそこ等に変わりは無いんじゃないかな」


 「全く違うのだわ!」


 何かを拗らせに拗らせたようなセリフを血反吐を吐く表情で訴えるベローズだがニーアにはあまり理解されなかった。


 篝火がパチパチと爆ぜ、火の粉は宙に舞う。空にはいつものように2つの月がポッカリと浮かび、風は無く、明日の天気も晴れるだろうとの予報を告げている。3人は冒険者組合のオープンテラスで本日は休暇と定め食事をしていた。


 「話を戻すけどさ、そこそこお金も貯まって来たように思えるけどまだ要るのかな?」


 「まだ要るのだわ、いきなり住居を購入したりしないけれどもう少し無いと不便なのよ」


 「ベローズさんの言う家ってどれぐらいの規模なんでしょうか?ルワンにあるニーアさんの家ぐらいですか?」


 テーブルの上に腕を乗せ、指を組みベローズは少しだけ考える。


 「大きな屋敷とまではいかなくてもいいのだわ。出来るなら家政婦を雇って住まわせるのも可能な程度の大きさかしら」


 シオンとニーアは「それってかなり大きい部類じゃ……」と思ったりしたが結局は黙って聞くことにした。叶う叶わないは別として夢や目標はある程度大きな方が良いのだ。


 「ねぇねぇ、アンタ等最近名前が売れて来てる人達だよねー?」


 声をかけられた。シオン等3人はその声の方向に振り向くとそこには依頼が終わった直後なのか、薄汚れた革鎧に身を包み茶色のボサボサ頭の女性がいた。ニーアとベローズはその女性の胸部装甲に目線をやる、するとたちまち眉間にシワが寄り「ベァッ!」と何かを吐き捨てそうな顔をする。


 「……ご用件は何かしら」


 「アナタの事は知ってるよー、ベローズさんでしょう。用件はねー、明日一緒に依頼をこなさないかなーって思ってさ。どうかな?」


 「依頼の内容によるね、どんな事をするんだい?おねーさん」


 「依頼内容はねー、ここの近くの森の中にある古代遺跡の調査なんだー。アタシ等か弱い女3人組だから魔物とかに囲まれると手こずるからさ、護衛みたいな感じでどうかなー?報酬は出来高で」


 革鎧を纏った女性の後ろで2人の女性冒険者が手を振っている。この2人も薄汚れた格好をしていて槍と弓を背負っていた。


 「このスクリスの近くだったらもうすでに調査され尽くしてるんじゃないでしょうか?」


 「お、キミがシオン君だねー。調査はされ尽くしていたんだけど最近になって新しい場所が発見されたんだー、それの調査をアタシ等が請け負ってるんだよ。あ、自己紹介が遅れたね、アタシはミーロ・ニムバねーよろしく」


 ミーロと言う名の冒険者は軽く右手を上げて挨拶をする、シオンはそれに合わせ座ったまま軽く頭を下げて返す。ミーロ等3人は人間の冒険者の一団で、自分たちの経歴を簡単に説明しながら何とか依頼の手伝いをしてもらおうと身振り手振りで話しかける。


 「ねえ、ミーロ。そこら辺にいる冒険者にはその話を持って行かないのかしら?わらわは吸血族だから夜間にしか動けないのを承知で言ってるのよね」


 「勿論知ってるし、話も持ちかけたんだー。でもダメだったからこうしてお願いしてるんだよ。ワグリズも倒して見せた腕のある冒険者と見込んでの事なんだよー」


 ベローズは「ふむ」と一言漏らし、目をつぶって小考する。その短い間に篝火がガラリと崩れ、シオンとニーアはそちらにチラリと目線を向けた。


 「……一度宿に持って帰ってこの2人と相談してもいいかしら?返事は昼になったらここへシオンとニーアを使わすのだわ」


 「あー、それで良いよ。考えてくれるだけでも十分さ、出来るなら良い返事を利かせてもらいたいんだけどねー」


 「ベローズ、本当にいいのかい?」


 「シオン、ニーア、お腹はいっぱいになったかしら?言った通り宿に持ち帰って作戦会議をするのだわ!」


 ベローズの発言にミーロは喜色満面で「おお!」と呟く。そして席を立ち、いつも寝泊まりしている宿「雁の巣」へと踵を返した。その背中へミーロが手を振り「良い返事待ってるよー」と声をかける。




 「ベローズ、どう言う事なんだい?」


 「あらニーア、わらわちゃんと作戦会議をするって言ったのかしら」


 シオン等は宿屋に帰りつくとすぐに席に着き、先ほどのミーロの話を始める。


 「アイツ等私を普通の人間と勘違いしてるから気が付かなかったんだろうけど、ウソを吐いてるニオイがプンプンしてたんだよ」


 「え?そうだったんですか」


 「わらわ、ニオイで判断出来ないけれど人間は他人を騙そうとする時にあるクセが出るのだわ、絶対に目を逸らそうとしないクセが。シオン、憶えておくのだわ」


 「ああ、分かってて作戦会議だったのか。安心したよ」


 「で、勿論作戦会議の内容はミーロ達3人をどう料理するかなのよィヒ、ィヒ……」


 「どう騙してくるかの内容にもよるけど、あの乳はもぎ取った方が人のためになるね、間違いなく」


 「同感なのよニーア」


 「もうちょっと穏便な事で済ませるワケにはいかないんでしょうか……」


 昼夜逆転の生活をしている3人はミーロ等3人の処遇を如何にするかで夜通し話をする。悪辣には上がいる、それも際限ないほどに。


 そしてシオンは骨身にしみて理解する、女性ほどエグいと。

 

人を騙そうとしたり、自分の意のままに操ろうとする人は本当に目を逸らさなくなりますよw

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