第十九話 試験
昼食後、ミュリエルさんと別れた俺は再び町を散策。
午前中は第一区を中心に歩いたので、今度は第二区辺りを歩いてみる。
第一区の外周に存在する第二区はかなりの広さになるため、全部見て回るには時間がかかり過ぎる。とりあえず防具屋を探しながらぶらぶら歩こう。
なんて考えながら商業施設が並んでいる街並みを見物しながら歩いていると、防具屋が目に入ってきた。
さっそく入店して防具を物色するも、なかなか気に入ったものが見つからない。
この世界での俺の身体は力と速さ同様、頑丈さにおいてもかなりのものだ。魔物との実戦では、まだそんなに攻撃を受けていないため未知数な面はあるけど、普段の訓練で自分の身体の強度は確認している。
なので、あまり大層な防具ではなく、薄手の軽い防御服のようなものが欲しかったんだよね。
見当たらなかったので、店員に確認してみると、奥から数着を出してきた。
あまり売れ筋ではないらしい。
そういえば、ギルドにいた冒険者らしき人たちも、なかなかの重装備だったよね。
「こちらなど薄手ではありますが、対物理、対魔法防御共に優れた逸品になります」
その中の一着、黒い薄手のコート風の衣装を推してくる。
防御服には見えない。
でも、そこがいいかな。
あまり仰々しいのは着たくなかったし。
薄さの割に防御力が高いということなら文句無い。
実際に羽織ってみると、確かに薄くて軽いね。
うん、これでいいか。
ということで、買っちゃいました。
2000セルクもしたんだけど、懐も暖かいしね。
いいかな。
その後、もう少しだけ第二区を見て回り、ちょっと城外へ。
軽く訓練しときましょ。
夜に宿でしようと思っていたんだけど、明日の朝は試験なので、今夜は早く寝たい。
それに、これから先、本格的に訓練する場所も早めに確保しておきたい。
そういうわけで、城外へ出発。
レントの西側にあまり人目につかない適当な場所を見つけたので、そこで閉門時間ぎりぎりまで鍛錬をして、帰宿。
レントでの始まりの一日。
まあ、悪くない一日だったかな。
翌朝。
冒険者ギルドを訪れた俺は、試験官である冒険者を紹介され、そのまま試験会場の城外へ。
5刻くらい歩いただろうか、全く魔物に遭遇しない。
そもそもどこに向かっているんだ?
「バルドさん、試験会場はどの辺りでしょうか?」
試験官の名前は、バルドさんという。
レントでも上級の冒険者らしい。
年齢は30歳くらいか。
180センチ、100キロは超えているだろう巨漢だ。
冒険者っぽいね。
そういえば、冒険者っぽい冒険者しか見たことないなぁ。
インテリ冒険者とかいないのかねぇ。
「この辺りは、まだ結界石の影響が残っている。あと5刻もすれば、魔物に遭遇しやすいポイントに着けるはずだ」
さすが大都市レント!
徒歩10刻圏内、つまり1時間圏内は結界石の効果があるのか。
よっぽど高価な結界石を使ってるんだろうなぁ。
「それより、坊主。そんな軽装で大丈夫か?」
14歳の俺は坊主呼ばわり。
「この服はそれなりに防御力もありますし、剣も持ってますから」
適当なこと言ったけど、この服って本当に防御服なんだよね?
昨日の訓練の時、試せば良かったかな。
まあ、全く防御力が無いということも無いでしょ。
剣は、短剣を装着済みと。
ケヘルさんに借りた短剣、かなり重宝してるよね。
「・・・。儂は助けんぞ」
疑ってるよね。
「ええ、大丈夫だと思います」
うーん、これで倒すと逆に目立つのかな?
今更、虎徹も出せないし。
まあ、それなりに闘いましょうか。
そんな緊張感の欠片もない思考をしながら数刻。
周りに木々が見えてきた。
森っぽいね。
そろそろ魔物出るかな。
「いたぞ!」
左前方を指さすバルドさんの声に、思わず凝視。
20メートルほど前方の木の横に。
うん、グラノスだ。
この猪風、よく遭うなぁ。
「ちょっと手強いが・・・。どうする?」
「回避してもいいのですか?」
「試験対象としては強すぎる。避けても構わん」
早く終わりにしたいし、それなら。
「では、あいつを倒せたら合格ですよね?」
「まあ・・・そうだな」
よし、ラッキー!
「頑張ってみます」
では、いってみましょう。
バルドさんを残し、前に出る。
グラノスはこちらを警戒して身構えている。
魔法一撃はまずいよね。
素手も止めた方がいいな。
やっぱり、この短剣で。
数歩近づいた俺を敵と認識したのか、突進してきたぞ。
ありがたい。
突進してきたグラノスを右に避け、軽く剣を当てる。
一撃で倒さないように軽く。
背中を斬られたグラノス。
怒ってるな。
再び俺の方に頭を向け、突進。
なんていうか、単調だよなぁ。
こいつ、ホントに強いのかねぇ。
さっきと同様に避けざまに軽く一撃。
おぉ、猛り狂ってる!
同様にまた突進。
もういいか。
はい、とどめ。
「・・・!?」
ありゃ、バルドさん、固まってる?
「えっと、いかがですか?」
「・・・うむ」
はい?
「良くやった・・・」
だからさ、そうじゃなくてね。
「あのぅ、合格ですかね?」
「・・・」
今度は黙っちゃったよ。
うん?
唸ってる?
「原則として、1匹仕留めただけでは合格にはできない・・・」
「そうですか・・・」
えぇー、約束が違うよぉ。
さっきの嘘ですか。
「とはいえ、グラノスを倒したんだ。実質的には合格だな」
「はあ」
「あと1回、戦いぶりを見せてくれればいい」
冒険者ギルドなのになぁ。
お役所仕事かよって突っ込みたくなるね。
まあ、分かりましたよ。
「了解しました」
ということで、次に出て来た魔物をやっつけまして試験終了。
次の魔物も、グラノスでした・・・。
ちなみに、素材はバルドさんが回収。
帰りの道中。
往路とは打って変わって、バルドさん親しげに話しかけてくれましたよ。
やっぱり、冒険者って実力主義なんだね。
強さを認めると、態度が変わるのは当然のことらしい。
支部長の前でも同様でした。
「いやぁ、大したもんですよ」
「そうか、グラノスを独力でな・・・」
支部長さん、納得してくれました?
「14歳であの強さは! この坊主、只者じゃないですよ」
バルドさん、ありがとう。
でも、俺が欲しいのは仮免許。
「・・・分かった。仮入会を認める」
やったぁーー!
無職卒業。
転職決定。
世界を超えての転職だぁ!
「ありがとうございます」
仕事があるっていう安心感・・・、ホッとするねぇ。
「今から君は冒険者ギルド、レント支部所属の仮会員だ」
やっと、穏やかな顔になったぞ。
対応も、少し丁寧かも。
「はい、頑張ります」
「うむ。レント支部の名に恥じぬよう行動したまえ」
それからは、冒険者ギルドに関する基礎知識。冒険者としての注意事項。レント支部の特徴などを説明してもらいました。
冒険者としての活動は自己責任の下、基本的には自由らしい。
仮会員の間は後見人が要るとのことで、合格裁定を下したバルドさんが後見人になってくれました。
正会員になるまで、色々と面倒を見てくれるらしい。
グループで依頼をこなす時などは、積極的に誘ってくれると言ってたな。
まだ慣れてないし、これは助かるね。
バルドさんとは、今回の試験を通して結構親しくなれた気がするし。
一緒に仕事をするのが楽しみだ。
と、そんな連絡事項の後。
最後に入会の儀式。
儀式と言っても、俺のエイドスを確認した後、所属欄に新たな所属先を記載するだけなんですけどね。
ただし、この所属記載は特別な術式でなされるらしく、レントではこの支部でしか行えないとのことです。
しかし、性別未記載について何も言われなかったのには驚いたね。
エイドスの確認中、未記載については無視だったよ。
ケヘルさんが話を通してくれていたのか、それとも、そんなに珍しくもないのか。
どちらにしても、無事に済んで良かった。
ということで、冒険者ギルド所属の証明として、俺のエイドスに新たな記載が。
高坂颯人 14歳 人間種 所属 冒険者ギルド レント支部(仮)
(仮)っていうのが、なんか微妙だけど、これも新年には取れるらしいし。
まあ、万事オーケーって感じかな。
ちなみに、支部長さんの名前も伺いました。
ブルーノさんというらしい。
冒険者ギルド支部長であり、レントでの実力者でもあるそうです。