第96話 幻影王都、完全封印! 残された三人の最強魔術師
第96話 幻影王都、完全封印! 残された三人の最強魔術師
◆◆◆敵軍、ついに上陸!
王国を覆っていた結界が砕け散った直後。
海岸に停泊していたヴェルザーク帝国の船から、次々と兵士たちが上陸を始めた。
兵士たちは武器を手に取り、魔術師たちは不気味な魔力をまといながら、王国の町へ向かって進んでいく。
船の上では、ザルヴェインがその様子を眺めていた。
「さあ、楽しい時間だ!」
ザルヴェインは黒龍を従えながら、高らかに笑った。
「次はいつまで持ちこたえるかな? せいぜい楽しませてくれよ!」
隣にいたバルゼルドも、口元をゆがめた。
「数時間ももたないさ。結界を失った国など、我々の魔術兵士の前では無力だ」
「ふふっ。そうだな。今度はどんな顔を見せてくれるのか、楽しみだ」
二人は、王国がすぐに陥落すると信じて疑わなかった。
しかし、彼らはまだ知らなかった。
目の前に広がっている町が、本物ではないことを。
◆◆◆作戦開始の合図
一方、幻影王都の近く。
セレスとガル、アルセリアの三人は、敵軍の動きをじっと見守っていた。
敵兵たちは次々と幻影の町へ入っていく。
ガルが小さくつぶやいた。
「いよいよだな……」
セレスはアルセリアに視線を向けた。
「アルセリア、あなたの出番よ。でも、合図があるまで慎重にね」
「分かっているわ」
「すべての敵兵が幻影都市に入ってからよ。一人でも外に残っていたら、作戦に影響が出るかもしれない」
「ふふっ。私を誰だと思っているの? そんな失敗はしないわ」
アルセリアは自信たっぷりに答えた。
「さすがね!」
セレスは微笑んだが、すぐに敵軍へ目を戻した。
今はまだ、動くときではない。
アルセリアは目を閉じ、全身の神経を集中させた。
敵兵の数、魔力の動き、幻影都市への侵入状況。
すべてを慎重に確認する。
やがて、最後の兵士たちが幻影都市の中へ入った。
セレスがガルに目配せする。
ガルは静かにうなずいた。
「今だ!」
作戦開始の合図が出た。
◆◆◆封魔禁呪、発動!
アルセリアは両手を大きく広げた。
そして、力強い声で呪文を唱え始める。
「幻影よ、道を開け、偽りの城よ、その姿を現せ!
邪悪なる魔術兵士たちを幻の都へと誘い導け!
闇に染まりし魔力よ、今こそ沈黙せよ!
魔術の源を縛り、呪文の力を閉ざせ!
四方の門を閉じよ!
光の鎖よ、絡みつけ!
逃げることも、魔術を唱えることも、許さぬ!
幻の都を牢獄となし、邪悪なる力を永遠に封じ込めよ!」
その瞬間、幻影都市に異変が起きた。
兵士たちの足元に、巨大な紫色の魔法陣が浮かび上がる。
「な、なんだこれは!?」
「魔法陣だ! いったい誰が仕掛けた!?」
兵士たちが驚いている間にも、町の四方から光の壁がせり上がっていった。
光の壁は高く、高く伸びていく。
やがて空までもが結界に覆われ、幻影都市全体が巨大な牢獄へと変わった。
「くそっ! 魔術で破壊しろ!」
一人の魔術兵士が呪文を唱えようとした。
しかし、その瞬間――。
全身に黒い鎖のような魔力が巻きついた。
「なっ……! 魔力が使えない!?」
別の兵士も呪文を唱えようとするが、声が出ても魔術が発動しない。
魔力の流れそのものが封じられていたのだ。
アルセリアは、さらに両手に魔力を集中させた。
「封魔禁呪――完全封印!!」
ドオオオオオオンッ!!
紫色の光が町全体を包み込んだ。
その光が消えたとき、幻影都市は完全に閉ざされていた。
ヴェルザーク帝国の魔術兵士たちは、もう外へ出ることも、魔術を使うこともできない。
アルセリアの封魔禁呪が、ついに成功したのだった。
◆◆◆三人の喜びと、アレクへの報告
封魔禁呪が成功したことを確認すると、アルセリアは満足そうに胸を張った。
「完璧ね! やっぱり私の魔術は素晴らしいわ!」
セレスは笑顔でアルセリアの肩をたたいた。
「さすがよ、アルセリア! 成功したわ! 私たちの勝ちね!」
「当然よ。私が失敗するはずないでしょう?」
アルセリアは得意げに笑った。
ガルも、ほっとしたように息を吐いた。
「よし! アルセリア、先走らなくて本当によかったよ」
「もう! まだそんなことを言うの?」
「ははは! さあ、アレク陛下に報告に行こう!」
ガルは明るい声で言った。
「これで今夜から、うまい酒をゆっくり飲めるな!」
「あなたはそればかりね」
セレスが苦笑する。
三人は急いで王宮へ向かった。
◆◆◆作戦完了の報告
王宮の作戦司令室。
アレクは、敵軍の動きを確認しながら報告を待っていた。
そこへ、三人が入ってきた。
「アレク陛下、ご報告いたします!」
ガルが一歩前に出る。
「作戦はすべて成功し、任務完了いたしました!」
セレスも続けた。
「敵の魔術兵士たちは幻影王都に閉じ込められ、魔術も封じられています」
アルセリアは誇らしげに胸を張った。
「封魔禁呪は完全に成功しました。もう、あの者たちが簡単に脱出することはできません」
アレクは三人の顔を見つめた。
そして、ゆっくりとうなずいた。
「そうか……。よくやってくれた」
アレクの表情が少し和らいだ。
「君たちのおかげで、多くの兵士や町の人々が傷つかずに済んだ。本当にありがとう」
「もったいないお言葉です、陛下」
三人は深々と頭を下げた。
「ご苦労だった。温かい食事の準備ができている。今夜はゆっくり食事をして、体を休めてくれ」
「ありがとうございます!」
三人はもう一度頭を下げると、魔術兵士たちの食堂へ向かった。
アレクは、その後ろ姿を見送りながら小さく息をついた。
「ひとまず、これで大勢の兵士を封じ込めることができた……」
しかし、彼はまだ知らなかった。
この作戦には、重大な見落としがあったことを。
◆◆◆船に残された三人
海上に停泊するヴェルザーク帝国の船。
幻影王都に入った多くの魔術兵士たちが封印されたことを、船の上から眺めている三人がいた。
ザルヴェイン。
バルゼルド。
そして、もう一人の魔術師――クロウ。
この三人は、ヴェルザーク帝国の中でも冷酷な上級魔術兵士だった。
彼らは、あえて幻影都市へ入らず、船に残っていたのだ。
ザルヴェインは、遠くに見える紫色の光を眺めながら、面白そうに笑った。
「やれやれ。下級魔術兵士たちは、慌てて封印されちまったよ」
バルゼルドも鼻で笑った。
「まったく、情けない連中だ。敵の罠に気づきもしないとはな」
クロウは腕を組み、冷たい目で王国の方角を見つめていた。
「それで、どうする?」
ザルヴェインは二人を振り返った。
「まあ、よいではないか。せっかくだ。三人でゆっくり楽しませてもらおう」
「高みの見物というわけか」
「そういうことだ。敵がどんな手を使ってくるのか、じっくり見せてもらおうじゃないか」
三人の口元に、不気味な笑みが浮かんだ。
幻影王都に閉じ込められた兵士たちとは違い、この三人はまだ自由だった。
そして、その魔力は、これまで戦ってきた敵兵士たちとは比べものにならないほど強大だった。
7 天界に広がる不安
その一部始終を、天界の神々も水晶の鏡を通して見ていた。
「封印は成功した……。だが、まだ終わりではない」
ゼノが険しい表情で言った。
アテナは、水晶の鏡に映る三人を見つめた。
「船に三人残っているわ。ザルヴェイン、バルゼルド、そしてクロウ。あの三人は、ほかの魔術兵士とは格が違う」
「封魔禁呪を逃れたのではなく、最初から作戦に入らないようにしていたのかもしれぬな」
オルフェが静かに答えた。
フィオナは心配そうに眉を寄せた。
「このままでは、王国が危ないわ。あの三人の魔力は、とても強い……」
ゼノはしばらく考え込んだ。
「このことをアレクに知らせる必要がある。だが、リリアに知らせるのはよくない」
「そうね。まだ二歳のリリアに、これ以上心配をかけたくないわ」
アテナも同意した。
「では、どうやって知らせる?」
オルフェが尋ねる。
ゼノは水晶の鏡から目を離さず、答えた。
「問題は、あの三人と対等に戦える者がいるかどうかだ」
神々の間に、重い沈黙が流れた。
やがてゼノが口を開いた。
「やはり、天界から魔術兵士を送り込むのが最善かもしれぬ」
「天界の魔術兵士を……?」
フィオナが驚いた。
「そうだ。あの三人に対抗できる者を選ばなければならない」
神々は真剣な表情で顔を見合わせた。
そして、誰を人間界へ送り込むべきか、天界からの援軍について本格的な会議を始めた。
王国では、作戦が成功したと安堵している。
しかし、戦いはまだ終わっていなかった。
船に残された三人の最強魔術師。
彼らが動き出すとき、王国には再び大きな危機が訪れることになる。




