第31話 目標
宿屋にて。
「まだ温かい内に食べるイーギルの柔らかさは良い物なのだわ。わらわも最初は気持ち悪いと思っていたのよ、でもこの味を憶えたらあの黒くてツヤツヤしたたくましい姿がもう……」
はむはむとイーギルの白焼きを頬張るベローズ。そしてその感想を聞いているシオンとニーアだが2人共に何かしら意味合いが違って聞こえていそうな表情だ。
「で、紙のお金の事なのよ。シオン、もしわらわが国側の者だとしたら何かしらの手を使ってシオンを捕らえるのだわ。そして鎖で繋いで地下牢でィ、ィヒ、ィヒ……洗いざらい情報を吐かせるのかしら」
「途中の鎖で繋いでのくだりを詳しく話してくれるかなベローズ」
ベローズはシオンの目の前でニーアに耳打ちをする。それを聞きながらニーアは「ほう。ほう!なるほど!」とニチャニチャ笑いながら膝を打った。
「あ、あの……話を戻すのは可能でしょうか?」
いたたまれない気持ちを抑えシオンは何とか話を戻すべく気持ちの悪い笑みを浮かべる2人に訴えかける。
「どうやら話が逸れてたみたいなのだわ。紙のお金、それは恐らく証書が元のモノになるなのよ。その証書を民間にも使えるよう工夫した物が紙のお金、シオンの言う紙幣だと思うのかしら。しかも羊皮紙ではなく草木で作られた紙なのだわ、ここまでが前提」
真剣味を幾分取り戻したベローズの言葉にシオンは頷く。そしてそれを確認した後、ベローズは話を続ける。
「仮にわらわが吐かせようとする情報はどうやって大量の絵を描くかと言う方法。そして防犯の案。まだ他にもありそうだから地下牢に繋いだまま生活をさせるのだわ。なのでシオン、他の者には喋ったらダメなのよ」
シオンはゴクリと生唾を飲み込む。ベローズの言葉と雰囲気が次第に重く沈み、能面のように表情が動かなくなってきたからだ。それほど真剣に仮定を話している。
「国がらみだとそこまでやるのかい?もっとこう……友好的に扱うとかは無いのかな」
「ニーア、甘いのだわ。国全体の発展のために1人の犠牲で済むのならば国は大喜びで非道を行うのよ。それがこの国の民ではないどこかの世界から来た異世界人ならばなおさらなのだわ。ルワンの村の外で獲物を仕留めてその肉を村人に分け与えるのと意味合いは一緒なのよ」
ベローズの言葉にニーアは少なからず納得をする。有益な情報を引き出すために捕らえるのも当然、そして逃げる可能性、他国へと渡ってしまう可能性を考えると情報を吐き出させた後処理される可能性までが見えて来る。
これは他国から少なからず流入してくる外国人だとそうはならないだろう。せいぜいが市井に有益な効果をもたらす発明をしたならば、それを取り上げられるだけで済む。しかしシオンの場合はどうだろう「異世界」と言うこの世界ではない場所から偶然来てしまったイレギュラーな存在。たまたまそんな存在を、力を持つ国が発見したならばベローズの言う通りになってしまう可能性は高い。
「結論としてシオンがわらわの所までその案件を持って来たのは正解なのだわ。そしてシオンに質問があるのだけれど」
「何でしょうか?」
「その紙幣の事をわらわに説明すると時間はかかるけど生産出来るようになるのだわ。シオンはどうしたい?なのよ」
ベローズの質問はある種イジワルな質問ではある。仮に紙幣の製造方法を事細かに伝えたところでシオンに何の得もないのだ。国全体として見るならば驚くほどの進歩を見せるだろう。しかし背景、地盤を持たぬシオン個人にとって得られるものは何も無いならまだマシで、下手をするとベローズから辿られシオンの身元に至る可能性までがある。
「そう、ですね……僕としてはベローズさんに伝えても構わないと思っています。そしてその事をどう使おうが自由だとも。でも全てを伝えられるワケじゃないですけどね」
「無欲こそが一番扱い辛いなのよ。シオン、出来るならばヒトと同じだけの欲望を持つ事を薦めるのだわ」
「ベローズはどんな決断をしたんだい?」
「ニーアの方針と変わらないのだわ。わらわ達以外に漏らさないのが良策なのよ」
時間はそろそろ夕方に差し掛かろうとしたところ。シオンのにわか知識も地盤が整わない限りは使わない方が無難という結論になる。それもそのはず、ベローズは本拠地に帰りさえすれば地盤は整っているがシオンとニーアの両名は仮宿暮らしの宙ぶらりん。ルワンに帰りついたとしても吹けば飛ぶような掘っ立て小屋なのだ。
そしてとある理由によりベローズは本拠地に地盤を作りたいとは思っていない。更にはこの2人との良縁を手放してはいけないとも。
「今はまだ何も整っていない状態なのだわ、しばらくは大人しく魔物討伐をしながら情報と金銭を貯め込むのが優先事項なのよ」
「そうですね、学ぶべきことはまだ沢山ありますから」
「焦っちゃダメって事だね。それは分かるけどベローズの当面の目標は何になるんだい?」
「当面の目標は家を持つ事かしら。ここよりも内陸に都市があるからそこで地盤を固めるのが目標になるのよ」
「スクリスでも私にとっては都市みたいなもんなんだけどね。ここやベローズの故郷じゃダメなのかい?」
「ここはまだ規模的に小さい村なのよ、基礎を憶えるためにここを選んだけれどもっとヒトの多い場所があるのだわ。それとわらわの故郷はダメなのかしら、3方向を山岳に囲まれた場所なのよ。良い意味で山の幸豊かな場所、悪い意味でどん詰まりがわらわの故郷フォーナなのだわ」
吸血族の町、フォーナ。3方向を山岳に囲まれた場所に町がある理由は防衛のため。昼間に行動出来ない特性上、必然的にそう言った場所になるのは仕方がない。これがベローズの故郷に地盤を作りたくない理由。
「時期が来たら招待はするけれど、先を見据えるならそこではダメなのよ」
「前に言ってた野望って本気だったのかい?大望のある事は良い事だけどさ」
「半分は冗談に近いかしら?でも勢力拡大は本気なのだわ、それにはシオンとニーアが手放せない人材なのよ」
その言葉にシオンはよく分かっていない表情で、ニーアは少しくすぐったそうにモジモジしていた。そしてベローズはほくそ笑む「チョロい」と。
ベローズの故郷フォーナは山の恵みが豊富で木の実を搾った植物油が特産品ですw
村→町→都市の順に規模が大きくなりますw




