過去からの呼び声⑥
「ザッツ!」
ミスティが両手でクレオールを指差して来た。呆れているらしい。けど何それ。
「え、ざ……?」
「雑! 大ざっぱ!」
説明してから、ミスティはふと思いついたように付け足した。
「……もしくは、仲間に隠し事をする最低野郎にぇ。ところで神官、そしたら、故人の形見はもっているぎゃい? 形見持っていると、向こうさん近付いて来てくれるって言うよ。ミスティ試したこと無いから、ほんとか知らないけど」
「その話は、故郷でも聞いた事があったから持って来たよ」
答えると、マルガリータは眉を寄せた。
「あら、クレオール、初日に他の封印者に絡まれたって話だったわよね? もしかしてその時、盗られちゃった?」
「……あー、いや、大丈夫だった」
「どんなもんか見せてみ。オレ様が鑑定してやっから」
ダイキリが偉そうに手を伸ばしてくる。見て何かなるのかクレオールにはよく分からないけど、ダイキリも封印者としてはクレオールよりずっと先輩の筈だ。大人しく靴を脱いで、中に縫い付けていた布袋から妹の形見の首飾りを取り出す。
自覚はあったけど、案の定ミスティとマルガリータは顔を寄せ合ってひそひそと囁き合った。
「妹の形見を靴の中って」
「きったないじぇー」
「酷くない?」
「ひどいにょぇ」
「もー少し、何かあるでしょ」
「えー……と、盗まれないように、みたいな……」
クレオールが言い訳じみたことを言うと、ダイキリはひったくる様に首飾りを手にした。
「――おい、おいおいおいおいクソオール!」
「クソオールて」
「てめー、何が『神官は食うのに困らないから』だ! 適当なこと言いやがって! こんなもん娘に与える一家が食うのに困るか!?」
「あー」
「あー、じゃねぇ!」
ダイキリが唾を飛ばして喚く。ざっと首飾りに目をやって、薄暗い迷宮の中だと言うのに素材を正確に言い当ててみせる。
「真珠に、細工は銀じゃねぇな。白金か――この中心の石、硝子じゃなくて本物の金剛石かよ!? 何カラットあんだ!?」
「4、5カラットじゃないかな」
「じゃないかなってお前!! もういい! 封印者やめろ! これ売り飛ばして聖書以外の本でも読んで暮らせ!」
「――それが出来たら、困ってない」
怒る――というより、途方に暮れる気分でクレオールが言うと、ダイキリは口を噤んだ。沈黙に差し込むように、告げる。
「本当に。これを売って幸せに暮らせたらとは、俺だって思う」
「おめーな……金で買えねーもんなんて、ほどんどねーぞ」
頭を掻きながら、ほとんど、と言ったのはダイキリの優しさか、年の割には世間慣れしているかのどちらかだろう。クレオールは黙って曖昧な笑みを返す。ダイキリは毒気が抜かれた様な顔で首飾りを差し出して来た。
「まぁアレだな。確かに靴ん中にでもしまっとけ。他の封印者の連中に見られたら速攻で盗まれんぞ」
「うん、気を付ける……ところで、これ持ってれば、妹と会うのに役に立つかな」
「どうだろうな。故人の思い入れがある方がいいって話だ。こんなもんをいつも身に着けてたってわきゃねーだろ。普段は仕舞ってただけの形見だと、きついぞ」
「いや、妹はいつもコレ付けてたけど」
「……マジでお前、どんな家の出身だ? いや、言うな。むしろ言うな突っ込み疲れるから聞きたくねぇ」
「両親が、病気の娘に激甘だっただけだよ」
「甘かろーが厳しかろーが、無い袖は振れねーんだよ」
ダイキリが嫌そうに首を振る。それは確かに、と思いながら、また首飾りを靴の中にしまった。その様子を見るともなしに眺めていたミスティが、ふと思いついたように呟いた。
「靴の中に形見を突っ込むような」
ミスティがクレオールの目を見つめて来る。眠そうなたれ目なのに、やけに鋭いその視線。問いかけの形を取りながらも、確認のような声音だった。
「そういう人間関係?」
そういうってどういうだろう。とはいえ、形見の首飾りを靴の中に放り込むのに抵抗を感じない様な人間関係では、あった。
クレオールが何とも答えられずにいると、おいおいおい、とダイキリがますます嫌そうに顔をしかめた。
「恨み恨まれってやつかよ! 美談かと思ったら! そういうのは、出るぞ! マジで! 最深部なんて行かなくてもなぁ、そこそこ潜った辺りで出んだぞ! 普通に無差別に人間襲って来るからな!」
「え……そう、なの?」
ミスティとマルガリータの方を見ると、2人も小さく頷いた。
「おめーは本当にシロートだなおい! 知ってたけどな!」
喚きながら、ダイキリはごそごそと自分の荷物を漁っている。マルガリータも、ダイキリに倣った。
「メグ! 聖水持って来てるか?」
「えーと、えーと、大丈夫! あった!」
荷物を掻きまわしてから、マルガリータは小さな瓶を取り出した。半分くらいしか入っていないのを見ると、眉を下げる。
「あっ、でも1人分しか残ってないかも……」
「買っとけっつっただろ!」
「だってお金無いんだもの!」
「あー、クソ! そういうこと言うのやめろ! リークスのヤローがほくそ笑んでる気がする!」
「そんなこと言ったって仕方ないじゃないの!」
ぎゃあぎゃあ喚き合う2人の横で、ギムレットは安らかな顔で寝続けている。大丈夫、だろうか……このギルド……。
「……えと、そんなに急を要する感じの、話だった?」
クレオールが恐々ミスティに尋ねると、ふんすー、と笑われた。
「そだぬー。死霊とかになっているとしたら、自分の話をされていると寄って来るかもにぇ。あいつら、かまってちゃんだから」
「ミスティは落ち着いてるみたいだけど」
「ミスティ聖騎士だもん。鎧、ちゃんと祝福されているから問題ないじぇー。メグメグ達はそうはいかないからね。特に死霊は単体ではたいしたことは無いけど、他の死霊とか悪鬼をよんだりするから面倒くさいぐしゃー」
「えーと」
クレオールはせめて背筋を伸ばして、ミスティに頭を下げる。
「大変、ご迷惑をお掛けします……」
ミスティは軽く手を振った。
「まぁいいよ。面倒くさい神官を勝手に拾ったのはリーダーだし」
「めんどい……かな、俺?」
「そういうこと聞いて来る辺りがもう面倒くさいにゃ。でも、何でもかんでも拾うのがリーダーの趣味だしね。趣味って言うか、ギルド『奈落』の活動方針だじぇ。リークスとか、ベリーブスとかは気に入らなかったらしいけどがぉ」
そうだったんだ、と答え掛けて、何か引っかかる。
「……えーと、何か、元『奈落』のサブリーダーさんって、そんな名前じゃなかった気がする」
「メグから聞いたの? ほんとの名前はベリーベル。でもブッサイクだじぇ、ほんとに」
「神の僕たるわれらはー……他者をー……」
「うっすぁい。ミスティもそういうのは知っているにょ。でも、アレは性格の悪さが顔に出ているぴょん。ミスティ悪くないと思う人は挙手ー」
呑気な事を言ってミスティは一同を見回すけど、ダイキリとマルガリータはまだ喚いて聖水の入った瓶を投げつけあっているし(落として割れたらどうするんだろ)、リーダーはぐっすりだ。スティンガーは――何か居ない。
「だれも上げないとは……年増に怪獣され済み? 違った。懐柔だったったらー」
ミスティは不本意そうな顔をしてるけど、それどころじゃない気がする。
「スティンガーさん、いなくない?」
「あの全裸、時々どっか行くよぇ」
「全裸て。いや、街中ならまだしも、迷宮で……?」
「んー。迷宮で勝手にいなくなるのは珍しいかもにょい。レアっぽいー。困るかもー、とか言うとほんとに困るから言いたくないのだけどね。でも言わないとなぁぁーこれは」
遠くを見て、ミスティは溜息をついた。
「クレオール、ミスティと一緒にリーダー運んで。クレオールが探しているのではなさそうだけど、何か来ている」




