第99話 黒猫ノクス、預言者に変身! アレクに届いた緊急警告
第99話 黒猫ノクス、預言者に変身! アレクに届いた緊急警告
◆◆◆久しぶりの穏やかな朝
その夜、王宮の魔術兵士たちは、温かい食事を終えると、それぞれの部屋へ戻っていった。
ここ数か月、結界を維持するために戦い続けてきた兵士たち。
久しぶりに安心して眠れる夜だった。
そして翌朝。
別荘では、アレクが宮殿へ戻る支度をしていた。
その様子に気づいたリリアが、小さな足で近づいてくる。
「ぱぱぁ……おちごと?」
少し寂しそうな声だった。
アレクはしゃがみ込み、リリアを抱き上げた。
「ああ。まだ少し仕事が残っているんだ。リリアはママといい子にしているんだよ」
「……ぱぱ、いっちゃうの?」
「ああ。でも、またすぐに会いに来るからな」
アレクが優しく頬をなでると、リリアは小さな手を伸ばした。
「ぱぱ、がんばってねぇ!」
そして、アレクの頬にちゅっとキスをした。
「リリア……ありがとう。元気が出たよ」
アレクは嬉しそうに笑い、娘をもう一度抱きしめた。
「じゃあ、リリア。パパは行ってくるね」
「いってらっちゃい!」
リリアは小さな手を振った。
アレクはエレナにも声をかけ、護衛たちと一緒に馬車へ乗り込んだ。
馬車はゆっくりと別荘の門を出ていった。
◆◆◆ノクス、預言者に変身!
その様子を、少し離れた場所から見ていた四匹。
ポポが小声で叫んだ。
「ノクス、早く早く! 陛下が出かけちゃうのだ!」
「分かっているよ!」
ノクスは少し不機嫌そうに答えた。
「リリア様に気づかれないようにしないといけないんだ。慌てず、慎重に動かないとな」
「それで、どうするの?」
ピピが尋ねた。
「まずは預言者に変身するんだ」
ノクスは周囲に人がいないことを確かめた。
そして、静かに呪文を唱えた。
「黒き毛並みよ、神秘の衣へと変わり、小さき姿を預言者の姿へと導け!」
ふわりと黒い光が広がった。
次の瞬間、そこには黒猫の姿ではなく、若い男性の姿をしたノクスが立っていた。
黒を基調とした神秘的な衣をまとい、預言者らしい雰囲気を漂わせている。
ノクスは満足そうに自分の姿を確認した。
「ふむ。完璧だな」
ところが――。
「ノクス、しっぽあるぞ!」
ポポが大きな声で指摘した。
「えっ!?」
ノクスは慌てて後ろを振り返った。
なんと、黒いしっぽが衣の後ろからぴょこんと出ていた。
「しまった!」
ノクスは急いでしっぽを隠した。
ポポはお腹を抱えて笑った。
「ノクスもポポと一緒なのだ!」
「ポポと一緒にするな!」
ノクスは頬を膨らませた。
その様子を見て、ピピとリュリュも笑い出した。
「ふふっ、ノクスかわいい〜!」
「しっぽを忘れるなんて、うっかりだね」
「笑うな!」
ノクスはますます不機嫌になった。
ピピが笑いをこらえながら声をかけた。
「さあ、早くしないと間に合わないよぉ!」
「分かっている!」
ノクスは気を取り直し、別荘の門へ向かった。
◆◆◆馬車の前に現れた預言者
ノクスは別荘の入り口の門の前に立ち、アレクの馬車が来るのを待っていた。
しばらくすると、遠くから馬車の姿が見えてきた。
「来た……」
ノクスは背筋を伸ばした。
やがて馬車は、ノクスの前でゆっくりと止まった。
「どうした?」
馬車の中からアレクの声が聞こえた。
護衛の一人が答える。
「陛下、前方に人が立っております」
「人が?」
アレクは窓から外を確認した。
そして、ふと思った。
「もしかすると、あの若い預言者かもしれないな……」
アレクは馬車を降りた。
しかし、そこに立っていたのは、以前宮殿に現れた預言者とは違う、見知らぬ若い男性だった。
護衛たちはすぐにアレクの前に立ち、警戒する。
「何者だ!」
アレクも低い声で尋ねた。
「ここで何をしている?」
ノクスは静かにひざまずいた。
「陛下。私は預言者です。陛下に緊急にお伝えしたいことがあり、ここへ参りました」
アレクの表情が変わった。
「緊急とは何だ?」
4 船に残された三人の魔術兵士
ノクスは顔を上げ、落ち着いた声で話し始めた。
「陛下、まだ争いは終わっておりません」
「何?」
「ヴェルザーク帝国の船には、まだ三人の魔術兵士が残っています。その三人は冷酷で、邪悪な魔術を使う者たちです。どうか、十分にお気をつけください」
アレクは驚きを隠せなかった。
「それは本当なのか? 敵軍をすべて封じ込めたわけではないというのか?」
「はい。残念ながら、三人は幻影王都には入っておりません」
アレクは険しい表情になった。
「だが、なぜ今まで攻撃してこなかった? こちらが結界を失ったときに、攻め込むこともできたはずだ」
「三人は、攻撃するタイミングをうかがっているのです」
ノクスははっきりと答えた。
「この数日のうちに、彼らは動き出すでしょう」
アレクはしばらく黙って考え込んだ。
封魔禁呪の作戦は成功したと報告を受けている。
しかし、もし船に三人の強力な魔術兵士が残っているのなら、まだ安心することはできない。
「分かった。忠告はありがたく聞いておく」
「陛下、どうか油断なさらないでください」
ノクスは深く頭を下げた。
アレクは護衛たちに目配せをすると、再び馬車に乗り込んだ。
「宮殿へ急いでくれ」
「はっ!」
馬車は勢いよく走り出した。
◆◆◆黒猫に戻ったノクス
馬車が見えなくなると、ノクスはようやく緊張を解いた。
「ふぅ……。なんとか伝えられたな」
その直後、黒い光に包まれ、ノクスは元の黒猫の姿に戻った。
そして、何事もなかったように別荘へ戻っていった。
部屋に入ると、リリアがノクスを見つけた。
「ノスク! どこいってたのぉ?」
ノクスは少しだけ目をそらした。
「散歩をしていたのさ」
「おしゃんぽ?」
「ああ。そうだ」
「リリアも、おしゃんぽちたい!」
ノクスは小さく笑った。
「また今度な」
リリアは嬉しそうにうなずき、再びポポたちと遊び始めた。
ノクスは何事もなかったように、いつもの場所で丸くなった。
◆◆◆急ぐアレク
一方、馬車の中。
アレクは窓の外を見つめながら、預言者の言葉を思い返していた。
「本当なのだろうか……」
もし三人の魔術兵士が残っているのなら、王国はまだ危機を脱していない。
「もし本当なら、急がなくてはならない」
アレクは護衛に声をかけた。
「宮殿への到着を急がせろ。すぐに魔術兵士の指揮官たちを集める」
「承知いたしました!」
馬車の速度が上がった。
そのころ、天界では神々が水晶の鏡を見つめていた。
「アレクは、ノクスの話を信じたのだろうか?」
フィオナが心配そうに尋ねた。
「少なくとも警戒はするはずじゃ。今はそれでよい」
ゼノはそう答えた。
アテナもうなずく。
「ノクスが直接伝えたのだから、三人の存在を知ることはできたわね」
しかし、神々の不安はまだ消えなかった。
敵の三人が動き出すまで、残された時間は少ないかもしれない。
王宮へ急ぐアレク。
そして、まだ何も知らずに別荘で遊ぶリリア。
それぞれの場所で、次の戦いへの準備が始まっていた。




