005話 凶変魔物討伐
にじいろタイフーンの四人は、グリーブの町の南西にある森の中を歩いている。
それはギルドマスター、グレルからの指名依頼を受けたから。その内容はイビルスラッシャーベア討伐で、夕霧、にじいろタイフーンの二パーティー合同依頼だ。
「まさか夕霧のみんなと合同で依頼を受けることになるなんて思ってもみなかったぞ」
「こちらも踊り子の嬢ちゃんたちの護衛を任されるなんて、考えもしなかったぜ」
「踊り子じゃないわ。アイドルよ、アイドル。アイドルなんだからね」
Aランクの夕霧は剣士、盾役、魔法使い、ヒーラーの女性四人パーティーで、にじいろタイフーンの護衛の任務が課せられている。
今、夕霧の四人が先頭に立って神経をとがらせ、にじいろタイフーンの前方を守る形で移動している。
「で、討伐対象の凶変魔物って普通の魔物と何か違うのか?」
「あーら、知らないで依頼を受けたのかしら?」
りんの問いかけに夕霧の魔法使いエルビスがあきれ顔で返した。
「凶変魔物ってのはだな、通常の魔物が突然変異してより強力になったやつだ。通常の魔物より格段に凶暴なのさ」
身振り手振りで魔物の凶暴さを表す夕霧のリーダー、剣士のオーサ。
「格段に凶暴な魔物……」
「凶暴だからこそ、Aランクのあたいらが嬢ちゃんたちの護衛をして移動し、実際に戦闘になったら、嬢ちゃんたちは後方待機になるのさ」
あくまでも魔物と戦うのは夕霧の四人であって、にじいろタイフーンの四人は誰かが呪いを受けたら歌と踊りで解呪する役割となっている。
「おいらたち、イビルスラッシャーベアが出現してから、呪いが怖くて南西の森に行くことはなかったっス」
先頭を行く盾役のダリィ。夕霧の中では一番体格がいい。
「あーら、アイドルの踊りが呪いを解くって本当かしら?」
「病院での実験では、解呪できていました」
「うん。もじゃもじゃがすべすべに変わっていたよ」
みさきが淡々と返すのに対し、ゆいなは腕を摩るようにして返した。もじゃもじゃとは獣毛のことで、すべすべとは獣毛が消えてなくなった肌のことを指している。
「実験を一回しただけなんだけどな」
イビルスラッシャーベアの攻撃でかすり傷を負うだけで呪いにかかり、呪いを受けると全身から力が抜けて、あっという間に戦闘不能になる。それで迅速な解呪が求められている。
これまでは呪いを解くことができないこともあり、イビルスラッシャーベアの討伐は不可能で、南西の森は進入禁止とされていた。
「あーら、目標が探索魔法の範囲に入ったかしら。右前方、もうすぐかしら」
「あたいらは臨戦態勢!」
エルビスが右前方を見つめて目標発見の声を上げた。それと同時に、夕霧の四人がにじいろタイフーンの前に並び、武器を構える。
「そろそろ視界に入るかしら。気をつけて」
「にじいろタイフーンはここで待機、あたいら夕霧はもう少しだけ進んで待ち受ける」
「待ち受けるっス!」
ここでいったん止まり、態勢を整える。
ダリィが大盾を地面に突き刺し、剣士のオーサはその隣で剣を構える。魔法使いのエルビスとヒーラーのリリナはそこから一歩下がった位置に立った。
にじいろタイフーンの四人は前列二人後列二人の歌唱隊列でスタンバイしている。
「あーら、先制攻撃はどうかしら。フレイムランス!」
先制攻撃を放ったのは魔法使いエルビス。炎の槍が木々の間から現れたイビルスラッシャーベアの右肩に命中。ただ、傷は浅い。
それに合わせてダリィが大盾を叩き、挑発する。
「お前の相手はおいらがするっス!」
攻撃を受けて怒りを露わにしたイビルスラッシャーベアは大盾めがけて突進、ショルダータックルからの鋭利なツメによる引き裂き攻撃を見舞わせる。
「今だ!」
剣士のオーサが大盾に固執するイビルスラッシャーベアの右腕に斬りつけ、さらに返す刃で脇腹を掠める。
「おっと、ダリィ、標的固定が甘くなっているぞ」
オーサの目の前を鋭利なツメが通り過ぎた。
「クマ公、お前の相手はおいらがするっス!」
ダリィがもう一度標的固定をすると、イビルスラッシャーベアの意識が完全に大盾に向いた。
「ぐっ……。耐えるっス」
急激な叩きつけの連打に、盾が押し倒されないよう必死に押さえ続けるダリィ。さらにイビルスラッシャーベアの口から火炎が放出される。
「ぐぅっ」
「あーら。次は切りつけ魔法はどうかしら? アイアンブレード!」
火炎を放出中のその胸元に魔法の鉄剣が切り込みを入れる。
イビルスラッシャーベアは大きく仰け反り、火炎は空を焼く。
「今度こそ深く切り込んでやる」
オーサが前に出てイビルスラッシャーベアの側面を力尽くで切りつける。
「まだ浅い。剛毛が邪魔……、うわっ」
標的固定が解けたのか、鋭利なツメがオーサに向かって振り下ろされた。
「こいつ、標的固定を時々潜り抜けるっス。油断ならないっス」
再び執拗に大盾に攻撃を加えるイビルスラッシャーベア。
その脇には片膝をついているオーサ。呪いがかけられたようで脱力して動けない。
「解呪をお願いします!」
ヒーラーのリリナが叫んだ。それに応じ、にじいろタイフーンはすぐに歌いだす。
やがてオーサは呪いが解けたようで右腕を押さえて立ち上がり、さらに回復魔法を受けてその押さえを外す。何事もなかったかのように隊列に復帰した。
「あら、どうしたのかしら?」
「イビルスラシャーベアが苦しそうにもがいているぞ」
どうしたことか、にじいろタイフーンが踊りだすと、さっきまで大盾に連続で攻撃をし続けていたイビルスラッシャーベアの攻撃が止まり、四肢で地面をワシ掴みし、体全体を痙攣させ始めた。
やがて両腕で頭を抱えて仰け反ると、イビスルラッシャーベアの姿が消えた。
「あらっ! イビルスラッシャーベアが消えたかしら?」
「どこっス? どこに行ったっス」
地面には魔石が転がっている。
イビルスラッシャーベアが周辺に隠れていないか確認し、いないことが判明すると落ちている魔石を囲むように皆が集まる。
「これは……、イビルスラッシャーベアの魔石で間違いないかしら。一体どうなっているのかしらねー」
誰かが止めを刺したわけではない。態勢を立て直している間に魔石に変わっていた。エルビスがその魔石を拾い、鑑定した。
「もしかすると、嬢ちゃんたちの踊りが……」
「あーら、この間と同じことが起きたのかしら」
「あのときも魔石に変わっていたっス」
夕霧の四人が数日前のファングウルフの出来事を思い出し、その記憶を口にする。
「踊っていたら魔石に変わるなんて、あり得るのか?」
「実際、魔石に変わっているっス」
「あーら、これで二回目かしら」
「とにかく、討伐は完了です。冒険者ギルドに報告しましょう」
討伐目標のイビルスラッシャーベアは魔石となった。すなわち討伐完了だ。
合同討伐隊はグリーブの町へと帰還した。




