2話
箱の中には、光る円盤が入っていた。
「なんだ、これは」
箱からそれをつまみ上げると、ケイは訝しげに見つめた。
形は丸い。
薄いが固い。
真ん中に小さな穴が空いている。
そして何より、目についたのは、円盤の表面が虹色の光に輝く事だった。
ケイは、あやしい光の美しさに目を奪われてしまうが、しばらくして、ハッと我に帰る。
気を取り直して、円盤を裏返すと、そこは虹色ではなく、白い面だった。
何か文字が書いてあったが、ケイには読む事ができない。
(読む事ができなくちゃ、価値があるのか、ないのかも分からない)
円盤を床に敷いた布の上に置いた。
「明日、また店に行くかぁ」
ケイは、ぼやきながら、箱の蓋を閉めると横になった。
ランプの灯りを消そうと、手を伸ばす間際、ケイの目に円盤の虹色が映る。
ランプのオレンジ色も相まって、キラキラ輝く。
その光に息を呑んだ。
(骨董品屋に売るのは、正直惜しい)
だが、仕方がない。
食べ物は、なんとか摂れてはいるが、住居は隙間風が吹き抜けるオンボロ。
災害が多いこの土地で、どれだけ持つかわからない。
「……持っている金が、多いに越したことはない」
ケイは自分に言い聞かせるように、呟いた。
**
次の日、ケイは、虹色に光るこの円盤が何なのかを尋ねに、カガリの骨董品屋へ足を運んだ。
「なんだか見た事があるな。ちょっと待ってろ」
吸っていたタバコを灰皿に置くと、カガリは店の奥へ行ってしまった。
ケイは置いてあったパイプ椅子に腰をかけた。
手にした円盤は、薄暗い店の中でも輝いている。
ケイは円盤を、いろいろな角度に傾けながら、その光に見惚れていた。
――タバコの煙が尽きた頃。
カガリは一冊の分厚い本を抱えて、戻ってきた。
「ずいぶんと古い本だな?」
「『ジテン』というやつだ。確かそれに似たようなものが、載っていた気がするんだが」
シミや傷が目立つ『ジテン』を勘定台に置くと、カガリは首から吊るしていた眼鏡を掛けた。
ケイから預かった円盤から『ジテン』へ視線をチラチラ行き来させながら、ゴツゴツした指で分厚い本のページをめくっていく。
恐ろしく薄い紙をめくる静かな音。
遠くから聞こえる鳥のさえずり。
その音は、朝が早かったケイの瞼を重くしていった。
***
「これは、『シーデイ』だ!」
カガリの叫びに、ケイはびくりと飛び起きた。
弾みで、パイプ椅子と共に転げ落ちる。
コンクリートの床に尻餅をついた体を、よろよろ起こし、ケイは戸惑いの声を上げた。
「『シーデイ』?」
「ほら、ここだ!」と、カガリは興奮気味に『ジテン』を指さしながら、見せてきた。
ケイが腰を摩りながら、『ジテン』を覗く。
そこに描かれていた絵は、確かに円盤そっくりだった。
「それで、この『シーデイ』は、一体どんな物なんだ?」
ケイは、倒れたパイプ椅子を起こし、座り直した。
カガリは「おっと、そうだった」と言うと、『ジテン』に体を倒して、文字を指でなぞる。
「ええっと……『プレイヤー』? 『オーデオ』? 分からない言葉の方が多いな」
「意味が分かる文字はないのか?」
「そうだな……おっ! これは分かるぞ。『楽』は楽しいと言う意味だ」
「楽しい?」
ケイは怪訝な顔で、『シーデイ』を見つめた。
(楽しい? これで楽しくなるのか?)
ケイは身近な物で、楽しくなるものを考える。
あわよくば、高価な物で、楽しくなるもの。
「まさか……クスリじゃないだろうな?」
ケイにとって、気軽に楽しくなれるもので、かつ高価なものといえばクスリだった。
しかし、クスリは違法なものだ。
高くは売れるが、持っているだけでも逮捕されてしまう。
ケイの友人も何人か、クスリに手を出し、捕まってしまった。
今まで、美しいと思っていた虹色が途端に恐ろしくなる。
ケイの心臓はぞわりと震えた。




