第12話 悲劇
金縛りと言う言葉を聞いた事はあるだろうか。あまりの光景を目にした時、受け入れがたい物事に直面した時、もしくはあまりの恐怖を体感した時、それは起こるモノ。体を動かそうにも動かない、思考が定まらない、圧倒的な「死」を目前にした魔物の一団はまさにそれに囚われていた。
変異したニーアが腕を振るえば血飛沫と共に魔物の、フェブリの頭が吹き飛び、腰が抜け、倒れたフェブリの腹部をニーアが踏めばその重量からフェブリの内臓が口からはみ出る。
不条理、理不尽、荒唐無稽。魔物の集団に暴力という名の嵐が吹き荒れる。フェブリ側からしたらまさにアホ臭いショーが始まっている。無論見物料は発生する、支払う対価は「命」それ1つのみ。
「ガアッ!!」
手あたり次第にニーアは腕を振るう。バヅン!と肉が千切れ飛ぶ音、今、フェブリ達の注目は村の防御壁から獣成のニーアへと変化している。
そのスキをシオンも見逃さなかった、視線の外に外れ、極力音が出ないように歯を食いしばりながらフェブリの首に剣ナタの一撃を放り込み、更に視界から外れるように慎重に動く。一瞬ですでに3分の1を始末し、人間の戦争を基準にすればこの集団はもはや瓦解、壊滅の判定をされているだろう。
魔物の一団の悲劇は更に加速する。
音も無く村の正面の門が開かれ、そこから雄叫びを上げながら槍を構えて突進してくる村人が多数。ニーアの咆哮を聞いた村人が今こそ防衛の好機と発奮したのである。
「シオンッ!もういい引くよっ!」
「はい!」
ニーアが退く理由は単純明快、村人の突撃にシオンが巻き込まれては堪らないからだ。もうすでに勝ち筋は確定しており戦功争いなど無意味で、僅かにでも怪我でもしようものなら一方的な損となるからだ。
金属製の穂先を備えた槍がフェブリを貫く、槍を振り上げ柄の部分で頭を叩けば遠心力の作用で頭蓋骨は陥没する、倒れたフェブリの生死確認のため、後方部隊は首を切り離し、大きな石で頭を砕き、戦場という地獄はまさにソコに広がっていた。
数体の我を取り戻したフェブリは逃げようと手持ちの石器の武器すら放り投げ、気が付いた順に敗走、しかしそれを逃がすまいとニーアとシオンが立ち塞がる。逃せば再度戦える個体が増えるゆえ、それは当然の行為。
裸同然の魔物、その頭がニーアの腕によりひしゃげる、シオンの剣ナタにより首が落ちる。魔物側からすれば惨劇、悲劇の類ではあろうがソレを自分等もやろうとしたのだ。だがその行為は仕返しや復讐のためではない、互いが互いに生存を賭けた生命対生命の闘争でしかない。
シオンはニーアにその事を散々聞かされている。シオンの持つTVの知識では賄う事が出来ない、現代日本のお茶の間に提供出来る情報はこんな血なまぐさい情報を提供など出来ないのだ。シオンはその事を理解する、生来の理解の早さかそれとも他のファクターかは分からない。しかしシオンは理解し体感したのだ、この残酷で美しく、醜悪で熱い生命溢れる世界を。
「勝鬨ィーッ!」
オオーッ!オオーッ!と村人が勝利の宣言を放つ。地面には死屍累々のフェブリが30体を超えて血だまりを作っていた、むせ返る死臭は風に乗り森の中へと消えてゆく。
ニーアは獣の姿を解いていて手を振りながら村人達に存在をアピール。この村の住人も魔族であり、肌の色、各種部位が普通の人間とは少々違う。
「おーい塩!持って来たよー!」
「おお、ニーアちゃん助かったよ。その子も活躍してたね、名前は?」
「ああ、シオンって言う私の家族さ!もう可愛くってさ、あげないよ」
「シオンと申します、よろしくおねがいします」
礼儀正しくペコリとお辞儀をする、ニーアと顔見知りの村人は片手を上げて挨拶を返す。
「女の子……?」
「それがさ、男なんだよ、カワイイのが付いてるよ」
シオンは顔を赤くして無言の抗議をニーアに送る。ともあれ非常事態には終止符が打たれ、シオンとニーアは村の中へと案内された。時刻はもうすぐ夕日が沈み切り、そこら中には夜の匂いが立ち込めるだろう。
「死骸は俺達が片づけておくからニーアちゃんとシオン君はゆっくり休んでてくれ。今日は本当に助かった、ありがとう」
魔物の死骸は放置する事で新たな魔物を呼びかねない、ここら近辺では穴に埋めたりせずしっかりと焼く事でそれを凌いでいる。
塩の壺2つを顔見知りの村人に手渡し、シオンとニーアは来客用の宿泊施設へ向かう。
「ニーアさん、この村もヨモ草を焚いて煙を出してるのに何故魔物の襲撃が起きるんですか?」
「そうだね、しっかりと生態を調べてないから細かい事は分からないけど、きっとあぶれたんだよ。持っている武器が石器だっただろ、あの数だったのに防具も何も持っていなかった」
ふむふむとシオンはニーアの話を聞いている、ニーアは話を続けた。
「魔物……フェブリの巣があるとして、そこで魔物の数が増えすぎる、そうすると若い実力の無いフェブリが追い出されるんだろうね、主に食糧の関係で。だから必死になってどこか人の住む村を襲わないと飢えて死ぬ、だからヨモ草のニオイをガマンして襲い掛かって来るんじゃないかな」
「魔物、フェブリも必死なんですね」
「シオン、同情しちゃダメだよ。私達が殺したアレはもしかすると私達の未来の姿になるかも知れないんだから」
生存とはかくも厳しい。シオンはニーアの手を握り強く頷く。もし、仮にだが、ここで若いフェブリの一団を「率いる」古参のフェブリがいたとしよう、すると日が高い内ではなく夜を待つ、もしくは投石の類を用意し、見張りを付けもっと上手く立ち回る可能性があっただろう。
最も恐ろしいモノは個人的武力よりも、魔法のようなモノよりも、集団を率い、コントロールが出来る存在ではないだろうか。今回の襲撃では幸いそのような存在は無く、奇襲に奇襲を重ねる事によりほぼ無傷で上手くいった。
シオンはニーアの懸念を強く心に留める。自分達の未来の姿、シオンの心に僅かにあった同情心、罪悪感はニーアの言葉により払拭される。
フェブリの一団が人、魔族を襲う理由の1つに「他の魔物より幾分マシに見える」というのがあります。
それとニーアの言うカワイイのはあくまで鎖骨の事ですwなお、ムダ毛は生えておりませぬ……!




