004話 サンク商会
「みんな、ありがとう!」
「今後もアイドルにじいろタイフーンをよろしく!」
路上ライブを終え、木箱のステージから下りる。
すると、近寄って来る夕霧を押し分け、中折れ帽をかぶった紳士が拍手しながらにじいろタイフーンの前に現れた。
「ブラボー。心が洗われるような見事な歌声、あなたがたは新手の踊り子でしょうか?」
紳士は興味深そうに尋ねた。
「踊り子じゃないわ。アイドルなんだから。覚えておきなさいよね」
「アイドルグループ、にじいろタイフーンです」
「ほほう、アイドルグループ、にじいろタイフーンですか。ああ、失礼、名乗りが遅れました。私はサンク商会の会長を務めますサンクです」
サンクは右手を胸の辺りに当て、丁寧にお辞儀をした。
「ざっとお見受けしましたところ、あなたがたにはパトロンがついていない様子」
「パトロンってなんだ?」
「ふふ。パトロンとは出資者、あるいは後援者のことを指します」
「ここに来たばかりなんだから、そんなのいるわけないじゃない」
腰に手を当ててぶっきらぼうに返すあや。
「そうですか、そうですか。あなたがたは、このような広場で終わるスターダストではありません。もっと大きな舞台で輝くスターになるはずです」
サンクは両腕を広げて円を描くようにして話した。
「そうなるのが夢だよね」
「私が、サンク商会が、その夢を叶えるお手伝いをいたしましょう」
サンクの目じりがキラリと輝く。
「あら、夢を叶える手伝いをしてくれるのね。いい心掛けじゃない」
「はい。サンク商会がパトロンとなれば、皆様を強くバックアップできます」
「バックアップって言われても、具体的にはどんなことをするんだ?」
りんは訝しむように尋ねた。
「例えば踊り子でしたら、興行のない日が続くと生活資金に困るようになります。そういったときには生活資金を援助します」
「無償の援助なのか?」
「はい、援助自体は無償です。ただ、私どもが出資者である以上はなんらかのリターンを要求することになるのですが、今後、演目を行うごとに得られる収入の三割をサンク商会のものとします。よろしいでしょうか?」
「ちっぽけなおひねりの三割じゃあ大赤字だぞ。本当にいいのか?」
今回の路上ライブでも、ふたの開いた木箱に少々のおひねりが入れられている。その三割だと銀貨数枚程度だ。
「私、サンク商会はあなたがたの未来に投資するのです。あなたがたにじいろタイフーンは必ずメジャーになります。そうなれば大きな収入となり、三割でも黒字間違いなしということになります」
「そうなんだー。私、スターになるよ」
「ゆいな、早い、早過ぎよ」
「それではほかに何か質問はありませんか? 質問は後日思いついたときに尋ねていただいても大丈夫です。……今、質問はないようですね。それでは、何かお困りのことはありませんか?」
少々の間を設けて話すサンク。
「困りごとならあるに決まっているでしょ。歌と踊りのレッスンをする場所がなくて困っているんだから。どこかいい場所がないかしら?」
町の外でのレッスンは、その日の天候に左右されるし、また魔物が現れるかもしれない。できればどこか屋内でレッスンしたいのが本音だ。
「先ほどの歌と踊りのレッスンですね。四人が並んでステップしても余裕がある広さで外に音が漏れにくい部屋……。五日以内に手配しましょう」
「そんな都合のいい物件、借りてもいいのか? 家賃が高そうだぞ」
歌と踊りのレッスンのできる部屋は広くて家賃が高そうだ。
「サンク商会がパトロンになれば、あなたがたに家賃はかかりません。サンク商会が手配しますから」
「ついでに宿屋も頼めたりするのかな? 宿代も結構するよね」
今宿泊している宿は四人が並んで寝るだけでいっぱいだ。それでもそれなりの宿代がかかっている。それで、ゆいなとしては新たなレッスン部屋に寝泊まりできればいいと思っての発言だ。
「宿はレッスン用の部屋を兼用していただくことにします。ただ、宿屋と違って食事はありませんのでそちらは皆様でなんとかしてください」
「キッチンがあれば自炊しましょう」
「自炊……。あんたたち、頑張りなさいよね。あたしはできないんだから」
「テキトーに塩ふって炒めりゃ大丈夫だろ」
「どこかにカップ麺とか売ってないかな?」
「どうですか? サンク商会にパトロンを任せてくださいませんか?」
「みんな、どう? パトロンをお任せしてもいいのかしら?」
「いいんじゃないか。ほかにいないんだしさ」
「私、頑張ってスターになるよ」
こうした流れでサンク商会が、にじいろタイフーンのパトロンとなった。
翌日。
にじいろタイフーンの四人は先日の魔石を換金するため冒険者ギルドを訪れた。
「冒険者として登録ですね。それでは簡単に説明します――」
魔石を売るためには冒険者として登録しないといけない。
受付嬢による説明が始まった。しかし冒険者として働くつもりのない四人は、説明を軽く聞き流した!
「こちらが冒険者カードになります。紛失しないよう、細心の注意を払って常時携行してください」
四人それぞれにカードが手渡され、パーティー名はにじいろタイフーンとして登録された。
「それでは魔石を換金します。こちらですと金貨一枚になります」
「あー、もしや。もしやお前らは昨日広場で踊っていた四人で合っているか?」
金貨を受け取り、回れ右をしたところで奥から来た職員に呼び止められて向きを直す。
「はい、昨日路上ライブしていました」
「何かまずかったか?」
誰の許可も得ずに広場で踊っていたのだ。苦情でもあげられるのかと身構える、りん。
「いや、まずいことは何もない。俺はギルドマスターのグレルだ。少し話したいことがある。つき合ってもらえるか?」
「きっとファンクラブ会員一号だよ」
「夕霧の皆さんが、きっと一号ですよ」
ゆいなはギルドマスターをファンクラブ会員一号に認定しようとしたけれど、みさきによって訂正された。
「奥の応接室で話そう。こっちだ」
否定の語句がなかったことから、四人は奥の小部屋へと案内され、やや豪華なソファーに腰かける。
「ふぅ。では尋ねる。お前らは強力な魔法が使えたりするか?」
「魔法? 把握しているのは魔法収納だけですね」
代表してみさきが答えた。
「そうか。では質問を変えよう。お前らの踊りを見て、重篤な呪いが解けたという報告があってだな、これについて心当たりはないか?」
「呪い? なによそれ、こわ~い」
「藁人形だよ、丑の刻だよ」
「呪いをかけるのと違うだろ。呪いを解いたって話だぞ」
「心当たりはありません」
そわそわする四人。
「凶変魔物イビルスラッシャーベアのツメに裂かれると、それだけで呪いにかかる。手足に魔獣のような毛が生え、身動きがとれなくなるのだ。魔獣の毛はやがて全身を覆うようになり、死に至る。解く術のない恐ろしい呪いだ」
「やっぱり、心当たりはありません」
「ふむ。それではにじいろタイフーンに指名依頼だ」
テーブルの上に一枚、紙が置かれた。これは指名依頼の依頼票のようだ。
「俺が同伴するから、今から病院へ向かってほしい。病院には件の呪いにかかっている奴があと三人いる。その病室で歌と踊りを披露してもらいたい。本当に呪いが解けるかどうかの実験だ」
「実験? だとしても、歌と踊りは無料では披露できないに決まっているでしょ。にじいろタイフーンはプロのアイドルなんだから」
路上ライブは基本無料だが、歌と踊りの依頼は有料だ。
「そこは指名依頼の金貨三枚で手を打ってくれ。もしも呪いが解けるようなことがあれば、特別報酬として金貨十枚を出す。もともとこの呪いは解く術がなく、ただ死を待つのみだからな。つまりお前らの歌と踊りには尊い命がかかっているということだ」
「そんな……。人命に関わるのなら、受けるしかないぞ」
「その実験よね」
「自信はないけど、やるしかないよ」
四人は顔を見合わせ、皆前向きなようなので指名依頼を受けることにした。
「早速行こう」
冒険者ギルドをあとにし、広場の東側にある病院へと至る。
グレルは階段を上って行き、三階の病室に入った。
「ここだ。昨日、お前らの踊りを見た窓際の奴の呪いが解けた。同室の三人には変化はなかった。違いは踊りを見たかどうかだ」
話しながらも空きベッドを脇に寄せ、踊るスペースを確保している。
毛の生えた病人のベッドを並べ、にじいろタイフーンの姿が見えるようにする。
「これくらいでいいだろう。さあ、踊ってくれ」
「いつもの『サーチYou』からいきましょう」
みさきたちはステージ衣装に換装し、音声スフィアをセットすると曲に合わせて踊りだした。
「♪いつも探して appearance
斜め後ろの バッドディスタンス――」
「うぅ……」
まだ一曲目が始まったばかりなのに、ベッドの上から唸るような声が上がりだす。
「まじか! こりゃあ本物だぜ」
グレルが観察している病人はいずれも腕と脚の獣毛が薄くなっていく。
「呪いが、解けていきやがる……」
やがて綺麗さっぱり毛がなくなり、ベッドの上から嗚咽が聞こえるようになった。
「解けた、呪いが解けた。うぅぅ……」
四人の歌と踊りは、イビルスラッシャーベアの呪いを解くことが証明された。
一曲目を歌い切ったところで実験は終了となり、助かる見込みのなかったベッド上の三人から、涙交じりの感謝の言葉をかけられながら病室を出る。
冒険者ギルドに戻ると指名依頼達成の依頼料と特別報酬を受け取る運びとなった。
「今日のことは正直、俺も驚いた。明日、改めて指名依頼をしたい。もう一度ここに顔を見せてくれ。お前らにしかできない依頼だ」
「まだ病人がいるのか?」
「そうではないが、次の依頼には段取りが必要だ。それで明日になる」
「明日ですね。また来ましょう」
四人はまた来る約束をして冒険者ギルドをあとにした。




