森の探索で
魔人といえば人族の敵じゃないのか。
そんな奴を仲間にして大丈夫なのか⁉︎
むしろ俺も人族の敵になるのではないか。
今後の布教活動に支障をきたさないか、などなど、一瞬頭をよぎったが、こんなのむしろ異世界あるあるだろうと自分に言い聞かせ、神殿にあるベッドで熟睡した。
ーー二日目
白いカーテンが気持ちよさそうに風を受け元気良くなびいている。
俺は高校の教室で一人教科書を持って座っている。
ーーあ〜、これは夢だな……。
なぜなら空想上の秘書キャラであるシスさんが黒板の前に立ち、色んなポージングをして俺を誘惑しているからだ。
「次のテストに出しますからしっかり観てくださいね」
艶のある声でシスさん、いやシス先生は語る。
小心者の俺、いや僕は教科書を見る振りをしつつ目の端でシスさんをチラ見することしかできない。そんな凝視できない僕に業を煮やしたのかシスさんが黒板を爪で引っ掻き始めた。
「しっかり観なさいと言ったでしょ!」
シス先生の艶かしい指から不快な音が発生し教室中に響いた。
俺は我慢できずに手で耳を押さえた。
「シスさん、観ますからやめてください。シスさん……、シスさんその音は気持ちよく……」
ガバッとベッドから上半身を起こして目覚める。
「キーッ、キーッ」
目覚めたはずなのに不快な音が止まない。
耳を抑えている両腕には鳥肌が立ち未だに寒気がする。
音は外へ出る扉から聞こえ、その原因はすぐにわかった。
「みずぅ〜、みずぅのみたいよ〜。ここあけてぇぇぇ」
白虎が金属製の扉に爪を立て必死に引っ掻いている。
「どうしたんだ白虎」
ベッドから起き上がって白虎のいる扉に向かう。
「レイさま〜〜。とびらあけてぇ〜、はやく〜〜」
白虎は泣きながらこちらを振り返って懇願する。
白虎が一匹通れる幅だけ扉を開けると今まで見たことのない速度で出て行った。
ーー白虎は一体どうしちゃったんだ。
「ふあぁ〜せっかくいい夢見てたのになぁ」
欠伸をしつつ両腕をあげ身体を伸ばしひとりごちる。
「あ!ノエルおはよう」
蝙蝠で魔人のノエルが天井にぶら下がって寝ている。
「おはよう我が主人殿。すまんが日光は苦手じゃからまだ寝かせてもらうぞ」
「お、おう。おやすみ……」
ーーノエルは俺の奴隷のはずなのに何気に上から目線……。
「レイさま〜〜、ただいま〜」
泣いていた白虎は今はニコニコ顔で戻ってきた。何故か足取りも軽い。
「騒がしかったけど何があったんだ?」
「レイさまきいてよ〜。あのしろいのなめたらスッゴクしょっぱかったの!」
白虎は亀の成れの果てである山盛りの白い結晶を前足で叩いて示す。
「これ食べのか……。亀の遺骸のようなモノだぞ。
ん……⁉︎しょっぱいのか、それ……。白い結晶でしょっぱいって、まさかそれ塩なのか⁉︎」
「しお?わかんないけどすごくしょっぱいよ」
また味を思い出したのか、眉間にしわを寄せて舌を出す。
俺は白い粉もとい結晶を指で摘んで一口舐める。
「しょっぱい!まちがいなく塩だ!白虎よくやった!」
白虎を抱き上げて顔に何度もキスをする。
「レイさまがうれしいならボクもうれしいよ」
その後めちゃくちゃ猪肉に塩を振って食べた。
ーースゲー美味かった。
◇
待ちに待った異世界で2回目の【ガチャ】だ。
頭の中に軽快なドラムロールが流れ地面に魔法陣が現れる。青色に光り魔法陣全体を覆った。
青色の発光が終わると……、魔法陣の中に大きい蜘蛛が座っていた。
「ひぃぃぃ」
俺は軽く慄き後ずさった。
まさか体長30cmほどの大型の蜘蛛が出るなんて想像していなかった。
えーと、ステイタスはと。
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<ステイタス>
ランク N
ビッグスパイダー 雌(子供)
種族 魔獣
名前
Lv 1
HP 100/100
MP 22/22
状態 健康
<スキル>
・【粘糸】
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さすが大蜘蛛というだけあって子供でもこのサイズなんですね。
これが成長したら一体どうなるのかと思うと、別なモノとチェンジしたくなる。
ランクは『N』か、一番下のランクだ。
スキルは【粘糸】は……、大体予想できる。
たぶん、糸で敵を絡め取ったり、捕獲用の罠とか作れるのだろう。
大蜘蛛も名前は空白だ。【ガチャ】産の生物は名前がないのだろう。
「よし、お前の名前はビスだ。よろしくな」
「……」
大蜘蛛にビシッと指差し名前を告げるが、ビスは返事をしない。
ーー返事がない、まるで普通の蜘蛛のようだ……。
【言語理解】のスキルがあるのに相手の思いが伝わってこない。
ーーこのスキルは何かの法則があるのだろうか。まあ分からないものを考えてもしょうがない。
ステイタスの名前の欄に『ビス』と記名されたから、問題はないだろう。
1日のメイン行事を終えたことだし今日の予定を立てよう。
転移初日で食と住をどうにか出来たので、今日は森を抜け人族が居るところを目指そう。
布教するにしても人がいないとどうにもならない。
森へ行く準備をすると白虎と【融合】し、ビスを連れ探索を開始する。
『レイさま、きょうはどこいくの?』
「まず、この森を抜けたいから一つの方向を決めて突き進もう。今日は南側に向かってみよう」
『らじゃ〜〜』
この森の中だと方向感覚が狂うので白虎が頭の中から先導する。
二時間ほど森を進んだが森から抜けれない。
『レイさま、おくになにかいるよ〜』
足跡を立てないように木の影に隠れ、そこから敵を確認する。
身長120cm程の小さい緑色の肌をした人型の魔獣が三匹いる。
各々、手にはショートソードを握り、身体に皮の鎧を着ている。
『あれ、ゴブリンだな』
ーーRPGでは定番の魔獣でさほど強くなかったはずだ。
「ビス、ここから【粘糸】でゴブリンの足止めできるかな?」
『……』
返事は無いが、ビスが音を立てず草莽の中に消えた。
「ギャァァ」
一拍の間にゴブリンの一体が叫びを上げ足に絡まった糸を懸命に外している。
次に別のゴブリンの顔に糸が纏わりつくと、剣は落として糸を取ろうと必死に踠いている。
一気にゴブリンパーティーはパニック状態になる。
「ナイスだビス!」
木の影から俺は飛び出し、自慢の爪を伸ばすと一瞬にしてゴブリンの前に躍り出る。
まずは足に糸を巻かれたゴブリンの胸を爪で突くと悲鳴を上げ倒れた。
続いて、顔を抑えているゴブリンを同じく胸を突いて倒す。
一人になったゴブリンは逃げようと背中を向けた瞬間、ビスの糸で足を絡め取られ地面に転がった。
ゴブリンの無防備な背中に爪を二度突き刺しトドメを刺した。
正々堂々とは言い難い奇襲での戦闘だったが、複数の敵を相手にできた。
ビスが俺の足元に戻ってくる。
「よくやったビス!」
ここまで忠実に動いてくれると蜘蛛でも可愛いと思えるから不思議だ。
ビスの頭の上に『!』が浮いている。
ーーなんだこれ?気になった時はステイタスだな。
ビスのステイタスオン
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<ステイタス>
ランク N
ビックスパイダー 雌(子供)
種族 魔獣
名前 ビス
Lv 5
HP 207/207
MP 46/46
状態 健康
<スキル>
・【粘糸】
・【硬糸】
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「おぉ、Lv5にアップしている!やるじゃないかビス」
新スキル【硬糸】を覚えている。
ーーこれは、定番の斬れ味のある糸になるということか。
そうなると白虎のLvも気になる。
ーー次に白虎のステイタスはと……。
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<ステイタス>
ランク SSR
ホワイトタイガー 雌(子供)
種族 ■■
名前 白虎
Lv 2
HP 1500/1500
MP 165/165
状態 健康
<スキル>
・【狩猟】
・【解体】
・【夜目】
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白虎もLv2に上がっている。しかしビスよりLvの上がりが悪い。
ーーランクが上位なことが関係しているのだろうか。
新しいスキルも覚えていないと。
ちなみに俺はLvアップしていなかった。
ゴブリンの死体から剣を奪い取り腰に下げると、次に皮の鎧を剥ぎ取り袋にしまった。
この袋は神殿にあったものだ。
神殿には生活に必要な食器やロープ、水筒などが置いてありありがたく活用している。
ゴブリンから剥ぎ終えると、さらに森を南に進む。
さらに一時間ほど歩くと今度は小さな集落を見つけた。
集落には木で作った柵が張り巡らされていて、集落の入り口には槍を持ったゴブリンが二匹警備している。
集落は木造の荒屋のような建物が多く壁が剥がれていたり、ドアが無かったりと廃墟のような様相を呈している。
「こんなところにゴブリンの集落か……。どうしたもんかな」
『レイさま〜、あそこにちかづいてくるモノがいるよ〜』
暫く集落の入り口を観察していると10匹ほどのゴブリンの群れが現れた。
ゴブリンの群れは殆ど帯剣しており、一匹だけ不似合いなほど立派な杖を手に持っている。
驚いたことに、その群れの中に場違いなほどの見目麗しい娘がロープで縛られているのが見えた。




