第17話 月光舞踊
時間的にはすでに夕方、シオンとニーアは隣村のセイノカへと到着している。ニーアの予想通り討伐隊が編成され、協議の結果夜襲が選択された。概ねニーアが言った通りになり、それをシオンが憧れの目でニーアを見つめる事となる。
ニーアは「どうだい?おねーさんの予想は当たるんだよ」とドヤ顔を披露してさらに続けた「私の予想ではシオンはこのニーアおねーさんにズルズルのベタ惚れになって幸せな家庭を築くね、確実に!」と!これを聞いていたセイノカの村人は指笛をヒュー!と鳴らし、シオンは真っ赤になりながらニーアの背中に隠れる。セイノカの住人はノリが良い。
「ではニーアちゃんに討伐隊の内訳を説明しとくよ、俺等は合計20人で弓と槍で戦う事になる。少なく見えるかもだがセイノカの防衛を考えるとこれで限界だ」
「その為の夜襲じゃないか、それにセイノカが落とされたらこっちも困るからね。なに、私とシオンが前に出るから打ち漏らしを無くしてくれればそれで良いよ」
「シオン君が活躍したのは前に見たけど……その、なあ」
「シオンは強いよ、もしかしたら私も敵わないかも知れない」
「ええ……!?」
シオンはまだニーアの背中に隠れてモジモジしている、その姿を見てからの印象を村人は話している。華奢で一見女の子風にしか見えない、しかし未知数ではある物のシオンにはニーアの獣成と同等かそれ以上の力があるのだ。
村人の装備は20人全員が革鎧を装着し、腰にナタ、槍、弓と万全に近い装備具合。対するシオンとニーアは革鎧に剣ナタと弓。これには理由があり、ニーアの場合獣成になれば膂力が強すぎて剣ナタが壊れてしまうと言う欠点がある。ニーアは恐らくシオンもそれに近いだろうと踏んでいて軽装をさせている。
「ニーアちゃんがそう言うなら……そうなのか。シオン君、頼りにしている。じゃあ出発しようか」
普通ならばここで景気づけに雄叫びを上げるのだろうが、今から行うのは夜襲。村人全員がその事を理解して、口を一文字に引き結び眼差し鋭く、夕日の射し込む森の中へと歩を進めた。村の出入り口には戦闘に赴かない老若男女が無言で手を振り、しかし誰も死んでくれるなと願いを込める。
シオンとニーアはその姿を目にし、心強さを胸にした。
「ニーアさん、どうやってフェブリの巣穴を見つけるんですか?」
「そうだね、アレを見て。まずは足跡を調べるんだよ、そして次はフェブリが出した糞や食べた植物の痕跡を探す。若い個体は経験が少ないからそこ等を処理せずに進むんだよ」
ニーアは討伐隊の先頭を指し、シオンに追跡方法を教え込む。
「粗方近づいたら私の鼻が大体の位置を探れるんだよ。そこで距離を計算して襲撃するんだ、重要なのは巣穴から離れているフェブリをキチンと始末する事だね」
「……情報を持って帰さないためですね」
「その通りだよ。今日は晴れてるから月明かりで地面がしっかり見えるだろうね」
気合十分、2人は先頭に立ち追跡方法の詳細を事細かに解説しながら現場へと歩いてゆく。途中、休憩を挿みつつ静かに、ソロリとその災禍の根を絶たんと討伐隊全員は気炎を静かに燃やす。
セイノカに攻めて来た若いフェブリの群れは30程だった、人間の軍隊はその国の約2%が軍人なり兵士なりの役職に就く、しかし魔物はそんな細かい事は気にせず、若い群れを巣穴から追い出しその群れで新しい領地、コロニーを築き上げるのだ。成功すれば倍々に、鼠算よろしくフェブリは増えてゆく、これが数の恐ろしい所で人間、魔族共々にフェブリを最も恐ろしい魔物だと想定している。
シオンにはまだ分からないがニーア以下、討伐隊は巣穴に生息しているフェブリの群れを最低90匹、最悪で150匹を予想している。
その最悪の予想の方で戦えない個体、病傷アリ、幼体等は約6割と睨んでいた。つまり単純計算でフェブリ60匹対セイノカ勢22の戦いとなる。数字的にはフェブリに圧倒されているものの、討伐隊にはニーアが参戦し、そのニーアが自分と同等と評したシオンがいる。
故に討伐隊の纏め役は十分どころかそれ以上の勝機アリだと確信に至っていた。
カサリ、と茂みを揺らしながら討伐隊は進む、空にはすでに2つの月が煌々と輝き森の中を照らす。月には雲がかかる、黒い影が大きく真の闇を作りあげ、虫は来訪者をささやかな歌声で歓迎する。
「ニオイがする、近いけど……何だろう。血のニオイ」
「血の匂い、ですか?」
「うん、さっきまではしなかったのに急に血の匂いが多くなっているよ」
「……魔物同士が争ってるとかでしょうか?」
「うーん……まだ何とも言えないね」
「ニーアちゃん、なら少しだけ急いで巣に近づいてみるか?魔物同士の戦いなら疲弊した所に弓を射かけよう」
異変が起こっている。しかしどちらにせよ討伐隊はフェブリの巣穴に襲撃ないし確認を行わなければならない。慎重だった歩調はやや急ぎ目に変わり現場へと急行する。
「原因はアレか、凄まじいね」
現場に急行した討伐隊の目撃したモノは屍山血河、死屍累々のフェブリの死骸。更にそこには1人、フェブリの頭をもぎ取り、引きちぎり、くるくると回りながらまるで踊り狂うかのように血塗れの人物がフェブリの群れに囲まれている。
その目は月の光より強く緑色に輝き、右手には何を切断するための物なのかと思うほどの両刃の大ナタ。血で染まっているが銀の髪、この場には似つかわしくない真っ黒のドレス。ケタケタと笑いながら大ナタをフェブリの頭に叩き込み、恐怖にうずくまったフェブリの頭を踏み潰す。血液が、脳漿が、目玉が飛び散り、それを全身に受けてはまた嗤う。
「臭い!臭いのよお前等の血は!ィヒハハッ!もっと流れるが良いのだわ!」
闇よりもドス黒い雰囲気を纏わせながらその赤に染まった黒銀の女性は舞う、魔物の屍に囲まれながら、魔物の憎悪に晒されながら、月光に照らされながら、地獄の舞を、その死の舞踊を。
頭のおかしい人を書くのは楽しいですよね(真顔)




