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転性剣士商売  作者: 明之 想
第一章
18/61

第十八話  事情


 ありがたい。

 予想以上の高値で売れたよ。


 今後もしかしたら入用になるかもしれないので、叡竜(えいりゅう)1匹分を残して、3匹分の牙と爪を売却したんだけど。


 なんと、9600セルクで売れちゃいました。

 日本円にして、約96万円!


 一気に金持ちだ。

 当分働かなくていいかも。

 

 ギルドで依頼受けるより、叡竜狩りをした方がいいんじゃないの。

 なんて思ったんだけど、叡竜に遭遇するのは稀なので、そうそう手に入るものではないらしいです。

 うーん、俺は結構遭ってるんだけどねぇ。

 偶然なのかな。


 いずれにしろ、今の俺の持ち金は、前から持っていた金と合わせると。

 約14000セルク。


 この世界に来てから、剣の整備用具以外は碌に買い物もしていないから、減ってなかったんだよね。とにかく、結構な貯金額だ。

 気が大きくなるな。

 何でも買えそうな気がする。


 ・・・。


 そんなわけない。

 こんな時こそ堅実に・・・そうありたいね。


「一応、買い取り相場以上は出したつもりですので」


「よろしいのですか? 損されてません?」


「ハヤトさんはお優しい」


 にっこりと笑っているよ。

 本当の笑顔か営業スマイルか判断しづらい。


「ついこちらも正直に話してしまいます」


「はあ」


 こういうやり取りは苦手だなぁ。


「叡竜に関しては流通量が少ないので、時価になることが多いんですよ。ここだけの話、上手く捌けば、それなりに旨味はあります」


 まあ、損しているわけもないか。


「そう言ってもらえると、気持ち良く受け取れます」


 お互いに得があるのなら、言うこともないね。


「また、何かありましたら、お持ち下さいね。高く買い取らせていただきますから」


 ライナスさんのお店は、色々と手広く扱っているらしい。

 それを市価より少し安い値段で提供していると。

 ディスカウントショップみたいなものかな。

 これも縁だし、また何か持って来よう。


 用も済んだし昼食にしようと思い、この辺りで、お勧めの店を訊いてみる。

 案の定、良さそうな店を数軒教えてくれた。


「残念ながら、私はまだ仕事が残っていますので、ご一緒できませんが」


 誘って無いんですけど・・・。

 まあ、一緒でもいいですけどね。


「そうだ! ミュリエルと一緒に食事というのはどうですか?」


 おぉ、呼び捨てだ。

 まあ従業員だから当たり前か。


「もちろん、構いませんが」


 呼ばれたミュリエルさんが奥から出てきましたよ。


「ハヤト様!」


 また笑顔で登場。

 もちろん、嬉しいんですよ・・・。


「来られていたのですね」


「はい、昨日の品を買い取っていただきに」


「そうでしたか。あの、昨日は本当にありがとうございました」


「いえいえ、もう気にしないで下さい。沢山お礼の言葉いただきましたから」


「そう言われましても、命の恩人ですし・・・」


「その言葉だけで、十分ですよ」


 ホント、もうお礼いいですから。


「ありがとうございます・・・。それにしても、今日もお会いできて嬉しいです!」


 うーん、返答に困るなぁ。

 その言葉、俺も嬉しいけどね。


「挨拶はそれくらいにして。ミュリエル、昼休憩を取っていいから、ハヤトさんと昼食をご一緒させていただきなさい」


「よろしいのですか!?」


 おぉー、さらに笑顔!

 でも、ちょっと困惑顔も?

 頷くライナスさんは苦笑と。


「では、行きましょうか」


 懐もあったかくなったし、二人で食べる方が美味しいしね。

 教えてもらったお店に行きました。


「あのぅ、本当によろしいのですか?」


 俺が席についても、座ろうとしないミュリエルさん。


「何がです?」


「奴隷の私が同席しても・・・」


 あぁ、そういえば昨夜の夕食時にも同じ様なこと言ってたな。

 ライナスさんがうまく扱っていたけど。


「もちろんです。そうじゃなきゃ誘いませんよ」


「・・・ありがとうございます」


 遠慮しつつも、やっと座ってくれた。

 ちょっと卑屈なところあるよね。

 この世界の奴隷事情もあるんだろうけど。


「ミュリエルさん、聞いてください」


 これは、はっきり言っておこう。


「今後ですね、食事なり何なり御一緒することもあると思うのですが、その際は遠慮しないで下さいね。同席はもちろん、諸々のこと全てですよ」


「そういうわけには・・・」


 俯いている。

 やはり、困るのか?

 慣習的なもの?


 まあ、俺には関係ないね。

 どうせ、エイドス見せなきゃ誰も奴隷だなんて分からないんだしさ。


「この辺りの常識から外れることかもしれませんが、僕がそうして欲しいんですよ」


「・・・うぅ」


 えっ、泣いてる?

 なに、何?


「すみません。僕自身ちょっと常識に疎いもので・・・。どうしても嫌なら断っていただいて結構ですから」


「・・・そうではないです」


 うん?


「嬉しくて・・・」


 そうなんですか。

 よかったぁ~。

 非常識過ぎたのかと思ったよ。


「まあ、そういうわけなので、僕と二人の時は遠慮禁止でお願いしますね」


「・・・はい・・・本当にありがとうございます」


 深々と頭を下げられましたよ。

 うーん、気を遣ってるよね。

 まあ、ある程度は仕方ないか。

 俺も慣れなきゃね。


 ミュリエルさんにも座ってもらって、注文を。

 ランチは3つのコースがあるらしい。

 上からA、B、C。

 異世界で生きていても、そこは元日本人。Bを選んでしまうよね。

 懐的にAでも全く問題無いんだけどさ。


「僕はBにするよ。ミュリエルさんは?」


 チラチラ見てるぞ。


「えーと、私はCで・・・」


 うん、間違いない。


「遠慮しましたね?」


「・・・」


「では、同じBにしましょうか」


「・・・はい」


 あれ、俺ってウザい?

 ちょっとしつこいかな。

 気をつけよ。


「あのぅ、同じことばかり言って申し訳ないのですが・・・、言わせて下さい」


 意を決したような表情。

 何?


「本当にハヤト様には、感謝しております。助けていただいたのはもちろん、こうして同じ身分であるかのように接していただいて・・・。もう、言葉で言い表せないくらいです」


 この世界の奴隷って、そんなに下に見られてないよね。

 なら、俺の対応はそれ程では?


「口では何と言っても、平民の方々は奴隷のことを確実に見下しています。もちろん、そういう身分ですから文句はありませんが」


 ふーん、そうなのか。


「ですが、ハヤト様の口調からは、全くそのような感じがしないのです。それどころか、尊重していただいているような感情さえ見えるくらいです」


 はい。

 尊重してますよ。

 女性ですしね。


「私の勘違いかもしれないですけど・・・」


 うーん、やっぱり常識の違いは如何ともしがたいねぇ。


「ミュリエルさん、僕はあなたを尊重していますよ。でもね、もう、そういうものだと思って下さい」


「そんな・・・」


 もうひと押し。


「この人は常識の無い、ちょっと違う感覚の持ち主だと、まあそんな感じで軽く思っていて下さいよ」


「・・・勿体ないことです。私ごときにそんな・・・」


「これも僕のためだと思って、気楽にして下さい」


 また俯いてる。

 逡巡しているのか。


「分かりました」


 よかった。


「ハヤト様に助けられた命。私の全てはハヤト様のものです。そのハヤト様が仰るのなら、勿体ないことですが・・・」


 ありゃー、そうきましたか。

 うん、もういいや。


「僕はミュリエルさんの主でもないですから、程々でお願いしますね」


「ハヤト様以外に私の主人はおりません!」


 まずい、また平行線が始まるぞ。


「まっ、とりあえずね。今はまだ主人じゃないということで。今はそれでお願いしますよ」


「・・・。分かりました。そこまで言われるのなら、少し我慢いたします」


 おっ、ちょうどよかった。

 食事がきたよ。


「ですが、私からもお願いがございます」


「はい?」


「私に対してそのような丁寧な言葉、お使いにならないで下さい」


 えー、そんなに丁寧だったかな。


「それと、私のことはミュリエルと呼び捨て下さい」


 うーん・・・。


「言葉遣いは考えますね。でも、さんは付けさせて下さいよ。これもお願い」


 もう、頭を下げちゃいましょう。

 だって、他人の使用人さんを、一応年下の俺が呼び捨てにできませんて。


「ですが・・・」


「ホントお願いします」


「頭を上げて下さい・・・分かりました・・・」


 やっと分かってもらえたかな。


 ハヤト様に頭を下げていただくわけにはいかないとか言って、なんとか納得してくれたみたい。

 しっかし、この世界の奴隷事情。前世日本から来た俺には馴染めないよなぁ。

 特にミュリエルさんみたいな知的美人さんに、こんな卑屈な態度とられたら調子が狂うよね。


 それとも、慣れちゃうのかなぁ・・・。


 とりあえず、今はもう少しくだけた感じでいきたいかな。



 その後、食事をしながらミュリエルさんの仕事の話や、この町の話、冒険者ギルドの話などをしたんだけど、こちらは楽しく会話が弾みました。


 弾んでたんだけど、明日の試験の話になった途端。


「全く問題ありません!」


「ハヤト様に倒せない魔物など、この辺りにはいません!」


「そもそも、どの冒険者よりもお強いです!」


・・・。


「この町で最もお強いです」


 賞賛の連続・・・。


 ミュリエルさん、好意は凄くありがたいんだけど、少し褒め過ぎですよね。

 この町のことも、そんなに知らないでしょうに。

 俺のこと、何か別物に映ってません?


 困ったもんだ。





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