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転性剣士商売  作者: 明之 想
第一章
20/61

第二十話  仕事




 朝からギルド試験があったので、訓練はもう休んじゃおうかと思ったんだけど、こういうのは休むと癖になる。


 どうにも、訓練、鍛錬というものを休むことに抵抗があるんですよ。

 休むと身体が鈍るだけじゃなくて、心も鈍るんですよねぇ。

 徐々に心が腐っていくような・・・。


 そんな経験もあったしね。

 前世世界で大スランプに陥った時、サボってしまって・・・。

 まあ、その時の苦い思いが今も残っているということです。




 そんなわけで、夕方に少しだけ城外に出て、基礎トレーニング、剣、魔法と1セットだけこなしてきました。


 やっぱり、鍛錬をするとスッキリする。

 こういうのを、『脳みそまで筋肉でできている』っていうのかな?


 脳筋・・・。

 嫌な響きだなぁ。



 そんな事を考えながら。

 鍛錬後に、スッキリとした気分でライナスさんの店に行ったところ・・・。

 それはもちろん、ギルド試験合格の報告に行ったんですけどね。

 試験を受ける話はしていたし・・・。


 なんと!

 祝賀会の用意がされていました。

 当然、合格すると思っていたとのことで。


 ・・・。

 いやぁ、嬉しいですけどね。


 ・・・焦るよね。

 不合格だったらどうなったんだろう・・・。



 予想通り、ミュリエルさんからは賞賛の嵐。

 そんなミュリエルさんに引きながらも、ライナスさんはそつなく宴を盛り上げてくれましたね。


 さすがです。




 意外と盛り上がった祝賀会のせいで、宿に戻って寝るのは遅くなったのだけど、翌朝は早くに起床。


 少し寝不足。

 でも、早朝からやる気満々!

 なんと言っても、今日からお仕事ですから。

 仕事をするのです!


 といっても、仕事中心の生活をするつもりもないんだよね。

 どんな場合でも、基本を見失ってはいけない。

 この世界における、そしてこの町での目標は何なのか。


 まずは二つ。


  1、強さ。すなわち、基礎体力、剣、魔法のレベルアップ。

  2、金。仕事で稼ぐこと。


 この二つを生活の中心にしなければ。


 両性具有からの転性法は生活に余裕が出てきてから、じっくり探すつもりなので、とりあえず棚上げ。そもそも探してすぐに見つかるものでもないだろうしね。


 ということで、当面のタイムテーブル。


 早朝から城外に出て、訓練、鍛錬。

 午前のうちに町に戻り、ギルドで適当な依頼を探す。

 見つかれば、その依頼を受け、現場に向かう。

 適当な依頼が無ければ、昼からも訓練、鍛錬。


 ええ、そうです。

 鍛錬大好き脳筋君ですからね。


 ・・・。


 まっ、まあね。

 基本的には、このスケジュールで動きましょうか。

 幸い、結構なお金が懐にあるので、そんなにあくせく働かなくてもいいだろうしね。

 そういえば、昨日倒したグラノス二匹分の肉も売却済み。

 正直、生活には困っていないです。


 では、朝の鍛錬に出発!





 さて、朝の鍛錬も終わって。

ついに初仕事を探しにやってまいりました。

 どこに来ているのかというと、レントの冒険者ギルド支部ではなく、ギルドの下請けに来ているのです。


 ギルド支部は、エイドスへの書き込みをはじめ、各種手続き、係争解決など主に雑務をこなす場所らしく、依頼は余程の大案件でなければ受け付けていないとのこと。

 そのため、市民からの一般的な依頼は、ギルドから委託を受けた商館や商店が受け付けており、受け付けた依頼を冒険者に斡旋するのも各商館、商店の業務になっている。


 そういうわけで、今俺はブルーノさんに紹介された商会の中にいるのです。


 なんだけど、いまひとつ面白い依頼が無いなぁ。


 商館の中に設置されている冒険者用掲示板。

 そこに、いくつかの依頼が貼り出されているんだけど、その中身は・・・。

 薬草採取、魔物の素材採取、こればっかり。

 冒険者なんだから、外に出て狩猟採取でもして来いってとこなんだろうけど、そんなに惹かれる依頼でもないよね。昨日も試験でグラノスを倒したし、レントに来た日にも叡竜など数匹の魔物を倒している。


 なんか、違う仕事がしたいなぁ。

 他の下請け商会でも回ってみるか。




 次に入った商会でも・・・。


 ここはここで地味な依頼が多いね。

 引っ越しの手伝い、工事補助、失せ物探し・・・。

 何でも屋みたいだな・・・。


 クーリンゲンへの道中の護衛なんていう依頼もあるけど、それだと1日では終わらない。レントに来たばかりだから、あまり町から離れたくないしね。まあ、ランク的にも引き受けられないかな。


 そんな感じで数店舗回ったんだけど・・・。


 現実はこんなものかな。


 迷宮探索とか宝探しとか、伝説の幻獣を追うとか。

 夢を見過ぎてたのかもね。

 受けることが可能かどうかは別にして、そんな依頼を探してたんだけど・・・。

 うん、仕方ないよね。

 仕事なんだから、地道に頑張りましょうか。



 では、今日はこの依頼でも受けますかね。

 俺が選んだ依頼は。


 庭の剪定  ランクC  報酬 100セルク


 受付で、当該依頼を受けることを告げ、エイドス提示。

 手続きは以上。あっさりしたものです。

 今回はCランクの仕事ということで、申請許可が早かったというのもあるかな。


 依頼にはランクというものがあり、難易度が高い順にS、A、B、Cとなっている。稀にSSなどという案件もあるらしい。

 冒険者の方も、実績によってランク付けされ、やはりS、A、B、Cというランクがつく。ランク相当でなければ依頼を受けることができないわけではないけれど、依頼に失敗することは下請け店舗の信頼を落とすことに直結するので、基本的には受付けてくれないことが多いらしい。


 つまり、俺みたいなランクすらない仮会員なんかが、いきなりS級依頼を受け付けのお姉さんに持って行っても、即却下されるだけなんだよね。


 下請け店舗にとっては、依頼の達成率を上げることで信用を得、市民からの依頼を増やし、収入増に繋げるというのが鉄則みたい。依頼の達成には、その成功とともに依頼受領から達成までの時間も重要になってくるそうだ。


 下請け店舗間の競争も激しいみたい。

 冒険者ギルドといっても、経営としては通常の商売と同じでシビアな世界だよ。

 どうやら、下請けの中でも大きな商会になると、お抱えの凄腕冒険者がいるらしいね。


 うーん、ホント甘くない世界だ。


 さて、俺の方はというと、依頼である庭の剪定に向かい、無事終了。

 実は、前世で道場の庭の管理を任されてたんだよね。

 なので、剪定はちょっと得意なのです。

 しかも嫌いじゃないと。

 そんな仕事で、お金も貰えて、ラッキーだね。

 ちなみに、仮会員は報酬1割引きなので、90セルクいただきました。




 翌日からも、ほぼ同じような生活が続いて、まあ、平穏な日々を送らせていただいております。訓練と仕事、なかなか上手く両立できているのではないかな。


 ここ数日で受けた仕事は、工事補助、薬草採取、簡易の護衛、比較的弱い魔物からの素材採取、などなど。

 依頼主と斡旋店舗には満足してもらってると思いますよ。


 ライナスさんから間接的に依頼を受けた仕事もあったんだけど、これって大丈夫かな?

 冒険者はギルドを通さない仕事をしてはいけないとか。

 無いよね?


 バルドさんとも城外の仕事で何度か御一緒しましたね。

 外見通りの豪快な戦方で魔物と闘っているのを何度も見たんですが、魔法は使っていない。

 冒険者といえど、魔法を使える者は、そんなには多くないみたいだね。

 俺も何度か魔物と闘ったんだけど、魔法は見せずじまい。

 まあ、隠せるものは隠しておきましょ。


「坊主ならAランクの依頼もこなせるかもしれないな」


 なんて言ってもらったりして。


 確かに、魔法も虎徹も使わないでこれなら結構やれるかも、なんて自分でもちょっと思ったりしてます。

 自惚れじゃなきゃいいんだけどね。


 ちなみに、冒険者ギルドの下請店舗について聞いたところ。

 初日に回った数店舗は、仮会員でも受けることができる依頼を多く扱っている店舗をブルーノさんが選んで教えてくれていたそうです。

 高ランク依頼を扱っている下請商会や、主にお宝探索系依頼を扱っている下請もあるらしい。


 そこに行っても、今の俺じゃ仕事をさせてもらえないらしいけどね。



 仕事はそんな感じとして、訓練、鍛錬の方はというと。


 基礎体力作りは順調に消化中。といっても、既にこの世界の平均からはかなり逸脱したレベルにまで上昇しているみたい。でも、まだまだ止める気は無いんだよね。異世界では何があるか分からないんだから、上げられるだけ上げときましょ。


 魔法の方は、やはり魔力不足は否めなく、進捗具合は思わしくないかな。

 それなりには上達してきてますけどね。


 そんな中で今取り組んでいるのは、詠唱の高速化、待機術式の増加。

 先の叡竜戦で痛感したけど、もっと早く魔法が撃てたり、同時に多くの魔法を使えたら戦闘はかなり楽になるからね。

 叡竜戦では、3発しか水弾を用意できなかったし。

 この数を増やさなきゃ。

 水魔法、火魔法、治癒魔法以外の魔法も習得したいんだけど、もうしばらくは今の練習を続けるつもり。


 他の属性の魔法を学ぶには、本が要るんだよなぁ。

 この町には、魔法を教えてくれる大学もないし。

 高額だけど、今度買いに行こうか。


 それにしても、魔法習得は難しいよね。

 教えてくれる家庭教師とかいないのかな?

 

 そうそう、剣の方は、問題なく順調です。

 そもそも、前世から続けている剣道、剣術です。

 訓練法は熟知しているはず・・・です。

 多分。





 そんなある日の午後。


 今日はバルドさんと一緒に依頼を遂行。

 紅蝶(こうちょう)と呼ばれる魔物から採取できる素材の調達という仕事です。

 ランクAの仕事らしい。

 バルドさんがランクAの冒険者なので、問題なく依頼を受けられたそうです。


 紅蝶は、その名の通り蝶の様な羽を持つ体長50センチから1メートルくらいの魔物で、その紅い眼は貴重な素材として高値で取引されているとのこと。何とかいう薬の原料になるらしい。

 興味が無かったので、薬名は覚えてません。


 それほど強力な魔物ではないのだけれど、あまり人のいる場所に近寄ることが無いため、遭遇すること自体が難しいそうだ。あとは、結構素早いので遭遇しても逃げられることが多いと。

 そういうわけで、ランクAらしい。



「坊主のスピードなら問題ない。見つけさえすれば楽勝だ」


 などと言ってくれるが本当に大丈夫か?

 どうやら、俺の動きを見込んで今回は誘ってくれたようだし。

 期待外れにならなきゃいいけど。


 レントから2時間近く歩いただろうか、バルドさんが紅蝶を見かけたことがあるという場所に到着。

 とりあえず、この辺りを重点的に探索する。

 5刻ほど探索を続けると。


「いたぞ。あそこだ」


 前方にある木の中ほど、地面から5、6メートルくらいかな、そこに数匹の蝶らしき生物が。

 確かに、蝶っぽい。

 大きいから可愛げはないけど。


「どうしますか?」


 目の前にいるのだが、手の届く位置ではない。

 跳躍すれば届くだろうけど、数メートルの跳躍なんて見せたくないし。

 魔法も使いたくない。


「投擲用の小剣を使うか」


 そういって、数本の小剣を取り出す。


「外れたら、間違いなく逃げられるからな。一撃必殺だ」


 投擲用の小剣は使ったこと無いけど、前世では投擲の訓練も勿論している。

 小柄(こづか)を投げる練習などは好きだったしね。

 ちなみに、虎徹にも小柄は付いている。


「一撃で倒せますか?」


「倒せなくとも、当たれば落下はしてくるだろうよ。そこを仕留めればいい」


「なるほど」


「外れた場合は、坊主に任せる。一匹くらいは下方に飛んでくれるだろう」


「了解」


 バルドさんが二本。俺が一本投げることに。

 投擲と同時に前進。

 落下した紅蝶の始末と、できるならば、外した紅蝶を仕留めると。


「では、いくぞ」


 短剣も装備してと。


「えい!」


 バルドさん、小声の気合と共に連射。

 俺も負けずと投擲。


 バルドさんと俺の小剣が一匹ずつに的中!


 二匹が落下してくる。

 さらに、逃げ出す紅蝶の中に一匹だけ下方に来たヤツが。

 

 落下してきた紅蝶の一匹をバルドさんに任せ、俺はもう一匹にとどめを刺し。

 軽く跳躍。


 下方に逃げようとしていた紅蝶。


 短剣で一閃!










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