ゴブリン討伐
よく見ると娘は尖った耳を持っている、間違いなくエルフだろう。
外見的には俺と同じくらいに見えるが、長寿種であるエルフだ、年齢で言えば俺よりはるか上だと思われる。
娘は口に猿轡をされ、起伏のある身体を縄で縛られ捕らえられている。
二匹の門番に自慢気に捕縛したエルフ見せ付け、お互い下卑た顔で楽しげに会話をしている。
三匹のゴブリンがエルフの娘を跪かせ顎を掴んで顔を念入りに見る。
その中の一回り背の高いゴブリンが長い舌で娘の頰を丹念に舐め回す。
「ゔぅぅ〜〜、ゔぅぅ」
エルフの娘が首を振って逃れようとするが、周りのゴブリン達が頭を抑えた。
眉間に皺を寄せたエルフの顔に興奮したのか周囲に立つゴブリンは舌舐めずりしながら見ている。
ーーこのままだといろんな意味でエルフはヤラレるだろう。
『白虎、ゴブリンにバレないように接近し奇襲するぞ』
『りょうかいだよ〜〜』
「ビス、また奇襲を仕掛けるぞ。粘糸と硬糸を使って援護してくれ」
ビスは俺から離れ木々の間を器用に歩いてゴブリンに近づく。
俺はゴブリンから奪った剣を両手に持つと、自慢のスピードを生かしエルフの娘を捕まえている三匹目掛けて走る。
エルフに気を取られ、俺に気づくのが遅れたゴブリン達の一匹の背中に剣を突き刺し、そのまま剣を離し、隣にいた敵にもう一本の剣を腹に突き刺すと躊躇無く手を離し、さらに先にいるエルフを囲むゴブリン達に向かって進む。
「「「「「「「ギャアァァァァァァ」」」」」」」
不意打ちを受けたゴブリン達は一斉に叫び声を上げた。
「気づくのが遅いんだよ!」
エルフを囲んでいるゴブリンに鋭利な爪をお見舞いし突き飛ばすと、もう一匹のゴブリンにも爪をお見舞いした。
俺はエルフを縛っている縄を掴んでゴブリン達から引き剥がし抱き寄せると、両足に全力を込め思いっきり飛び跳ねてゴブリン達と距離を取った。
「ヴゥゥゥ⁉︎」
突然のことで理解できないエルフは俺の腕の中で暴れ出す。
「大丈夫だ。俺は君を助けにきたんだ。だから少し大人しくしててくれ」
娘は青い眼を大きく見開いて俺を見ると、理解したのか一つ頷くと大人しくなった。
「ギャァァ!」
一回り大きなゴブリンが剣を俺に向けて大きく吠えた。
すると他のゴブリン達は状況を把握したのか各々の武器を手に取って俺を睨む。
ーー門番を含めると敵は7匹か。
『やれなくはないが、エルフの安全を第一に考えないとな』
そんな事を考えていると……、
ゴブリンの足に次々と粘糸が絡みつき、またゴブリン達が混乱に陥る。
「いいぞ、ビス!」
俺はエルフを肩に担ぐと脱兎のごとく森の中へ逃げた。
20分程森の中を駆けると目立つ一本の大樹が見えた。
後ろを振り返って確認したが追っ手の姿は見えない。
ーーどうやらゴブリンから逃げ切ったようだ。
大樹の影に隠れエルフを下ろす。
大樹の周りは蛇のようにうねった大きな根が地面から何本も出ていて神秘的だ。
その根にビスが降りてきた。
「ありがとうビス。助かったよ」
「……」
相変わらず無口なビスだが、屈伸するように足を動かし上下運動をした。
ーービスなりの感情表現なのだろうか。結構可愛いところあるじゃないか。
また、ビスの頭には『!』マークが見える。
レベルが5から7に上がった。スキルは覚えなかった。
「ヴゥヴァヴィヴェェェ!」
ビスに気を取られていると、急にエルフの娘が理解不能なことを叫ぶ。
「ごめんごめん、今外すから大人しくして」
爪で身体を拘束している縄を切って猿轡を外す。
「ありがとうございます。獣人族の者。この恩は後で必ず返します」
エルフの娘は礼儀正しくお礼を言うと軽く頭を下げた。
「困っている可愛い女性を助けるのは当然のことだし。
え〜と、俺はレイっていうんだ、よろしく。よければ君の名前を教えてくれないかな」
可愛いと言われ照れたのか顔を少し赤らめた。
「私はエリスです。この迷いの大森林にある村里ル・フェイのものです」
エリスさんは髪と瞳が薄い青色で、身体の線がわかるタイトな服を着て、その上に薄い金属プレートの胸当で豊満の胸を包み込んでいる。そして腰にはタイトスカートのサイドに深いスリットを入れた服を着ていて、そこから伸びる脚には太腿まである長タイツを履いている。
ーー意外と、というか相当扇情的な出で立ちだ。
「それでエリスさんはゴブリンになぜ捕まったんですか?」
エリスさんは気不味そうな顔で一つ溜息を着くと語り始めた。
「私は里に危害を加える魔獣を倒すために、村の秘宝モルガナの杖を勝手に持ち出して一人で村を出たんです。最初は順調に魔獣を倒していたんですが、迷子になりまして……。私こう見えて方向音痴なんです。……それで遭遇する魔獣に手当たり次第魔法を使っていたら魔力が尽きて、その時運悪くあのゴブリンに遭遇して捕まってしまったのです……」
ーー意外なことパート2だが、外見と違って活発(無謀)だし、迷惑キャラにありがちな方向音痴とか個性がありすぎじゃないか!
「それは災難でしたね……」
当たり障りの無い慰めをする。
「そうなんです。それでお願いがあるのですが、ゴブリン達から私の杖を取り返してほしいのです!」
「まさかあのゴブリンの集落にあるんですか⁉︎」
「はい!」と眩しい笑顔と共に答える。
『マジかぁ〜』と心の中で叫びつつ天を仰ぐ。
木々の間から見える太陽は真上を過ぎ沈み始めている。
ステイタスで時間を見るともう午後4時を過ぎている。これからゴブリンを倒して神殿に戻る頃にはすっかり日が暮れているだろう。
「明日でも良いならお手伝いします。夜の森は危険なので暗くなる前にお互い戻った方がいいと思うんですよ。明日またここに集まってゴブリンを討伐しましょう」
俺の提案に彼女は困った顔をしながら俯く。
「あの……、私、帰り道がわからなんです……」
さすが自称方向音痴。これで自他共に認められた方向音痴になった。
「じゃあ、うちに来てください。狭いし何も無いところで良ければですけど」
「あ、ありがとうございます!」
彼女は俺の手を両手で握ると、顔を近づける。
ーー近いよ!エリスさん顔近いって!




