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《純SFハイファンタジー》星を穿つ槍と、黄金のオムライス――放浪の戦術師とポンコツ戦闘メイド――  作者: ざつ


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第22話:ハンスの休日、そして再会

 スパイスの里の郊外に浮遊要塞ガウスが墜落し、帝国全土を震撼させたあの日から一ヶ月。

 鉄の檻に閉じ込められたゼノン宰相たちが帝都へと送還され、新政府による戦後処理――という名の膨大な事務作業の山が築かれた。その地獄のような書類の海から、ようやく一人の男が奇跡の生還を果たしていた。


「……あ。……あぁ……。空が、青いです。波の音が、電子音じゃない……」


 南方のリゾート地『エメラルド・ラグーン』。ハンスは砂浜に寝そべり、人生初の「一ヶ月連続有給休暇」の多幸感に浸っていた。

 ゼノンの汚職を暴いた功績により、彼は今や帝国軍の「次期幹部候補」としてその名を知らぬ者はいない。だが、本人は「昇進より睡眠、名誉より有給」をモットーに、全連絡を遮断してこの島へ逃げ込んできたのだ。


「……。 ……ハンス様。日焼け止めの塗り直しを推奨。……放置した場合、皮膚組織に不可逆な損傷が発生します」


 彼の傍らでは、観光案内用に再調整された自律人形『リリ・一号』がジュースを運んでいる。ハンスは「ああ、頼むよ……」と目を閉じた。平和だった。あの胃痛の日々が嘘のようだった。


 だが、その安息を切り裂くように、砂浜に数隻の魔導ボートが突っ込んできた。


「見つけたぞ! 聖女エルナの行方を知る男、ハンス副官だな!」


 現れたのは、ゼノンの残党を名乗る過激派の兵士たちだ。彼らは里の再建を支援しているエルナを再び拉致し、帝国の再興を企んでいた。


「……は? 今、なんて言いました?」


 ハンスがゆっくりと体を起こす。その瞳には、かつての温厚な副官の影はなく、休暇を邪魔された者特有の「底知れぬ狂気」が宿っていた。


「私の有給は……まだ二週間も残っているんだ。それを、よりにもよって……お前たちのような『不祥事の残りカス』が邪魔をするのか……?」

「な、なんだこの男……殺気が異常だぞ! やれ!」

「リリ・シリーズ、全機ハッキング。――『バカンス防衛プロトコル』、起動!!」


 ハンスが端末を叩いた瞬間、周囲の観光ドールたちが一斉に戦闘モードへ移行。トレイを円月輪のように投げ、パラソルを槍として構え、残党軍を圧倒し始めた。




 そこへ、空から巨大な影が降りてきた。


「お掃除、間に合いましたわね! ゼロ、着水準備ですわ!」

「……了解。……お姉様。……波が高いです。顔面からの着水を予測」


 ワゴナー号から飛び出したのは、フリル付きのスクール水着に光翼を広げたリゼと、同じく水着姿のゼロだ。


「せいやぁっ!!」


 リゼが勢いよく水面へ飛び込むが、案の定、速度調整をミスして顔面から盛大にダイブ。巨大な水柱が上がる。


「……。……お姉様。……着水時の『潜入戦術(溺死の偽装)』、学びました。私も沈みます」

「ブクブク……違いますわゼロ! 助けて……誰か釣竿で私を回収してぇ!」


 ワゴナー号の甲板から、カイが心底呆れたように釣竿を垂らし、二人を釣り上げる。その隣には、これ見よがしに派手なビキニを着こなしたヴァネッサが、カイの腕にこれでもかと抱きついていた。


「もうカイ、あんなポンコツ姉妹放っておいて、私とプライベート・ビーチに行きましょうよ! この婚姻届、耐水加工済みだから海の中でもサインできるわよ!」

「……論理的に言って、紙の強度の問題ではない。それにヴァネッサ、お前は恩赦されたんだから、いい加減帝都に戻って騎士団の立て直しでもしたらどうだ」

「嫌よ! 私はもう騎士団長なんて辞めたわ! 今の私は、あなたを追いかける『新人冒険者』なのよ!」


 なんとヴァネッサは、地位も名誉も投げ捨て、カイと一緒に旅をするためにギルドに登録してしまったのだ。

「照れちゃって! あなた、さっきから私の胸元をスキャン(直視)してるの、論理眼のログでバレバレなんだから!」

「……. ……ヴァネッサ。マスターの照れ隠し率、88パーセント。……脅威です」




 ハンスの「有給を守る戦い」は、カイたちの乱入によって一瞬で幕を閉じた。

 残党軍のボートはピノが操縦する水陸両用ワゴナー号に踏み潰され、砂浜には再び平和が訪れる。


「……はぁ。カイ殿、結局こうなるんですね。私のバカンスは……」

「……気にするな。ハンス。労働の後の飯は、休暇中に食うものより論理的に旨いはずだ」


 カイは砂浜に即席のキッチンを展開し、南国の果実を手に取った。


「お待たせ。……『バカンス・トロピカルオムライス』だ」

「……っ. 美味しい、ですわ. 甘いのに、後からピリッきて……なんだか、全部許せちゃう味ですわ……」


 リゼがトロリとした表情で頬張る。


「カイ様、ヴァネッサさん。……私、一度は里に残ろうと思いましたけど、やっぱり皆さんに付いてきて正解でした」


 エルナが、オムライスをほおばりながら微笑んだ。


「里のみんなは無事でしたけど、ゼノンさんが汚した大地はまだ死んだままです。私の祈りだけじゃ、元に戻るのに何十年もかかってしまう……。だから、旅をして里の再生に役立つ『奇跡のスパイス』を探したいんです!」

「……。……論理的な判断だな。それに、当面の資金なら腐るほどある。ふっふっふ」


 カイが懐から、金色の紋章が刻まれた重厚なカードを取り出した。


「ゼノンの汚職を明るみにした『国家特別報奨金』だ。軍の裏金口座から合法的に引き抜いたこの予算があれば、ワゴナー号の最高級燃料代も、お前たちの贅沢な食費も、あと数百年は底を突かない」


「ククッ……。その報奨金の支払い手続き、幹部候補の私がネチネチと最高額で査定しておきましたからね」


 ハンスが悪い顔で笑う。


「カイ様! ――実は、さっきの残党たちが持っていた地図に、気になる記述があったんです」


 エルナが、ボロボロになった羊皮紙を広げた。そこには、里の古文書にも記されていた伝説の存在が記されていた。


「これ……『伝説の不死鳥フェニックスの卵』の隠し場所じゃないですか!? 食べるとどんな病も癒え、世界を完全に浄化するエネルギーを秘めているという……」

「……不死鳥の卵、か。もし手に入れば、里の土壌汚染を完全に浄化し、エルナの力を安定させる『究極の食材』になるな」


「決まりね! 冒険者としての私の初仕事は、その卵を手に入れて、最高のオムライスで結婚式を挙げることよ!」

「おい……勝手に話を進めるな。でもまぁ、いいだろう。次の仕事はそれでいこう。で、ハンス、お前の有給はまだ残っているな?」

「……え. まさか、幹部候補の私をまたこき使う気ですか……?」


 ハンスの予感通り、ワゴナー号のエンジンが再び力強く唸りを上げた。


(第23話に続く)


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