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3話

 カガリは、動揺するケイを横目に、一飲み分ほどしかないタバコに火をつける。

 味わうように深く吸うと、ゆっくりと息を吐いた。


「……いいや、その可能性は低いだろうな」


 煙の狭間(はざま)からカガリは言う。


「昨日言っただろ、『タイムカプセル』ってのは土に埋めるってな」


 その言葉に、ケイは視線を円盤からカガリに移した。

 瞳には、困惑(こんわく)動揺(どうよう)()れている。


「確かに、あの箱は劣化(れっか)防止で、読み取ったデータを中で復元する仕組みらしいが……下手すりゃ(くさ)るもんを中に入れる理由がない」


 カガリは円盤を見る。


「箱は、残すためのもんだったんだな……」


 カガリは、納得するように呟いた。

 円盤が照らす、その光の先を見るように、目を細める。


「過去の人間が、未来のおれたちをラリらせたい、ってんなら話は別だが、わざわざあんな大層なもん使う必要ねぇ」

 

 眼鏡を外すと、カガリはケイに視線を合わせた。


「恐らく、これはデータだ」


「データ……」


 ケイが()らした言葉に、カガリは頷く。

 

「その方が小さい箱の中でも、色んなもんが残せるからな」

 

「でも、データは災害で消失しまくって、今じゃ、その『ジテン』みたいな現物しかないって」

 

「現物じゃ、管理しきれないデータを残したかったんだろうよ――ただ、過去の奴らはデータの再生機自体、希少になっちまうことは、想定してなかったみたいだな」


 カガリは、最後の一服を終えると、惜しむようにタバコを灰皿へ捨てた。

 一方、ケイはカガリのいう再生機という言葉に、眉を上げる。


「……そういえばアンタ、この間『コンピュータ』見せてくれたよな?」


 カガリは、その単語に、苦虫を()(つぶ)したような表情を浮かべた。


「『コンピュータ』はダメだ」

 

「なんで?! あれはデータの再生機だって言ったのはアンタだろ!」


 もう少しで、この骨董(こっとう)の意味がわかる。

 その目前で足踏みするカガリに、ケイは声を張り上げた。

 

「俺だって出来りゃ、そうしてる。……あの日、試運転をしてみせただろ。覚えてるか?」


「そりゃあ、もちろん」


 ――先日、カガリが自慢げに、仕入れた『コンピュータ』を起動させ、一瞬の光と轟音(ごうおん)で動かなくなった記憶は新しい。


「あの時は朝で気づかなかったが、ここら一帯のブレーカーを落としていたらしくてな」

 

 カガリは肩をすくめた。


「夜になって、それがわかってよ。ご近所さんから非難殺到(ひなんさっとう)、役人からは大目玉。しばらく、うちだけ電気は必要最低限の供給だ」


 ケイは顔を強張らせた。

 その表情のまま、店内を見回す。

 

 カガリ自慢の、色とりどりのガラスが施されたランプの灯りが消えている。

 ケイは、その事にようやく気づく。


 歯を食いしばって、ケイはカガリを見つめた。

 カガリは、ケイと視線が合うと「仕方がない」とでも言うように、皮肉げに笑う。


「それで……」

 

 大きく呼吸をすると、カガリは『シーデイ』を持ち上げた。


「――どうする? 売るか?」

 

 薄暗い店の中、『シーデイ』は鮮やかすぎる虹色を放っていた。

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