第十五話 再出発
「本当に驚きましたよ!!」
こちらは、叡竜の爪にやられた男性。20代前半ってところかな。茶色の短髪で中肉中背。愛嬌のある顔をしている。モテそうだね。
「熟練の者が数人がかりでやっと倒せるという叡竜を一人で倒すとは!」
「そうです。しかも、4匹もですよ。それを一瞬の間に・・・」
こちらは、長身の女性。
うん?
耳が長いような・・・。
エルフかな。
さっきは気付かなかったけど、凄い美人。プラチナブロンドの長髪に細身の長身。モデルさんみたいだ。クールビューティって感じ。胸はあまりないけど、それが似合ってる。この世界で見た中で一番の美人だ。
「夢かと思いました」
褒め過ぎですよ~~。
こんな美人に褒められると、すっごく嬉しい。
「それに、治療まで・・・。本当にありがとうございました」
今度は御者の方。
うん、御者さんっぽいね。
しっかし、見事に順番に話してくるね。
さっきのハモりといい、あらかじめ打合わせしているみたいだ。
「私も少しなら治癒魔法を使えるんですけど、思わず見とれてしまって・・・。お手伝いできず、ごめんなさい」
モデル美人、魔法使えるの?
攻撃には使ってなかったよね。
治癒魔法だけかな?
それとも、詠唱時間の問題?
「気にしないでください」
治療中も、俺はいっぱいいっぱいだったからね。
手伝ってくれると言っても、無視してしまったかも。
「それに皆さん、そんなに言っていただかなくても結構ですよ。今回はホントに偶然の事ですから。たまたま僕が通りかかって、たまたま上手く攻撃できたと。もう一度やれば失敗するかもしれませんので」
「ご謙遜を。あの腕前で偶然はありえないでしょ」
今度は賞賛の連続。
散々感謝された上に、これだけ褒められては、あまり居心地も良くないよね。
まあ、嬉しいけどさ。
「それくらいにして下さい。それより、まずは・・・」
そう、まだやるべきことがある。
まずは、亡くなられた2人をどうするか。
そして、早めにここを出て、レントへ向かうと。
こういう場合の遺体は、その場に放置するのがこの世界の常識らしい。
町の外で魔物に襲われ亡くなるのは、それほど珍しいことでは無い。その都度、埋葬したり、町へ運んだりしていると残された者が危ない。なので、まずはその場から立ち去り、その後に関係者が現場に赴き適宜処理に当たるそうだ。生き残った者は町で報告する義務があるだけだと。
でも、ここは結界街道。
安全なのでは?
いや、一度襲われているのだから、また襲われる可能性もあるか。やはり安全とは言い切れないのかな。だとすると、妥当な判断。
・・・。
でも、俺は嫌だな。
俺ならまた襲われても何とかなる。今魔法はほとんど使えないけど、何とかなるだろう。ここのみんなも守れるはず。
なら、放置できないよ。
「やはり、このままにしておくのは忍びないです」
とはいえ、馬車に積んで行くのも問題あるのか?
無いと思うけどなぁ。
まあ、手段ならある。
おもむろに次元袋を取り出して、遺体を回収。
俺の所持品と一緒に入れておくのは、少しだけ気になるけどね。
哀悼の意に欠けているのかな・・・。
うん、ちょっと思っただけだから許してください。
そんな俺の心情を知る由もない3人は、またも驚きの表情。
遺体を持ち帰るのは普通でないといっても、そんなに驚かないでよ。
うーん、いきなり目立ってしまったような気がする。レントでは目立ち過ぎないようにした方が無難だと言われていたのになぁ。着く前からこれでは先が思いやられるよ。今回の件、町では黙っていてもらえないかぁ・・・。
そのあとは、叡竜の処理。
だそうです。
叡竜の牙と爪は珍品のため高く売れるらしいので、4体分を回収。他にも諸々の処理をしてと。
うーん、高く売れるなら、幼体の叡竜からも回収すべきだったのかな。
勿体ないことしたなぁ。
さて、これですべて終了。
幸いなことに、馬車が使える。転倒したにも関わらず損傷は軽微だったので、レントまで乗って行けるそうだ。俺も乗せてもらえるとのこと。逃げ出した馬も、そう遠くには行ってなかったので連れ戻してきた。
さて、レントへ再出発だ!
ところで、なぜ叡竜がこんな所に出没し、さらに襲ってきたのかということに関して。
乗客の一人がイズルクで叡竜の牙と爪を入手し、馬車に持ち込んでいたため、匂いを嗅ぎつけた叡竜たちが襲ってきたのではないかと言っていた。叡竜は嗅覚が発達しているらしく、遺体から回収された牙と爪も、加工前ならその匂いを感知できるのだとか。今回は不運なことに加工前の牙と爪だったという事か。
うん?
ということは、道中また襲われる可能性もあるってこと?
それはまずい。
乗客が持っていた牙と爪も、俺の次元袋に入れておくことにする。
次元袋の中なら、大丈夫。
だよね?
多分・・・。
襲われた理由は、まあ、解った。
しかし、なぜこの辺りに叡竜がいたのかは、皆さんも解らないらしい。
偶然なのか?
とにかく見当もつかないと。
その理由。
何だか解る気がする。
この叡竜たち、俺が倒した幼体の叡竜と同じ群れの叡竜ではないだろうか。
はぐれた幼体を探していたところ、この馬車に遭遇。
・・・。
少し責任を感じるかも。
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馬車に揺られること数時間。
あと少しでレントに着けそうだ。
しかし、まあ、よく生き残ることができたよな。今回ばかりは死を覚悟したよ。本当に酷い目にあった。無事馬車に乗っていられるのが、不思議なくらいだ。
それも、もうすぐ終わる。
レント到着をこんなに待ち遠しく感じたことも無いな。
それにしても、このハヤトという少年。
驚くべき奴だ!
剣の腕前、攻撃魔法に治癒魔法。
それに次元袋も持っていた。
只者では無い、なんて簡単に口にしたくない程の恐ろしい奴だな!!
これは、是非とも懇意になっておかねば。もちろん、命の恩人だから感謝はしているし、これから出来るだけの事はさせてもらおうと思ってもいる。 しかし、それ以上に・・・。このコネは絶対に手放せないぞ。
そうだ、考えてみれば、実はすごい幸運じゃないのか。
まさに、商売の神ネロの御導きだな。
この幸運を商売に結び付けられないようでは、俺の商人としての未来は無い。
離しませんよ、この伝手!
よし。
まずは、さっきから続くこの不毛な話し合い。
収めてあげましょう。
少しでも恩を売れればありがたい。
「お二人とも、少し落ち着きましょう」
ハヤトとこのエルフの話は、ずっと平行線のままだ。
「と言われましても」
エルフは不満か。
耳を突き立ててるぞ。
まあ、まあ、これから、良い話をしてあげますよ。
「良い解決案があります」
数時間前。
なんとか死地を脱した我々は馬車に乗って、再びレントへの途に就くことになった。
今度はハヤトも一緒だったから、何が襲ってきても怖くない。安心の旅だ。
車内では、先ほどに続いてハヤトに対するお礼と感嘆を、俺を含めた三人が一通り口にした後、自己紹介となった。
ハヤトは14歳でまだ無職。レントで冒険者見習いになるつもりらしい。遠方の出身で、ちょうどレントへの旅の途中、この馬車に遭遇したと。また、この辺りの常識には疎いとも言っていたな。
そうそう、今はあまり目立ちたくないので、今日の事はなるべく言いふらさないで欲しいとお願いされた。
これは渡りに船だ。
こんな凄腕、なるべく他人に知られたくない。だから、喜んで了解した。他の奴らにも、あとでもう一度口止めしておこう。命の恩人の頼みなんだからと。
しかし、このハヤト。
突っ込みどころ満載だな。
まあ、今は止めておこう。
火傷を負った男は、この馬車を守る護衛だ。当然俺たちは知っていたが、ハヤトは知らない。改めて名乗っていた。本来自分がすべき役割をしてもらって、と恐縮しまくっていたな。
まあ、護衛が一人いても、叡竜相手じゃ無理だろうよ。普通はね。
もちろん、俺も自己紹介した。レントで商売をしている駆け出しの商人で、今回はイズルクに商用で行った帰りにこの馬車に乗り合わせていたと。全て本当の事だ。こんなことで、ハヤトに嘘をつくつもりは無い。
そして、エルフ。名前はミュリエル、17歳のハーフエルフ。奴隷らしい。
こいつが厄介だった。
故あってイズルクで奴隷に身を落とした後、数日前にクーリンゲンから来たという裕福な婦人に身受けされたらしい。その婦人がさっき叡竜に殺されたうちの一人。その婦人は、隷属の証をエルフのエイドスに刻み込んだだけで、自分の死後の条件付けを遺言としてエイドスに記していなかった。よって、夫人という主人亡き今、このエルフは無主奴隷になってしまったというわけだ。
エルフが無主奴隷になった経緯を語った後に、この不毛な平行線が始まった。
「そういうわけで、今の私にはお仕えする主が必要なのです。どうかハヤト様。命の恩人である貴方様に、お仕えさせてはいただけないでしょうか」
「!?」
「ぜひ私の主になって下さい!」
「はい??」
「もちろん、お金はいりません。助けていただいたこの命。貴方様のものですから」
「ちょ、ちょっと待って下さい。何を言ってるのか良く解らないんですが・・・」
「ですから、私の主にと」
「・・・」
「年齢のことを気になされているのなら問題ありません。あと数ケ月もすれば新年になります。そうすれば、ハヤト様も御成人の年齢。奴隷を持てる年齢になります」
「・・・? 本当に話が見えないのですが」
「私では、ご不満ですか?」
「いえ、そういう事ではなくてですねぇ」
「確かに、私は奴隷になって日も浅く経験も少ないです。特に取り柄もありません。ですが、一生懸命に尽くさせていただきます」
「だから、違いますって。だいたい、主人が亡くなったのなら、奴隷から解放されれば良いじゃないですか」
「私のような者には、その道を選ぶのは難しいです」
「??」
「どうか、主になって下さい」
長い。
そして、話がかみ合っていない。
どうやら、ハヤトが常識に疎いというのは本当らしい。
そこで、俺が奴隷制度について説明をしてやると、なんとか事情はのみ込めたらしく、話は通じるようになったのだが・・・。
そもそも、奴隷の主人が今回のように魔物に襲われたり、不慮の事故にあったりして死亡するのは少ないことでは無い。ただ、今回は遺言を残していなかった。クーリンゲンに帰ってからエイドスに記載するつもりだったのか、元から遺言を残す気が無かったのか。いずれにしろ、遺言が無い。
そのような場合には、残された道は2つ。新たな主を見つけるか、無主奴隷として独立して暮らすか。まあ、後者は難しいな。よっぽど生活力がある者でもない限り、無主奴隷として自立するのは難しい。
なので、ミュリエルの懇願は理解できる。それに、ハヤトほどの者なら、願ってでも主として仰ぎたいだろう。
ハヤトの人となりも、悪い感じはしないしな。
いや。
それとも、もっと純粋な気持ちか?
命の恩人への感謝。
恩を返すためにも、奉公したい。
そういう感情かもな。
こういったところは、欲得尽くで行動することの多い商人には無いとこだな。しかし、俺もすっかり商人風に染まってしまったようだ。命を救われているのに、まずは感謝優先と考えられない自分が情けないな。
とはいえ、そんな自分が頼もしくもある。
そういうわけなのだが、とにかく話がまとまらない。
「主になって下さい」
「困りますよ」
の繰り返し。
しかし、ハヤト君よ。
タダで奴隷が手に入るのだから貰ってしまえばいいんだよ。
しかも、こんな美人のハーフエルフ。
普通なら、無主奴隷といえども相当な値がつくはず。
俺なら、二つ返事でいただくがね。
転売しても大儲けだ。
でも、今回は下手な手出しはしない。
ハヤトに関することは、何にしても慎重にしないとな。
好感を持ってもらうことが最優先だ。
ここは、ハヤトにとって損の無いよう、融通が利くようにしてやれば良い。
そこで、
「良い解決案があります」
一肌脱ぎましょう。
打算付きですけどね。




