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第21話 戦場、その名は食卓

 「異世界人ってのをベローズは聞いた事があるかな?」


 「初耳なのだわ。シオンの事……かしら」


 「正解。私もよく分かってはいないんだよ、旅をしているベローズなら知ってるかと思ったんだけどね」


 砂エビと魚介の水煮。作り方はまず砂エビの頭をもぎ取り、殻ごと真っ二つにして直火で焼く。同時にぶつ切りにした小魚も並行して直火で炙る。殻と頭が赤く色づいたら頃合いを見て魚も一緒に火から上げ、別皿に取り分けておく。半生あたりに仕上げるのがコツ。


 鍋の中に水を入れ、それが沸騰してきた所で貝類、焼いた砂エビと小魚を豪快にブチ込んで煮る。味付けは塩のみ、出来上がりに村の畑で採れた葉野菜を散らす。


 地球で言う所のアクアパッツァに近しい感じの料理、フツフツと土で出来た保温性の高い鍋から湯気と共に良い匂いが立ち上る。エビのミソ、魚と貝類のダシ、僅かな脂分がエビの殻の赤みを吸い取り紅玉のような照りを出す。


 その鍋、名も無き魚介の焼き水煮を3人で取り分け、突きながらシオンの秘密について詳しく喋る。


 「で、私は先祖返りっていうのかな、獣成ってモノだよ」


 「獣成は聞いた事があるのだわ、でも直に見るのは初めてなのよ。エビが豪快かつ繊細な味に仕上がっているのだわ。他には?」


 「うん、ザっとここまでが前提だね。次に、シオンは多分だけど狙われている。シオン、おかわりは?」


 「あ、おねがいします。貝も魚も凄く美味しいです」


 未だ香気豊かな湯気を上げる鍋の中身をシオンに取り分ける。木製のお玉に少しだけ白濁したスープと魚介がこんもりと盛られシオンの皿へ。


 「狙われている?わらわのシオンに何と不埒な。ニーア、その者等の詳細は掴んでいるのかしら?」


 「残念ながら詳細は分からない、倒したらドロドロに融けたんだよ。そして聞き捨てならないのは、シオンはベローズのじゃなくて私のシオンって事なんだけどね」


 「僕は僕だけのモノじゃダメなんでしょうか?」


 「ダメだよ」


 「ダメなのだわ」


 夕日に早くも虫の声が聞こえて来た。ニーア宅の食事の席にも微妙に暗雲のような物が立ち込め、哀れシオンの意見は一蹴される。しかし食事は続く。


 「ニーア、融けるって意味がよく分からないかしら。わらわ、あらゆる魔物も人も切った事はあるけど……融けた事は一度も無いのだわ。シオン、ほっぺに付いてる、取ってあげるかしら」


 ベローズはシオンの頬に付いた赤い油を指でぬぐい取り、シオンの目を見つめながらその指をペロリと舐める、赤く、ヌロリと湿った舌を見せつけるようにゆっくりと。


 その瞬間ニーアとベローズの視線が交わり、まさに火花が散ったようなチリチリとした空気になる。互いのコメカミに血管が浮き出て見えるのは恐らく錯覚であろう。


 「で、だね。要点を簡単に纏めるとベローズにはシオンの事を黙ってて欲しいんだよ。私達が聞いたことの無い知識をシオンは持っているんだ。シオン、今日はよく働いたから私がシオンの体を隅々まで拭いてあげるね」


 「なぁっ、ぐっ!す、隅々までッ……!?……シオンの事は秘密にすると誓うのだわ。わらわも聞いたことの無い知識は価値があり同時に危険なモノであるのは認識しているかしら。シオンの……どこまで、その……拭くのかしら」


 ニタリと意味ありげにニーアが笑う。一日の長、それは果てしなく巨大なアドバンテージがあり、その差を埋めるべきは最早知恵と勇気、冒険心と僅かな蛮勇ではなかろうか。ツツ、とベローズの頬を冷や汗が一筋流れる。戦いの旅に出て長いベローズの強靭な精神、心胆を寒からしめんとするニーアの口撃。ベローズは心の底で震えた、ニーア恐るべし、と。


 「あ、あの、僕は自分で体を拭くんで大丈夫ですよ?」


 「ダメだよ」


 「ダメなのだわ」


 シオンはこう思った。これが、釣り堀に投げ込まれた餌の気持ちなのだ、と。しかし食事はまだまだ続く。


 「他にシオンの事だと、そのドロドロに融けた……怪人って私等は呼んでるんだけどさ、その怪人と似てるんだよ何となく」


 「シオンが、かいじん?に似ている?それはどんな意味なのかしら」


 「私の獣成みたいに姿が変わるんだけどね、その怪人はカニみたいな甲羅に覆われた姿だった。そしてシオンはハチに似た姿になるんだよ」


 「よく分からないですが、今はその姿になれませんけどね」


 ベローズはうむむと唸り、目をつぶって考えを纏める。


 「つまり確証は無い、けれどシオンは狙われている、そしてそのかいじんと同様姿を変えられる、その姿形が何となく似ている、これで合ってるのかしら」


 「概ねそんな感じだね」


 「無茶苦茶にも聞こえるけど、結局はそのかいじんを捕まえて吐かせれば良いのだわ。何かしらの類似点が感じられるなら恐らく組織立って複数人で行動してるはずなのよ」


 「ベローズも捕まえるって結論なんだね」


 鍋の中身はいつの間にか無くなっており、白湯をズズと飲みながら落ち着きを取り戻しての会話。シオンは手を合わせた後、ニーアに向かって軽い一礼、ニーアもそれに倣い同じ行動をする。それを何とも不思議そうにベローズが見守っていた。


 「分かったのだわ。脅威度としてはまだ分からないけど、シオンを攫われでもしたら困るから協力もするなのよ」


 「うん、ありがたいね」


 「じゃあわらわも1つ見せるのだわ。大したモノじゃないけど魔法なのよ」


 その言葉と同時にベローズは立ち上がり、壁に向かって歩く。そのまま壁に足をかけると直立した。両足は壁に付いていて地面には無い。


 「魔法の名前は無限平、水の上は歩けないけど壁面も天井も平地と同じ要領で歩けるのだわ」


 「むげんたいら、凄いですね。これってどこにでも侵入出来そうですね」


 「魔法って初めて見るけど不思議だね」


 そのままスタスタと家の中を縦に一周して元の席に戻る。そこはかとなくドヤ顔をしていているのは気のせいに違いない。


 「侵入するのもそうだけど、それ以外にも使えたりするのだわ」


 誰も気が付いてはいないがもう1つの不思議が無限平にはあった。ベローズが家の中を一周した際、スカートと髪が重力に引っ張られていない事だ。


 そしてその事に気が付かないまでもニーアは瞬時に悟る、土足厳禁と家の壁に書いておかなければ、と。そうして今日と言う1日を終えた。

 

無限平、ベローズ本人、僅かな周囲のみ作用する魔法です、仮にシオンを抱えて家の中を一周するとシオンは重力に引っ張られますw


ちなみに火の玉ボボンボーン、みたいな魔法はありませんw

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