愛の言の葉③
ミスティまでどっか行ったー!? とかマルガリータが悲鳴を上げてしばらくすると、ミスティがスティンガーを連れて戻って来た。
「メグメグの声、響き過ぎにょー。どっか行ってないよ。スティンガー探して来たじぇ」
「見つけられた」
「隠れ鬼じゃないんですから……」
クレオールが半分呆れながら突っ込むと、スティンガーはうむ、とか偉そうに頷いた。
「子供同士が友好を深める際に、年長者がいるとちょっとアレな感じになるかと考え、隠れていた。大人だからな。大人の気遣いと言うやつだ」
「それで不定形生物が出てもずっと隠れっぱなしだったとか、一回ぐしゃりたくなるよね脳髄ぐしゃー」
「脳髄を狙うのはやめろ。本当に危険な状態になったら手を出す準備はしていた」
「ぐしゃー」
「今は何処を狙った」
「メグメグの前では言い辛いところ」
「更にやめろ」
スティンガーは心底嫌そうに顔を顰めた。
このくだらなさを極めたような話を、歴戦の封印者の風格を持つスティンガー(ただし時々全裸)と、三つ編みに聖騎士の鎧を身に着けた楚々とした美少女ミスティ(ただし実際は男)が交わしているのだから、横から見ていると本当に頭のおかしくなりそうな光景だ。
一番見た目と中身があっている気がするダイキリに視線を移す。何か、蓋のついた金属の器を開けたところだった。
「時計?」
「おー、自動巻きだぜ」
「盗んだの?」
「んなわけねーだろっ!!」
ごく自然にうっかり尋ねてしまったら、唾を飛ばして怒られた。
「お前、時々変に神経ふてーよな! 盗んだの、とか聞くか普通っ!?」
「ご、ごめん」
「謝ってすむなら軍隊いらねーんだよ!!」
「そうなんだけど、時計って……高級品だよね? 『奈落』はお金が無いお金が無いって困ってるみたいだったから」
ダイキリはちっ、と舌打ちをしてから言った。
「確かに機械時計は高級品だけどな。オレが作ったんだからいーんだよ」
「作った」
鸚鵡返しにクレオールが呟くと、ダイキリは頷いた。
「オレが作った」
「凄いね」
「だろ?」
「……っていうか、え、ほんとに凄いよね。え、何それ? え、ダイキリって凄いの?」
「だからお前はよー……」
じゃっかん混乱しながらクレオールが口走ると、ダイキリはますます嫌そうな顔をした。
「あ、ごめん。リーダーとミスティは我慢できたんだけど」
「何が我慢だ」
「実は凄いの? って訊くの、リーダーとミスティは堪えられたんだけど、ダイキリはつい……」
「つい、じゃねーよっ!!」
「ダイキリじゃ仕方ないでしょ」
マルガリータが呆れたように割って入って来る。
「バカっぽいもの。品が無いし、貧乏臭いし。ダイキリが時計なんて持ってたら、クレオールじゃなくても普通驚くわよ」
「メェーグゥー。メグちゃんよーぉ」
「気持ち悪い呼び方しないでよ」
「言ってくれるな魔女様がよー」
「むぅっ……」
マルガリータは声を詰まらせて、クレオールの方に視線を向けて来た。
「魔女?」
「何でも無いっ! そんなことより、今、何時?」
「何でも無いってことはねーだろ、ギルドのお仲間によー」
「うるさいってば!」
薄暗い迷宮の中でもはっきり見えるくらい、マルガリータは顔を赤くして喚いた。
魔女。
って綽名か何かだろうか。
魔法使いが所属する――というか、魔法使いが作る同盟では、魔法使い同盟の中でも特に才能がある? とか力がある? みたいな魔法使いに、『魔女』の異名を授けることがあるらしい。
神官からは縁遠い他組織の事だからクレオールに細かい事はよく分からないけど、多分、魔法使い同盟の中の名誉職とか、そんな感じの扱いだろう。外に漏れ聞こえて来る選定基準は、こうだ。
世界に仇なす99人。
彼ら、彼女らを、『魔女』と呼ぶ。女、という文字が使われているけれど、正確な語義としては女性だけではなく、男性の魔法使いも『魔女』と称される。魔女は代替わりが比較的に頻繁に行われ、必ず世界に99人しかいないらしい。
たったの99人だ。
ヴェローニャの街にだって、数百人近い魔法使いがいて、世界中にはもっと凄くたくさんいる。まさかマルガリータが正式な魔女ってことは無いだろう。
「綽名か何か? 魔法使い同盟では、そういう異名があるらしいよね。『世界に仇なす99人』、とか格好いい感じのが」
クレオールが尋ねると、マルガリータはますます顔を赤くする。「クレオールって、ほんとに変な事知ってるわよね」とか、もごもご言ってから、こくっと頷いた。
「そう、それなの、あたし」
「……ほう」
「ほう、じゃなくて! あたし、魔女なの! 世界に99人しかいないやつ! でも別に、世界に何か悪い事したりしない……つもりだからっ!」
恥ずかしそうに言うマルガリータは可愛らしいことこの上ないけど、クレオールは声も出ない。このギルド、ほんとに何なんだ。逸材揃い過ぎじゃなかろうか。俺、わりと凡人だけど、この先やっていけるかな……。それとも、これくらいじゃなきゃ封印者なんて五体満足で続けられないんだろうか。
「おめーは存在自体がうるせーし、立派に世界に仇なしてんだろ」
「ダイキリうっさい!」
喚き合ってるな、と思ったら、いつの間にかダイキリとマルガリータは掴み合いになっていた。しかもマルガリータ優勢だ。
「い・い・か・ら!」
小さな拳を握りしめて、マルガリータが振り抜いた。
「時間見せろー!」
後衛とは思えない綺麗な姿勢でダイキリを殴りつけて、ダイキリが手放した時計を空中で引っ掴んだ。マルガリータは、パチン、と懐中時計の蓋を開けると、ほんの少し眉を寄せた。
「……午前1時。クレオール、あなた本当に持ってるわね」




