第29話 巨体有しモノ
冒険者組合で討伐報酬を受け取るためには登録ともう1つ必要な物事がある、討伐証明部位だ。例えばフェブリだと鼻になる。以前は左耳だったのだが戦闘中や慌てている時に混乱が生じ、右耳を持って組合に証明として納める事が多発。それを間違うといけないから1つしかない鼻で統一したというくだりがある。
そして討伐部位の剥ぎ取り方は自由だが個人の性格が分かり易く出る。ベローズは大ナタで雑にフェブリの鼻ごと下顎付きでもぎ取る事が多い。シオンは丁寧だがまだ慣れていない事もありキレイに切り取れる事は多くない。
「ニーアはもっと大雑把に切り取ると思ったのだけれど意外なのだわ、一番丁寧なのよ」
「獣成の時は引きちぎるんだけどね、力が有り余るんだよ」
「僕はもうちょっと慣れないといけないですね。どうにも感触が……」
今まで培ってきた経験からか討伐部位の切り取りはニーアが一番上手に行える、しかしキレイに切り取れたとしても報酬が変わる事は無い。
薄曇りの月明かりの下、地面には数体のフェブリの死骸が転がっている。そのどれもが鼻を切り取られ、まだ生暖かい血を流していた。金銭を得るためだとは言え残虐な行為ではあるが、フェブリ等魔物を討伐しなければヒト種に被害が出てしまうし、そういう決まりだから仕方がないと言えば仕方がない。
「ニーアさん、このフェブリの死骸なんですが出血部位を多くして他の魔物を血の匂いでおびき寄せるのはやっても良いんでしょうか?」
「そうだね、むしろそれをやるのが常套手段になるんじゃないかな」
「ニーア、それが出来るのは夜目が利いて体力があるわらわ達だけなのよ。常套手段ではないのだわ」
ヒョイとズダ袋に鼻を投げ入れながらの血なまぐさい呑気な会話。袋の中は下顎付きの鼻や普通に切り取られた鼻がそこそこに入っており、袋の外側にまで血が滴っている。
「ベローズはそう言うおびき寄せみたいな事はしないの?」
「わらわは敵中に堂々乗り込んで掻き回すのが好みなのよ。数の有利をひっくり返した時の魔物の表情がたまらないのだわ」
「ベローズさんの魔物討伐は仕事よりは趣味ですもんね」
シオンはそこそこに貯まったズダ袋の中身を確認するとベローズに尋ねてみる。
「これぐらいの数でどれぐらいのゼーンになるんですか?結構あるような気がするんですが」
「その数で昨日預けたのと同じぐらいの金額なのよ、ドノイス1頭の方が食べられる事もあってお金になるのだわ」
「今日は初日だしそろそろ帰らない?実感としてどんな金額になるか知りたいしね」
「そうだわね、少し暴れ足りないけれどニーアの言う事ももっとも。常に学ぼうとする姿勢は良い事なのよ」
コオロギのような虫の音を聞きながら帰りの準備を早々に始める一行。魔物の死骸を野ざらしのままにしておけば他の魔物がそれを食べに寄って来る、しかし燃やして死体処理をする用意をしていないので穴を掘って埋め、簡易的な処理を施すのがベローズの基本方針。掘り返されてもそれはそれで良いと考えている、後から追跡して手を施すのだ。
「これぐらい掘れば良いんじゃないかな。どんどん埋めてし……お?近づいて来る魔物がいるね、ニオイがするよ」
ニーアの言葉を聞き、シオンとベローズは警戒態勢を取る。
するとやや遠くの林の切れ間からノソリノソリと大型の4足歩行の魔物が見えて来た。ベローズと同じように夜間に光る眼を持つ魔物、自らに恐れるモノは無いと自負するかのような悠然たる歩み。雲に隠れていた月明かりがその魔物を照らしその全身を晒しだす。
「ニーアの鼻は便利なのだわ、アレで今日の締めくくりがキレイに決まるかしら」
「逃げると言う選択肢はありますか?ちょっと大きいような」
「シオンはもうちょっと自分に自信を持った方が良いかもね。どうする?ベローズがやるのかな?」
「無論わらわの出番なのよ、シオンとニーアは死体処理の続きか見物をしていればいいのだわ」
ズイ、と魔物に向かい遠慮なく歩きながらベローズは佩いていた大ナタを引き抜く。血の匂いに誘われたであろう魔物もそれを見ても悠然とした態度を崩す事は無い。
「シオン、あの魔物の名前はワグリズだよ。胴体の毛皮が布団になったり外套になったりするやつだね、でも倒すのはそう簡単にいかない魔物だよ」
「大きい毛皮だと思ってましたが実物がアレですか」
体長としてベローズの1・5倍、横幅3倍超はあろうかと言う体格。額から鼻にかけて分厚くなった剛毛と骨が、兜で言う所の鼻当てのように変質している。更に肩から手の甲にかけて同じように変質したまるで簡易的な鎧のようになっていて正面からの攻撃はとても効きそうにない。
シオンは息をのむ、ベローズを信頼していないワケではないがあまりにも身長差と体重差があり過ぎるように思っている。一瞬、ザワリと変身した時と同じような感覚がその身に宿った。だがそれをどうしていいのかが分からない。
「シオン、落ち着いてわらわの事を見ていると良いのだわ、相手はただ大きいだけ、解体の仕方の参考程度のモノなのよ」
熊のような外見の魔物、ワグリズは立ち上がる。この行動は自分を相手より大きく見せる威嚇の一種。逃げ出すなら背中を追い、立ち向かってくるならば一撃をお見舞いするとの意思。マトモな冒険者ならば正面を向きつつ武器を構えてゆっくりと刺激しないよう後退るだろう、それが許されるのならば。
しかしベローズは無人の荒野を行くが如くに一歩、また一歩と距離を詰めた。
「ヴォオオオオッ!!」
近づいて来るベローズの姿を確認し、興奮してヨダレをまき散らしながら天に向かってワグリズは吼える。魔物、ワグリズにとっては最後通告、そしてベローズにとっては単純に始まりの合図。
最後通告は聞き届けられないとの判断でワグリズは右手を振り下ろす。鋭い爪、ベローズの腿の太さはあろうかという腕は唸りを上げてベローズの頭上に打ちおろされる。
頭上を掠めさせ、かいくぐり、ベローズは飛び込むようにワグリズの懐へと侵入を果たす。その勢いを余すこと無く股下へと滑り込み潜り抜け、同時に体を半回転させアキレス腱へと大ナタを見舞った。
「ゴォアッ!!」
ベローズの振るう大ナタはアッサリとワグリズの右アキレス健を切断。その効果でバランスを崩し、地面にドウと倒れ込む。
「大きいのなら地面に倒してしまえば問題ないのだわ、このように」
ワグリズは立ち上がり再度攻撃をしようとするもやはり踏ん張りが利かずに地面を転げ、のたうち回る。
「更に生き物である以上鍛えられない個所は沢山あるのよ……例えば、目玉アッ!」
容赦なくベローズはのたうち回るワグリズの顔面に狙いをつけ、大ナタを降り下すと先端が宣告通り左眼球に食い込んだ。当然、眼漿と血液が飛び散り月の光にキラキラと反射する。ベローズの表情は嗜虐的な表情に歪み、哄笑が漏れ出す。
「ィヒッ!ィヒハハッ!潰れた!目玉潰れたァッ!!」
狂乱。痛みに、怒りに、恐怖にのたうち狂乱するワグリズ。喜悦に、手ごたえに、鉄サビの匂いに狂乱するベローズ。互いにグネグネと見悶え、方向性は違えども奇妙な舞踊を月下に踊る。
ワグリズはこれは堪らないと這う這うの体で、足を引きずりながら逃げ出そうと動いた。しかしベローズはそれを見逃すはずも無くゆっくりと歩きながら左アキレス腱へと追撃。
「ギャアンッ!」
「逃ぃがさない、でぇもォ、振りほどけたら逃げてもイイのだわぁ」
ベローズはワグリズの背中に飛び乗った。言葉は通じてはいないがそれを懸命に振り落とそうとワグリスは暴れ回る。だが、ベローズは直立したままピタリとその位置から離れる事はなかった。
「無限平……」
「ベローズさん怖いですね」
哄笑を上げながらトドメをベローズが降り下す。両手で思い切り振った大ナタはドガリと音を上げワグリスの頸動脈へと吸い込まれる。それを、何度も、何度も、何度も!
やがてワグリズの頭部は体から離れて転がり落ちた、それをベローズが鷲掴みにして掲げる。切断部分から血液がボタボタと垂れているが気にする素振りも見せないまま今夜の狩は終わった。
他の吸血族は割と普通に戦うのですが、ベローズはこんな感じですw




