第13話 相互理解
「この村の近くに大きな巣があるね、これは」
「フェブリの、ですか?」
「うん、しかも武装具合がかなり充実したちょっと手ごわいヤツ」
宿泊施設での会話、魔物の一団を殲滅した後で食事をしつつニーアは自分の予想をシオンに話している。宿泊施設で出された食事は来客用の少しだけ豪華な材料で作られていた、イノシシのような魔物、メスのドノイスのアバラ付近の骨付き肉。その炙りが今日のメイン。
その見事な骨付きの炙りをシオンは目をキラキラさせて、ニーアの真似をしながら手掴みで豪快に齧り付く。
「襲撃ひようとか考えれまふ?」
「一時的に戦力は減ってると思うし、でもここの村人次第かな。私としては早めに叩いた方が良いと思ってるんだけどね。それとシオン、行儀悪いよ」
嚙り付いた肉を噛み千切ろうと首の力で持ち上げて引っ張る、ブチンと肉は千切れたが反動でシオンの頭はのけ反った。その姿をニーアがつぶさに観察しており、戦いの後でマトモに食事が出来る精神性を心の中で静かに褒める。
「シオンだったらどうやって巣を叩く?」
「僕ですか、そうですね……」
ニーアはシオンの思考回路を探ろうとよくこんな質問をする。大半が明後日の方向に伸びた回答を得られるが、それはそれで面白く、予想外の回答が出た時は妙な満足感で満たされるのだ。
「確か、フェブリは本来は昼行性ですよね、なら夜襲か朝駆けが基本的な戦略になりそうではあるんですが、どうでしょう?」
「そうだね、良い視点だと思うよ。もっと穿った言い方をするなら人間が嫌がる攻め方をするって所かな」
「……人質って効くんでしょうか?」
「お!中々エグい策を言うじゃないか、でもフェブリには効かないね。そこら辺は魔物の方の強みになるかな」
いつものTVからの知識、恐らくはサスペンス物の知識からだろう。しかし使えない方法だとしてもニーアはその発想を面白い物として受け止め、頭の片隅に留めておく。
時間が経ち、夕日は2つの月に入れ替わり、辺りには虫の声と涼しい風に包まれる。蝋燭の火を使う事も無く、その日は大人しくベッドで2人一緒に眠る事にした。
次の日は薄く曇った朝が来た、シオンとニーアは2人でこの村の村長宅へと訪問する。昨日のニーアの意見を一応だけ具申するためだ。
「そうだのう、わしもそうは思ってはいるんだけどな。30もこの村に押し寄せてくるんだからかなりの大規模な巣になるだろう」
「まあ、そうでしょうね。もし戦うなら私とこのシオンも一緒に参加しますよ」
「ありがたい事だ。しかし話を聞かせて準備する時間がかかるからニーアちゃん達は一度帰るべきだ、夜襲はもっともな話だね、十分に考慮しとくよ」
「んー、じゃあシオン、一度帰ろうかな。村長さん、事を起こすなら是非使いを下さいね」
戦闘参加の意思を隣村の村長に伝え、時間的なもので一度帰る事に決定し、村長宅を後にする。塩の代価として数枚の毛皮を受け取り、それを縄で巻いて2人で背負う。毛皮はドノイスの大きな毛皮で、これは布団や衣服、革鎧の材料として用いる事になる。
「シオン、帰ったらしっかりと準備しておこうか、きっと襲撃すると思うよ」
「カンですか?」
「いーや、それが自然の成り行きだからさ。この村の住人も十分に強者揃いだからヘタすると私達の出番が無くなるかもね」
「それはそれで良い事ですが、多分じゃなく死人が出ますよね」
「そうだね、でも放っておく方が死人が多くなるよ。だから私達も一緒に戦ってもっと死人を少なくしたらいいのさ」
「なるほど!」
非常に前向きのニーアに釣られシオンの方も脳筋な考えに同調してしまう。しかしその理論は正しく、駆除出来るならば早め早めの対処が功を奏すだろう。
この村の住人からすればニーアの参戦はとても有難く、頼りになるのだ。ニーアの村の住人は「人狼族」と呼ばれる索敵と追跡に特化した魔族で、更にニーアはその中でも特別に能力が高い、その事をこの村の住人は把握している。
その人狼族にも弱点はある、基本的に戦闘能力自体が低い。「獣成」であるニーアは例外だとして、基本としては他の戦闘能力のある他種族と組んでからその本領が発揮されるのだ。人体に例えるなら目と耳の役割を担う魔族の一種。
2人は隣村を出て無事に自宅へとたどり着く。時間も夕方になっており、その帰路で2匹のフェブリを討伐した。
「じゃあ隣村、セイノカの村は毛皮と燻製肉が交換品でこっち、ルワンの村が塩と塩漬けが物々交換の品なんですよね。じゃあお金ってどうなってるんですか?」
「お金は一応あるにはあるんだよ、ゼーンって名前のがね。でもここらまで商人が寄って来れないんだよ、だから
ここ、ルワンにもそれ自体があまり無いんだよ」
帰路の道中でシオンに村の名前だったり、村の特産品を教えてみるとシオンからは疑問が沢山飛び出て来て、家の中まで入っても質問は止まる事が無かった。
ニーアの家がある村が「ルワン」隣村が「セイノカ」お金の単位は「ゼーン」だが使い道があまり無いと言う事にシオンは何となくショックを受ける。
毛皮をテーブルに置いて、ニーアはベッドの隣の小さい引き出しからゼーン、お金の現物をシオンに見せる。見せた物は緑青やクスミがひどい銅貨と銀貨のような歪な円形の貨幣で、シオンはそれを摘んでジッと眺めている。
「汚れてるだろ、投げて暇つぶしに使うか……あと使い道が何かあったっけ?」
「僕の故郷は紙がお金だったりしますよ、このお金に似た感じのもあります」
「羊皮紙がお金になるの!?凄いねニホンのビョーインは、意味が分からないよ……」
「え、あ……え!?羊皮……え!?」
お金の話になり互いが互いによく分からない状況に陥り、2人共軽い混乱をしてしまう。最終的には落ち着いたものの2人はまだ相互理解が全く足りていない事を認識した。
地球上には現在、紙幣、硬貨の他にプラスチックマネーや電子マネーが存在するもシオンの知識はお金そのものに携わる関係のモノが全く無く、お金の本質とは形などでは無い別の物との説明は出来なかった。
ちなみにお金の本質とは「人を効率よく生産活動に従事させるためのアイテム」である。そしてその事をシオンもニーアも理解してはいない。
前途多難ですねw




