1話
「ケイ! お前古いもん好きだよなァ?」
いつもの様に、店先で骨董品を物色していた青年――ケイは顔を上げた。
彼は店の暖簾を上げる。
「なんか言ったか?」
呼びかけに答えるが、返答はない。
ケイは、面倒くさそうに頭を掻いた。
仕方がないと、店の奥へと歩みを進める。
薄暗い店内。
窓から差した陽光が、床の埃を照らしていた。
店をひしめく大小様々な骨董は、多くの人からガラクタと呼ばれている。
だが、ケイからすれば、それは宝の山だった。
商品棚の奥の奥。
声の主は、そこにいた。
「今日もご苦労だな、これ持ってけ」
上がりで胡坐をかいた店主――骨董品屋のカガリが、「ほらよ」と、ケイに箱を投げ渡した。
彼の咥えたタバコの煙がゆらりと揺れる。
それを「おっと!」と両手で受け取ったケイは、戸惑いながら、渡されたものをじっと見つめた。
なんの変哲もない、金属の箱。
骨董というには、独特の匂いもない。
今時珍しい、傷の少ない小綺麗な物だった。
大きさは、丁度両手に収まるサイズ。
重さは、見た印象より軽くもなく、重くもなく。
「何か入ってんの? コレ」
ケイは、箱を軽く振った。
中から音は、特にしない。
ケイは、蓋のような溝を見つけて、指を引っ掛けた。
渾身の力を込めるが、どうにも箱は開かない。
その様子を見ていたカガリは、ケタケタ笑った。
「違う、違う。それは『タイムカプセル』だ」
「タ、『タイムカプセル』?」
ケイは息を切らせて、聞き返した。
カガリはタバコを口から外し、煙を吐く。
「『タイムカプセル』ってのは、物を入れて土に埋めるもんらしい。そんで、それは掘り出された物ってわけだ」
得意げに語るカガリに、ケイは訳が分からないと顔をしかめる。
「なんで土に埋めるんだ?」
「さぁな、又聞きだから詳しくは知らん。だが、そのおかげで、おれたちは珍しいもんが見れる」
カガリはタバコを咥えると、箱を持ってこいと、ケイに手招きした。
「一日一回――ほら、そこに窪みがあるだろう?」
カガリが箱を回して、指を差した。
こじ開けようとしていた蓋の表面に、丸い窪みと、その横に盛り上がった小さな丸が並んでいる。
「この窪みがボタンだ。横の小さいポッチが光ったら、ボタンが押せる。押したら蓋が開く仕組みだ」
ケイは、ふぅん。と言って、ボタンをまじまじと見つめた。
「この『タイムカプセル』は、だいぶ後にできた物らしくてな。保存状態を維持するために、入れるものをデータにして――」
「難しい話はいいや。つまり、一日一回ボタンを押すと、この箱が開くって事だよな?」
話し甲斐のないケイに、カガリはため息をついた。
「まぁ、そう言う事だな」
「何が出てくる?」
ケイは食い気味に尋ねる。
期待の眼差しをカガリに向けた。
カガリは勿体つけるように、タバコをゆっくりと吸う。
そして、煙の揺らぎの中でニヤリと笑った。
「入れた当時のもの――つまり数百年前の何か、だ」
それを聞いたケイは、久しぶりに胸が高鳴る。
ケイが骨董品屋に通っているのは、古いものが好きだから。
しかし、懐に余裕がなくなった今では、掘り出し物を見つけ、転売をして、日銭を稼ぐ。という事が生きる術になりつつある。
……価値の高いものが出てくるかもしれない。
一瞬でも、そんな考えが過ってしまう。
ケイは、自分自身が嫌になってしまった。
それでも結局、ケイは好奇心に勝てず、差し出された箱を受け取った。
ランプが点くのが楽しみで、その日のキツイ仕事は、時間があっという間に過ぎていく。
いつもの様に、ヘトヘトの体で帰っても、机にあげた箱が視界に入れば、体は少し軽くなった。
***
「ランプが点いた!」
ケイは、思わず声を上げた。
期待と緊張で手を震わせる。
一度唾をごくりと飲むと、窪みをゆっくりと指で押した。
カチリ
箱は小さく音を立てる。
ケイは一瞬呼吸を忘れた。
どうしても開かなかったあの蓋が、僅かに跳ねた。
(数百年前のもの。一体なんだろう)
ケイは早まる鼓動を抑え、箱に指をかけた。




