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第37話

あけましておめでとうございます

昨年は全く更新ができず、申し訳ありませんでした

色々とありましたが、言い訳はやめておきます

本年こそはよろしくお願いします


今年やること 禁煙 更新


本編は短めです(当社比)

「ねえ、バレンタインのチョコ一緒に作らない?」


 りくの受験も終わり、あとは合格発表を待つだけになった頃、希帆きほからそう提案された。

 受験では、合格祈願のお守りを用意したり、試験日の朝にはカツサンドを用意して朝からカツを食べたせいで、私が胃にダメージを負ったりしたけど、それは余談だ。


「別にいいけど、皆で同じの作るの?」

「え? 駄目かな?」


 同じ物を作るのかと聞いてみれば、首を傾げる希帆。

 うむ、可愛い。ってそうじゃなくて、配る人たちはどうせ同じだろうし、かぶったら微妙じゃないかなーと思うけど、どうなんだろう。


そらさんはどんなのを作る予定なんですか?」

「私? 私はムース入りのチョコを作る予定だけど……」


 かえでちゃんが聞いてきたので素直に答える。

 今までは父と陸の分だけだったし、ある程度は手間をかけて作っていたのだけど、配る人が今年は増えたから、作るのが楽なのにする予定。所詮、義理だしね。

 ……てか、本命とかできたら私もルンルン気分で頑張っちゃったりするのだろうか。うーん……想像できないなあ。


「あ! じゃあ、ムースの作り方とか教えてよ! で、別の味にしたりさ!」

「あー、それならいいかも?」

「じゃあ、決まりですね!」

「楽しみー!」


 私が了承すると、2人は嬉しそうに笑う。

 うむ、可愛いなあ。そうだ、この2人と一緒にお菓子作りができるなら、別にかぶろうがなんだろうが関係ないじゃんね。

 チョコなんかより、そのイベントの方がよっぽど重要じゃんね。


 因みに、この話は放課後の教室でしていたわけだが、鍋島なべしま君を筆頭に、こちらの様子をチラッチラ伺う男子が何人もいてうざったかった。

 チョコなんて、手が込んでない限り、湯煎して固めただけのやつだし、誰から貰っても同じだろうにね。

 それに、バレンタインを控えてそわそわするするなんて、どんだけ飢えてるんだと。

 誰だって毎年1個は貰うだろうに、何をそんなにって感じだよね。

 バレンタインは来週末。一緒に作るのも来週かな。楽しみだなー。




 ----------




 さて、バレンタインが明日に控えた今日、放課後に一緒に買物に行き、チョコを作る予定です。

 で、今は駅近くのデパートにおりますよ。バレンタインの特設コーナーで、希帆と楓ちゃんと一緒にお買い物です。


「んー……どれにしようかなあ」

「迷いますねえ」


 何を買っているかというと、チョコ作りに必要なシリコン型だ。色々あって、2人は迷っているみたい。


「空さんはどれにするつもりですか?」

「ん? 私はこの2つに決めたよ」


 楓ちゃんに聞かれたので、手にとったシリコン型を見せつつ答える。

 私が選んだのは、バラ型と、葉っぱ型のプレートだ。

 ストロベリーでピンクのバラ、抹茶で葉っぱのセットなんか可愛いんじゃないかなーと考えた次第でございます。


「……ハートじゃないんですか?」

「うん、私がハート型とか似合わないしね」


 そもそも、ハート型のチョコを渡す相手がいない。

 楓ちゃんは、そんな事ないと思いますけど……なんて呟いてるけど、私がハート型はキャラが違う気がしてならない。


「じゃあ、空さんが選ばないなら私がハートにしますね……あと、これも!」


 楓ちゃんが選んだのはハートと四つ葉のクローバーの2つ。

 うん、楓ちゃんらしいチョイスだな。


「……うー……私は弟たちの分も作るしこれかな!」


 最後に、さんざ迷って希帆が選んだのが、デフォルメされた恐竜。

 小学生の弟たちなら、そういう系の方が喜びそうだね。


「じゃ、チョコの材料も買って帰ろうか」


 2人が選び終わったので、チョコの材料も持って、レジへと行った。

 さて、チョコを溶かして固めてなんて初めてやるわけだが……ケーキより簡単だよね? ね?




 ----------




 さてさて、帰ってきました我が家です。

 希帆と楓ちゃんも一緒だったので、母に驚かれましたが、一緒にチョコ作りをすると言ったら、凄く微笑ましい顔をされました。釈然としません。

 てか、今日2人が来る事をすっかり言い忘れてましたごめんなさい。


「じゃあ、制服が汚れるといけないからこれ使ってね」


 そう言って、2人にエプロンを渡す。

 2人に渡したのは、母のと私が前に使ってたやつだ。

 私が使うのは、竜泉りゅうせん祭で買ったやつ。


「はーい、ありがとー!」

「ありがとうございます」


 お礼を言いつつ2人が受け取ったので、私も自分のエプロンを着ける。


「じゃ、始めようか」

「はい!」

「はーい!」


 うむ、元気があってよろしい。


「最初は何すればいいですか?」

「とりあえず、チョコ刻みだね」


 楓ちゃんに聞かれたのでそう答えたが、これが結構な重労働である。

 ……えーと、私がチョコあげる予定なのが、希帆と楓ちゃん、両親、陸、館林たてばやし宝蔵院ほうぞういん、鍋島君、今川いまがわ君、真田さなだ君で、1人2個計算で、20個。

 となると、チョコ6枚弱かな? で、それが単純計算で3人分と考えるとチョコ18枚を刻む事になる。

 あ、いや、ホワイトチョコとか抹茶チョコを使うと考えるともっとか。

 うん……うん、チョコ作るのやめていいかな。


「ねえ空ー。チョコって凄い量買ったけど何枚くらい刻むの?」

「……えっとね。単純計算でも20数枚……」

「……うわあ」


 希帆に何枚刻めばいいかと聞かれたので、素直に答えたが、引かれた。まあ、引くわな。


「……終わりますかね」

「それが心配だよね……」


 いま私はなぜ前日に皆で作ろうなどと提案したのかと猛烈に後悔している。いや、私が提案したのかどうかさえおぼろげだが。

 えーと、チョコが型1回分で15個だから2回でしょ? 1回でチョコ4枚だから全部で24枚となるのかな。ホワイトチョコとか使った場合、もっと増えるけども。

 で、1枚5分で刻むとして……120分、2時間か。いや、無いわ。これは無いわ。2人とも泊まり確定になる。これは無い。


「なんか、楽に刻める方法ないかねえ」

「……あ! そうだよ! こんな時こそネットで調べればいいんじゃん!」


 うんざりした希帆の言葉でようやく思い至ったが、ネットで調べればいいんじゃんね!

 こういう時こそのネットですよ!


「もし……調べても無かった場合はどうします?」

「その時は、ご両親に私の家に泊まると連絡してもらう事になる」


 別に2人が泊まる事は全然いいんだけどね。さすがに着替えが無い状態で泊まらせるのは可哀想だし、私の下着類はさすがに貸せない。


「……ねえ、なんで私たちは自力でフードプロセッサーを使うという発想に至らなかったんだろう」

「あ……」

「……あー」


 調べてみたら、すんなりとフードプロセッサーを使うと楽というページに辿り着いた。

 むしろ、自力でそこに辿り着いてもいいんじゃないかと思うレベルの簡単な解決方法である。


「よし! 適当な大きさに割って、ガンガンやってこう!」


 フードプロセッサーを早速取り出し、お湯を沸かしつつ、ガンガンやってきましょう!





「よーし! これ湯煎して型に入れればいいんだよね!」


 フードプロセッサーで刻みまくったのが終わり、希帆がそう言うが、まだやる事があるのさ。


「いや、これを湯煎はするんだけど、テンパリングっていうのしなきゃいけないらしい」

「……テンパリング?」

「うん」


 テンパリングをしないとツヤが出ずに綺麗にならないらしい。


「……えー、それしなきゃ駄目なの?」

「ツヤがやらないと出ないらしいからねえ。やらないとね」


 希帆がぶーたれたが、さすがにツヤの無いチョコは格好が悪いと思うのでね。仕方ないね。

 60度のお湯で、チョコが50度以上にならないよう湯煎し、水に変え、27度まで冷やす。その後、更に30度まで湯煎で温めればいいらしい。

 そして、この工程をやりながら思う。チョコチップクッキーとか無難なのにしとけばよかった、と。


「じゃ、テンパリング終わったから型に塗っていくよ」


 面倒な工程はほぼ終わった!

 あとは、ムース作って、型に入れて固めるだけだ!


「全部入れちゃ駄目なんだよね?」

「うん、ムース入れるからね。塗るだけだよ」


 で、肝心の買い物の時に言ってた色なんですがね。やりません。めんどいです!

 普通のでいいじゃん。所詮は義理だし。色の数だけ刻めと! テンパリングしろと! 義理に対してそこまでしろと! しません。


「塗り終わったよー」

「終わりましたー」

「じゃあ、冷蔵庫で冷やして固めてるうちにムース作ろうか」

「「はーい!」」


 ムースはと言うと、生クリームを泡立て、お湯で溶いたゼラチンといちごジャムを入れるだけなので簡単。

 泡立てが大変ではあるのだが、ここは機械に頼りますしね。

 で、チョコが固まったら型にムースを8分目くらいまで入れ、再び湯煎したチョコを入れて蓋をし、冷蔵庫へ。


「じゃ、チョコが固まるの待つ間、すこし休憩しようか」

「おー、いいね」

「そうしましょう」


 2人に提案すると、嬉しそうな顔をしたので、パパッと紅茶でも入れる準備をしましょうかね。


「……ねえ、空? 夕飯どうするの?」

「あ……」


 台所を覗き込むようにして母がいた。

 てか、夕飯の事すっかり忘れてた。


「ごめん、忘れてた」

「だろうと思ったわ。空が作ってね」

「いいけど……何を作る予定だった?」

「考えてなかった」

「そか」


 母に謝ると、私に作れと言ってきた。別にそれは全然構わない。

 で、食材が無駄になるのも嫌だし、母が作る予定だったものを倣おうと思ったのだけど、考えてなかったとのこと。んー……ありあわせでいいかなあ。


「大したもの作れないと思うけど、2人も食べていってね」

「母さん、それ私の台詞だよね?」

「それもそうねー」

「え、いいんですか?」

「いいの?」

「うん、大したもの作れないと思うけどよかったら食べてって」

「「いただきます!」」


 母に台詞を取られたが、それは作る人間が言うべきだと思うんだ。

 さて、希帆も楓ちゃんも食べてってくれる事になったからヘタな物は作れない。が、そもそも食材は何が残ってるんだろうか。


 炊飯器を見る限り、ご飯は炊けてる。

 冷蔵庫の中身はーと……ふむ。

 大根と鶏ももとネギ、ほうれん草、しらす、豆腐くらいか……。

 ふーむ……やっぱり一汁三菜はキープしたいよね。となると、大根、鶏もも、ほうれん草でおかず3品で、汁に豆腐が無難か?

 いや、湯豆腐にして大根でお味噌汁もあり? んー、でも時間がかからない献立でいきたい。陸が帰ってきて騒ぐ前に準備を終わらせたい。


「……よし! 決めた!」


 まずは、鶏もも肉を冷蔵庫から出して常温で置いておこう。

 で、その間にお味噌汁用と、ほうれん草用を茹でる用の水を沸かし、大根を輪切りにし、皮を剥いて十字に切り目を入れる。

 あとは、ラップをしてレンジで4分くらいかな? チンする。

 よし、温め待ちの間に調味料を混ぜておきましょう。といっても醤油とみりんと砂糖を混ぜるだけなんだけどね。

 ……あ、鶏もも肉用の調味料も混ぜておくか。こちらは、醤油、みりん、砂糖、酒だって……あー……味同じ系統の2つだ!

 失敗したなあ。今から変えるか? んー……でも思いついちゃったしなあ。変えるのもめんどいし……いっか!


 よし、めんどいしそのままの献立でと決まったので、レンジでチンし終わった大根を、ごま油を熱したところに投入。で、じっくりと両面を焼き、調味料を入れて、時々ひっくり返しながら、色がついたら終了。彩りに水菜を添えてって、水菜無い! 無いから気にしない! 終わり!


 次は鶏ももで1品。

 フライパンで皮目から焼き、焼き色がついたら返して1、2分焼く。で、さっき合わせておいた調味料を入れ、10分ほど中火で調味料が煮立つ状態をキープし、時々返しながら肉にタレを絡ませる。肉に火が通ったら、タレを焦がさないように火加減を調整しつつ、タレにとろみが出し、火を止めたら2分ほどそのままで肉を休ませる。盛り付ける時にフライパンに残ったタレをかければ終了だ。


 あとは、ほうれん草のおひたしとお味噌汁。

 ほうれん草を茹でて、水にとり、灰汁を抜き、絞って食べやすいサイズに切る。あとは、盛り付けてしらすを乗せ、白だしを少々と、最後に鰹節を乗せて終わり。

 お味噌汁は、だしの素入れて沸騰したら、見つけ出した戻した状態のふえるワカメと豆腐を入れ、火が通ったら、味噌を入れ、煮立つ直前で火を止めるだけ。


「よし! できたよー」

「わーい!」

「空さんのご飯久しぶりですね!」


 陸が帰ってくる前になんとか作り終わり、母と2人に呼びかけると、満面の笑みでこちらへと来た。うむ、可愛い。


「今日の献立はなんですか!」

「大根ステーキと鶏の照り焼きと、ほうれん草のおひたしにお味噌汁だよ」

「おー! たーのしみー」


 希帆が献立を聞き、小躍りして喜ぶ。

 なぜ、この子はこんなに可愛いのだろうか。うちの子にできないかなあ。


 配膳を終え、4人で食卓を囲んでいる最中に陸が帰ってきて、希帆と楓ちゃんが居ることに驚いたり、今年はチョコレートケーキじゃない事にしょんぼりしたりしたが、まあ、陸は普通のチョコでもあげれば喜ぶので何も問題はないだろう。


「じゃ! また明日ねー!」

「空さん、今日はありがとうございました」

「うん、じゃあね」


 夕飯も終え、用意していたトリュフ箱にチョコを詰めて、今日は解散。

 本当なら泊まっていってくれてもよかったのだけど、着替えとか持ってきてないしね、仕方ない。

 さーて、明日はバレンタイン本番ですか。

 ……男のみならず、家族以外にチョコを渡すのが初めてなわけだが、皆喜んでくれるかなあ。……いかん、少し緊張してきた。




 ----------




 さて、バレンタイン当日であります!

 そして、朝起きて気付いたのだけど、鍋島君の誕生日でありました! ……用意してないっていうね忘れてたっていうね。

 ……予定数から余った分でラッピングしたチョコを渡して誤魔化すか。うん、そんなもんでいいでしょ。

 てなわけで、鍋島君のだけチョコを倍増が決定し、紙袋に配るチョコを入れ、準備完了でございます。


 学校へと着くと、そりゃもう朝から少し浮ついた空気が蔓延しておりますよ。

 男子たちは気にしてないフリをしつつそわそわしたり、女子はキャッキャ楽しそうだったりとね。


 あ、因みになんだけど、学校へと行く途中で鍋島君の誕生日をすっかり忘れてた事を話したら呆れられた。

 2人は何を用意したのか聞いてみたが、市販のちょっとオシャレなチョコを誕生日用で買ったらしい。……私と大差なくね? とも思ったが、用意してるのと間に合わせたのじゃ大きな差があるよと、またしても呆れられた。

 悔しかったから、途中でコンビニ寄ってチョコ買ってやった。バレンタインコーナーにチ○ルチョコもあって、手が伸びそうになったけど我慢した!

 そして、これで誕生日分の手作りの方のチョコを渡す理由も無くなったので、通常の分量になる。まあ、実際既成品の方が美味しいしね?


「片桐さん! これ、私の気持ちです! 受け取ってください!」

「あ、中東なかひがしさん。おはよう」

「おはようございます。そのスルーっぷり素晴らしいです」


 教室に入って席につくなり、中東さんが小走りに駆け寄ってきてこれである。

 彼女の奇行はだいぶ慣れてきたけど、スルーされて嬉しそうにしてるってどうなの……。


「中東さんおはよー! クッキーの匂いがする!」

「希帆さんおはようございますー! 友チョコ的なやつでクッキー焼いてきました!」


 中東さんと希帆が手を取り合ってキャッキャしてる。170はある中東さんと、150しか無い希帆がキャッキャしてるのは目の保養になるね。

 あと、中東さんは私に対する時と希帆たち他の子を相手にする時の差が酷すぎやしませんか。


「てなわけで、希帆さんも、吾妻さんも、片桐さんも友チョコもとい、友クッキーどぞー!」

「ありがとー!」

「ありがとうございます」

「ありがとう。中東さんもこれどうぞ」

「ありがとうございますー! 本命だったらごめんなさい! 私には彼氏が……いや、彼氏を2号ちゃんにして片桐さん本命という手も……」


 中東さんにクッキーを貰ったので、お返しに作った分を渡したらこれである。

 本命な訳がないでしょうがね。あと、彼氏いるならそっちを大切にしてあげてください。いや、ホント。

 まあ、この人はこう言って遊んでるだけだって分かりきってるんだけどね。


「あ、片桐さんズおはようございますー」


 ガラリと教室の戸が開き、鍋島君が入ってきた。どうでもいいけど、ズって略すなズって。


「あ、おはよー! あとで誕生日プレゼントあげるね!」

「おはようございます。私もあとで渡しますね」

「おはよう。そして、右に同じ」

「おー! マジっすか。いやあ、嬉しいっすねえ」


 誕生日プレゼントを貰える事に喜んでくれてはいるが、間に合わせで大変申し訳なく思う。……ホントごめん。


「お、鍋! いいとこに来た。こっち来い」

「ちょ、なんすか!」

「いいから! 教壇の前に立ておら!」

「……あー」


 クラスの男子が鍋島君のそばに来て無理やり引っ張ろうとし、教壇の前の台詞で何かを察したのか抵抗する事なく、足を引きずるように歩いていった。

 何が始まるんだろうか。


「「「「「これ! 受け取ってください!」」」」」

「高校進学してもやっぱり俺の誕生日はこの流れっすか!」


 教壇の前に立った鍋島君の前に、男子10人ほどが跪き、チョコらしき物を両手で差し出すというシュールな絵が完成した。

 あ、これ男子校であるって聞いた事ある絵だ。ネットで似たようなの見たことあるぞ。


「おー」


 希帆が感心したような声をあげると同時にカシャッという音がしたので、そちらを見てみると、スマホ構えて写真を撮っていた。

 よし、私も撮ろう。


「はよーす」

「おはようございます」

「おはよー」

「……おはよう」


 鍋島君たちのコント? を眺めていたら、館林、宝蔵院、今川君、真田君が教室に入ってきた。いつもより遅いね。


「おはよう。今日は少し遅いね?」

「……あー、上履き発掘してた」


 私が遅かったねと聞いてみると、館林が心底だるそうに答えてくれた。他の面々も同じような感じで苦笑いである。……発掘?


「これが下駄箱にギッチリ入ってましてね。大変でした」

「すげーぞ。テトリスみたくなってやがった」

「なんか、高校入ってから倍増した感があるねえ」

「……」


 全員が同じように手を少し挙げ、持っている物を見せてくれる。で、見えたのはレジ袋に入ったチョコらしき物。

 皆凄いな。これ、私があげてもむしろ迷惑になるんじゃね? 男子どもにあげる分、可愛い女の子にあげてもいいんじゃね?

 てか、陸といい、漫画にしか無いようなチョコの貰い方してる人って実在するのね。それがびっくりだわ。


「いらないかもだけど、これ義理チョコー!」

「もう、いらないかもしれませんが、よかったらどうぞ」

「いえ、いりますよ。ありがとうございます」

「ダチから貰う分は普通に嬉しいしな。ありがとな」

「そうだねえ、ありがとー」

「……感謝する」


 私が、こいつらにはもうあげなくていいんじゃね? などと考えていたら希帆たちがチョコを渡していた。

 そして、お礼を言いつつ受け取り、私を見る男子たち。……分かったよ、失礼な事考えてごめんて。


「じゃ、私からも義理チョコどうぞ」

「ありがとうございます。が、鏑木さんもですが、せめて友チョコと言ってほしい気もしますね」

「ありがとな。いや、知ってる奴らのチョコだと安心感が違うな」

「だよねー。クラスと名前が書いてあるならまだしも、差出人不明のとか怖くて怖くて」

「……この前、本命チョコには血液やら体液を入れるとっていうのをネットで見てな……それはそうと感謝する」


 ……うわあ。

 私は、今の今までバレンタインイベントに興味がなかったから知らなかったけど、そんなのがあるのか。

 もしかして、結構普通にやられてる事なのかな。好きな人に変なもの食べさせようとか何考えてるんだろ。てか、好きな人がそのせいで具合悪くなったりしても平気なのだろうか。


「……さなやんがそんな事言うから余計にこれらのチョコが怖くなったじゃん」

「わ、私たちのは変なの入ってないから安心してね!」

「いや、それは分かってるから大丈夫だよ」


 希帆が顔をひきつらせて念を入れるが、さすがに分かっていると苦笑いで今川君が答えた。


「……一緒にこれ食うか?」

「全力で遠慮させていただきます!」


 冗談半分でだろうが、真田君がそんな事を言う。

 そして、それに希帆が真顔で断りを入れた。希帆が食べ物を断るとは相当な事である。

 ……まあ、私もそんな話を聞かされて、誰が作ったともしれないチョコを食べる気には全くもってならんけども。


「いやー、今年も大量なのにあんま嬉しくねえっすわー」


 コントをしてた鍋島君が両手にチョコを抱えて戻ってきた。いや、そろそろ鹿せんせい来るだろうし席戻れよ。


「あ、戻ってきた。チョコと誕生日プレゼントあげるね!」


 鍋島君が戻ってきたのを確認した希帆が、チョコと誕生日プレゼントをそう言って渡す。まあ、どっちもチョコなんだけどな!


「お、ありがとうございますー。うん、プレゼントもチョコっすか。なんとなくそんな気はしてた」

「私からもあげますね」

「ありがとうございますー」

「私からもどうぞ」

「あざっすー」


 流れで楓ちゃんも渡したので、私も渡した。


「嬉しいんだけど、俺って誕生日にチョコやらお菓子以外の物を貰える日ってくるんすかね」


 楓ちゃんと私からの誕生日プレゼントもチョコであるのを確認して、苦笑いしつつそう言う鍋島君。

 彼女とかできたらバレンタインとは別枠でちゃんと用意してくれそうだけど、友だち同士の関係だと諦めたほうがいいんじゃないかなーという気がするよ。


 まあ、そんなこんなでバレンタインと鍋島君の誕生日イベントは終了した。

 うん? 希帆たちの時と比べて簡単じゃないかって? 友だちといえど、野郎の誕生日なんてこんなもんですよ。

 去年までだったら、学校でキャッキャしながらチョコを持ってきてる子たちを眺めて、家に帰って、家族にチョコ渡して終わりだったからね。

 それに比べたら進歩したもんですよ、ええ。


 あ、家に帰って家族にもちゃんとあげましたよ。弟はケーキじゃない事にしょんぼりしてたくせに、あげれば普通に喜んでくれました。

 父も、今年はケーキじゃないんだなと言いつつ喜んでくれましたよ。

 因みに、母が用意したバレンタインチョコはザッハトルテでした。空がケーキじゃないから頑張った! ってドヤ顔してた。

 かなり美味しくて驚きましたよ。母すげえ。

 父は、食後に出てきたザッハトルテを見て、いそいそと書斎の棚からジョニ青を出してきて母と一緒に飲みながらケーキを食べてた。

 分かる、分かるよ。チョコレートケーキとウィスキーの組み合わせはヤバいよね。と、前世での事を思い出しつつ心の中で頷いてました。

 あー、成人したらウィスキーちびちびやりたい。野球観戦しながらビールがぶ飲みも捨てがたいけどね。

次回から2年生編に入ります

最終章となります


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― 新着の感想 ―
[良い点] 一気読みしてしまいました! すごく面白かったです!
[一言] 凄く続きが気になります
[一言] 続きが続きが読みたいです。
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