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“評価不定”と世界の混乱  作者: 浅賀ソルト


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3/4

お嬢様の世界

「理解できるとは思いませんが……」補足が必要だと思った私は言葉をつないだ。

 彼は私の方をじっと見た。抱っこしていたヘリャニキカノはそのままだったが、同時に遊んでいたブーリャヘギョーンは兄弟に見つかって彼から離れた。

 私は言った。「暴言を避けるために同伴させないのではなく、暴言を言う人間の意識を変えようとしているんです。そして、これはお嬢様がおっしゃっていたことですが、ひどいことを言われても、親が守ってくれると信じていれば子供は傷つくことはないと」

「そうかなあ……」愛人はそこに疑問をていした。

 とはいえ、私は彼と議論をするような立場にはない。だからその呟きに釣られなかった。それにこの話を突き詰めると、お嬢様は子供たちが傷つけられたときにそれを不当だと信じているが、この愛人は心のどこかで差別されるのも仕方ないと思っていることになる。お嬢様の言い分が常に正しいとは思わないが、堂々と子供を守っているお嬢様を支えるのが正しいと思えた。

 この件に限らないがお嬢様の方が子供たちから好かれている。子供の面倒をよく見て、子供と過ごす時間が長いのはこの愛人の方である。遊ぶのもうまい。お嬢様など日中は図書館にもって世話などしないし、子供の相手をするのも気が向いたときだけである。客観的に観察しているとあまりいい親とは言えない。

 だがお嬢様には不思議な能力があり、それが子供たちに信頼を与えている。1つは1人1人を完璧に把握できること。一卵性の三つ子など慣れてきても見分けがつかないし、見分けがつく兄弟間であっても30人も子供がいれば名前を間違える方が普通だ。ここで詳細の説明は省くが、さらに我が家にはお嬢様とメイドたちとの間にできた子供が合計で21人いる。その中には1人だけでは嫌だと私が求めた結果として生まれた追加の3人(合計4人)も含まれる。その子たち含めてそれぞれの名前だけでなくそのときの気分とか性格も把握していて、ちゃんと個別にお嬢様は対応している。それだけではない。喉に何かを詰まらせて窒息しかかったときとか、塀の上から落ちて首の骨を折ったときとか、生命の危機があるとなぜか気がつくという能力があった。死にかけたときに助けてくれたという記憶は子供も覚えるようで、そこも子供の信頼に繋がっていた。

 本人もなぜ気がつくのかは分からないと言っていた。私も自分の子供をもって、身体が変わったような気はするのだが、それでもお嬢様ほどではない。魔法か何かで無自覚に周囲の精神活動を探知しているとしか思えなかった。

 お嬢様が、子供たちは傷ついていないというならそう信じるしかなかった。


 お嬢様と使用人たちの関係についてあらためて説明しておこう。10歳のお嬢様がレシレカシ魔法学校に入学した頃とはずいぶんと変わってしまった。

 まず構内の家、山の下の宮殿、そして南西蛮族の地にあるヂゲリュツ城、その3箇所に7人ずつのメイドがいる。お嬢様と直接触れ、顔を合わせることができるのはこの7人ずつ21名だけだ。通常は男性執事も付くものだがお嬢様の使用人としてはメイドの中の1人が女性執事として使用人の最上位に位置している。男もその下の地位だし、その男にお嬢様と直接会話をする権利は与えられていない。

 そのほかに直轄地ちょっかつちとしてダトベの地と大陸南西に新興したリザードマンの国——一応名前をここで一度だけ書くと、ヒュビョキューカチョゴキャモという——を治めている。こちら2箇所は使用人は置かず執政官にその運営を任せている。リザードマンの国については南西蛮族統一の戦争の際に彼らにも国が必要ということになり、お嬢様が初代の君主となった。お陰で“蜥蜴姫”という新しい二つ名がお嬢様についた。ヂゲリュツ城も蜥蜴姫の城という二つ名が付いている。お嬢様はリザードマンに人間を食わないように教育し、文化を与え、普通に独立国家として運営しようとしていた。今のところ周囲の南西蛮族たちとは決定的な対立は起こっていない。また、誰も信じていなかったが、お嬢様が言った通り、リザードマンは環境さえ整えれば1つの民族として社会を構成できるだけの知能が備わっていた。

 父や兄からレシレカシへの寄付という名目で支援を受け取っていた頃より経済的には大きくなり、自由度も増した。一方で完全に表舞台に顔を出すことになった。なので不自由にもなった。公務というものが発生するようになったのである。

 それぞれの使用人は現地採用だ。ダトベではダトベの人間。ヂゲリュツ城は南西蛮族ブユ族。レシレカシではレシレカシの町の人といった感じ。私ですらそれぞれの使用人は把握していない。ただ女性執事として他の2人とは挨拶していた。

 山の麓の宮殿はお嬢様の本邸として機能していて、大量の子供によって大騒ぎになっている。山の上は学校や教育に関する別荘の扱いになっていた。そこをまとめるのはサウピヤ国出身のメイドで、私と近い年齢だった。ヂゲリュツ城の執事はソヌーシャクというブユ族の女だった。

 私も把握できていないし、おそらくお嬢様もすべては把握していない。とにかく言いたいのは、お嬢様が大陸の北東、北中央、南の湿地帯の東端、南西のリザードマンの国、飛び飛びで色々なところに領地を持つようになったということである。あ、ギュキヒスの首都は手放したが郊外にあるギュキヒス家の本邸だけはお嬢様の所有ということになっている。晩節を汚したギュキヒス家ゆかりの場所なのでそこはどうでもいいけど。

 当初の身の回りの世話係から、やや政治的な立場に使用人も変わってしまっていた。


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