006話 新しい拠点
『サンク商会のサンクです。都合の良い時間にサンク商会へお集まりください』
サンク商会からささやき鳥という魔道具が飛んできてみさきの肩に止まり、声が発せられた。
「そいつは伝言の魔道具か」
「剣と魔法の世界って感じがするよね」
「こっちの界に魔法があるなんて、神様言ってなかったんだから」
「先日の魔物討伐では、夕霧の魔法使いが炎の槍を飛ばしていましたし、魔法が当たり前の世界のようですよね」
「そうだよな。魔法が使えるよう、神様にねだっておけばよかったぞ」
四人の中では物理攻撃担当のように思えるりんが魔法に恋い焦がれている。
「みんな話が逸れちゃってるよ。本題はサンク商会に集まる話だよ」
「今、手が空いていますし、早速サンク商会に向かいましょうか」
契約時にもらった資料の中に、サンク商会の地図がある。それを手に宿屋から出て町の中を歩く。
「あったあった。あれだ」
小奇麗な二階建ての建物。それがサンク商会。町を東西に貫く大通りの一本隣の通りに面する好立地。
木の扉をノックすると、「どうぞお入りください」と声がし、四人は建物の中へと入った。
そこは応接室で豪華なソファーが設えてあり、サンクの手招きで全員ソファーに腰かけた。
「今日、皆様に集まっていただいたのは、お目当ての物件が見つかったからです。このような間取りの物件です。いかがでしょうか?」
テーブルに間取り図を置き、続けてその隣にグリーブの町の地図を置いた。
「リビングが広い物件ですね」
「十分、レッスンできそうだよ。キッチンもあってバッチリ生活できるね」
「キッチンに立つのはあんたたちなんだからね」
「そう言わずにさ、すぐにあやに料理を教えてやるから」
料理をしたことのないあや。それに教えるりんにしてみても塩コショウ炒めぐらいしかしたことがない……。調味料の少ないこの世界ではそれで十分やっていけるのかもしれない。
「宿屋ではありませんので、食事のほうは皆様で用意してくださいね」
「お? 二階の間取りもあるぞ。階段もあるし、もしかすると戸建て物件なのか?」
食い入るように間取り図を見つめるりん。
「はい。一戸建ての物件です。リビングが広く、そちらでレッスンできそうなものを選ばせていただきました。寝室は二階となります」
「いいよいいよ。バッチリだよ」
「にじいろタイフーンの新しい門出にピッタリのお部屋よね」
「文句のつけようがありません」
「これで決まりだろ」
「お気に召すようでしたら、今から内見に向かいましょう」
サンク商会を出て通りを南、東へと進む。
町の中心からやや外れた場所に、目的の物件が建っていた。
「こちらが今回ご紹介する物件です。さ、中へどうぞ」
ドアを開けると、そこは広いリビング。その奥にキッチンが備わっている。
「うわ、広いな~」
「これだけの広さがあれば、四人で踊っても余裕があります」
「五人になっても大丈夫だね」
「そんな奇特な人、いるわけないじゃない」
リビングに並び、腕を伸ばす四人。それでも広さには余裕がある。
「鏡があるといいな」
「大きな鏡が理想だけど、姿見をいくつか並べてもいいかしら」
「鏡ですか。わかりました、手配しましょう」
鏡があれば自身の踊りのズレなどを確認できる。
踊りを苦手とするゆいながボソっと口にし、みさきがそれに続くと、サンクが反応した。
「それとマイクってこの世界にあったりしません?」
「マイクとは、いかなる品物でしょう?」
「こう手に持って歌うと、その声を遠くまで届ける道具です」
マイクを手にするような仕草をするみさき。
「ああ、拡声の魔道具ですね。そちらも手配しましょう」
歌唱隊列で軽く踊って広さを確認し、キッチンの観察に向かう。
「この水は飲めるのか?」
蛇口のレバーを上げると水が出た。
地球において、日本以外の国では水道水を直接飲むことはできなかった。この世界ではどうなのだろう?
「この家は最新の設備を導入しておりまして、水は魔石から生成しています。ですから飲むことができます」
「最新の設備なんだ~」
「この町では多くの家が井戸水を利用しています。ですが井戸水を汲みに行くのは大変ですから、比較的新しい家では魔石の設備を採用しているのです」
キッチンの広さも十分だ。一階部分の観察を終えると、一行は二階へと上がった。
そこには寝室が二部屋あり、それぞれベッド三つまで置けそうな広さを有している。
「寝室も十分よね。にじいろタイフーンの拠点として合格かしら」
「ええ。こちらで決まりにしましょう」
内見を終え外に出る。
すると、少し先の路上では人だかりができていた。
「なんの集まりだ?」
「もう少し近づかないとはっきりしたことは言えませんが、おそらく奴隷商人が奴隷を販売しているように思えます」
そのまま人だかりの後方へ歩み寄る。やはり、奴隷商人が奴隷を販売している最中だった。販売されている奴隷少女は薄汚れたボロ着に痩せた体。伏せがちな目で哀しそうに見える。
「奴隷? この世界には奴隷の制度があるの?」
「まだ子供じゃない」
「奴隷は合法です。たとえば農村部へ行くと、口減らしのために子供を奴隷商人に売ることが平然と行われています」
「奴隷って買われた先でこき使われるんだろ? そんなの、認められないぞ」
「購入者の意のままに使用されるとしか、答えられません……」
「そんなあ。可哀想だよ」
「サンクさん。あの子を助けてください。私たちが面倒を見ますから」
「そう言われましてもですねえ……」
四人の憐れみの視線がサンクに集中する。
「はいはい、わかりました、わかりました。これも皆様への投資としましょう」
サンクはそう言うと、集まりの前方へ行って挙手し、購入価格を告げる。
二、三回、購入価格の変更がありはしたが、無事、サンクが奴隷少女を落札した。
サンクは少女を連れて四人の前に来た。
「君、名前はなんていうの?」
「パルル……」
腰をかがめてゆいなが問うと、俯きがちに名前が告げられた。
「あわわっ」
いきなり、パルルはふらりとその場に蹲った。
「どこか具合でも悪いのか?」
「うぅ……」
抱き起そうとすると小さな声が漏れる。
「おそらく、空腹で動けなくなったのでしょう。大きな声では言えませんが、あの奴隷商は奴隷の扱いが雑でしたから、十分考えられます」
「空腹か。それならどうだ。ほら、食べなよ」
りんはいつも宿屋の朝食の一部を魔法収納に仕舞い、おやつ代わりにしている。それを取り出し、パルルの口元に押しつけた。
「ぅ……、はむっ」
弱々しく咀嚼を始めると、突然りんの手の中にある食料を掴み、激しく食べだした。
「少しは元気になったのか」
すべて食べ終えると、パルルはよろりと立ち上がり、涙目でりんを見上げながら抱き着いた。
「私はりんだ」
「ゆいなだよ」
「あや、なんだからね」
「みさきです」
「皆様、満足しましたか?」
一歩後ろからサンクの声が届けられた。
「うん。サンクさん、ありがとー」
「そうだよな。これはサンクの手柄だよな」
「あんた、いいところあるじゃない」
「私としましても格差社会にはいろいろ不満がありますから。たまには社会に抗ってみることも満更ではありません。あ、でも、これで打ち止めですよ。二人目はありませんから」
パルルはみさきたちに引き取られ、今後一緒に過ごすことになった。
洋服を買い、宿屋で体を奇麗に拭いて髪を梳くことで見違えるように可愛い姿となった。
やや痩せてはいるのだが、それは今後の食生活で改善することだろう。




