4話
「……いくらになる?」
『シーデイ』の鮮やかな光は、何かを誘惑しているようだ。
ケイは、その輝きから目を逸らす。
カガリは「そうだなぁ」と言うと、顎をさすった。
下唇を指で軽く弄り、円盤を眺める。
「十――いや、十五円、ってところだな」
「十、五円……」
一日分の食事には、到底及ばない値段。
駄菓子がひとつ買えるか、買えないか。
(こんなに、綺麗なのに)
自分が思うよりも、ずっと価値が低いことに、思わずケイは円盤を見て、呆気に取られる。
そんな彼をカガリは一瞥すると、再び『シーデイ』に目を移した。
「データを読み取れないのが一番痛い。ただ、この反射光は……鳥よけにでも、使えそうだが」
「少し、様子を見る。箱から何か出たら、また来る」
息が詰まる中、ケイはたどたどしく答えた。
カガリは眉を上げて「そうか」というと、ケイに円盤を渡す。
「まぁ、もっと詳しく知りたいってんなら、俺の所より、図書館に行った方が良いだろうな」
「図書館か……」
自嘲しながら、ケイは円盤を受け取った。
***
ケイは仕事を終えて、自宅へ戻った。
汗まみれの服を桶に入れて、生ぬるいシャワーで身を清める。
シャツに着替えて、部屋に戻ると、机の上に置いてある箱のランプが点っていた。
「図書館……」
箱を見て、ケイは呟く。
文字の読み書きができないことに、ケイは不自由を覚えていなかった。
日常的に、金銭の計算ができれば事は足りている。
骨董に文字が付いていたものもあったが、この模様に意味があると知ったケイは心を踊らせていただけだった。
働いて、金を貰い、飯を食う。
その生活サイクルに、新しいものを足すということは、ケイにとって生活の破綻を意味している。
知らないのではなく、知れない。
遺物が出てくるこの箱は、遥か遠い過去からケイを嘲笑っているように感じた。
――こんなことも知らないのか、と。
それでもケイは好奇心を抑えきれず、再びボタンを押してしまった。
*****
よく晴れた暖かな陽射しを浴びながら、カガリは自慢の骨董品の数々を手入れしていた。
店先にパイプ椅子を広げ、どっしり座ったカガリは、四角い小さな鉄の箱から金属の棒をあげる。
そして、付属したハンドルを回すと、甲高い音が鳴り響いた。
……地域で……至急……。
「またどっかで、なんか起きたのか」
ザリザリと、よく聞き取れない音に、カガリはあくびをする。
遠いどこかの話より、カガリは今、ケイのことが気がかりだった。
「あいつ、どうしたんだろうな」
明るい空に目を細め、カガリはポツリと呟いた。
『シーデイ』の件から早数日。
それから、なんの音沙汰もない。
(図書館の話をしたせいか?)
カガリは、ポケットに入ったグシャグシャの箱から、タバコを一本抜き出すと、ライターで火をつけた。
口から煙を吐きながら、瓦礫とあばら屋の隙間から見える、白い塔を望む。
何百年前に建てられたにも関わらず、当時の建築技術をふんだんに使われ、未だ現存している――その建物を図書館と呼んだ。
そこはどんな年齢や人種、性別に関わらず出入りは自由。
通信技術がほとんど失われた、この世で唯一の知識の貯蔵庫。
(あそこに電気が通っているかは謎だが、もしかしたら再生機があるかもしれないと思ったんだが)
咥えタバコで、水拭きを持ち、カガリはガラスのランプを磨いていく。
朝日を通して輝くランプを見て、カガリは口端を吊り上げた。
ふと、ガラスを通した景色の中に人影が見える。
滅多に来ない客だ。
カガリはタバコを口から外し、出迎えようと口を開く。
「いらっしゃ――」
顔を上げた先にいたのは、カガリの待ち人だった。
年甲斐もなく、カガリはケイに駆け寄る。
「ケイ! お前! あれからどうしてたんだよ!」




