第95話 砕かれた守護の結界! 動き出す黒龍の破壊魔術
第95話 砕かれた守護の結界! 動き出す黒龍の破壊魔術
◆◆◆作戦成功の報告
王宮の作戦司令室。
アレクの前に、三人の魔術兵士が集まっていた。
セレス、ガル、そしてアルセリア。
三人は、夜のうちに実行した作戦の結果を報告するため、陛下のもとへやって来たのだ。
「陛下、作戦は成功いたしました」
セレスが一歩前に出て報告した。
「ガルの魔術によって、町と王宮は敵から見えなくなっています。そして、私の幻影都市魔術によって、敵を誘い込むための幻影王都も完成しました」
「後は、敵国の兵士たちを幻の都市へ導き、アルセリアの封魔禁呪で封じ込めるだけです」
ガルも落ち着いた声で続けた。
報告を聞いたアレクは、三人を見渡した。
「よくやった。これほど難しい作戦を、誰にも気づかれずに成功させたのだな」
「ありがとうございます、陛下」
三人は頭を下げた。
しかし、アレクの表情はまだ引き締まったままだった。
「だが、まだ完全に成功したわけではない」
「陛下……?」
「今のところ、王国を守っている結界は壊されていない。敵はまだ結界を攻撃し続けている。こちらが先に動けば、何かを企んでいると怪しまれる可能性がある」
アレクは地図に目を落とした。
幻影王都へ敵を誘い込むには、敵に本物の町と王宮が隠されていることを悟られてはならない。
そして、封魔禁呪を使うタイミングを間違えれば、せっかくの作戦が失敗してしまう。
「結界が壊されるまでは、最後の封じ込めを行ってはならない。敵に気づかれる危険があるからだ」
「承知いたしました」
セレスとガルは、すぐに返事をした。
アレクはさらに続けた。
「アルセリアにも伝えておけ。結界が破られるその瞬間まで、決して先走るなとな」
「はい、陛下」
三人は改めて頭を下げた。
◆◆◆アルセリアのプライド
その後、作戦の待機場所。
アルセリアは、アレクからの指示を聞くと、少し不満そうに腕を組んだ。
「まだ封じ込めてはいけないということ?」
「ああ。結界が壊されるまでは待機だ」
ガルが答える。
アルセリアは、ふっと息を吐いた。
「まったく……。私の魔術は誰にも負けないのに。敵がどんな魔術を使おうと、私なら封じ込めてみせるわ」
彼女は自分の魔術に強い自信を持っていた。
魔術の腕には誇りがあり、誰かに能力を疑われることを嫌う。
そのため、少し傲慢なところもあった。
しかし、陛下から命じられた任務を無視するほど、身勝手な人物ではない。
アルセリアは不満を抱えながらも、指示に従うつもりだった。
そんな彼女に、ガルが声をかけた。
「お前は先走るから、気をつけるんだぞ!」
「なっ……! 私がいつ先走ったっていうのよ!」
「今だって、早く魔術を使いたそうな顔をしているじゃないか」
「失礼ね! 私はただ、自分の力に自信があるだけよ!」
ガルは呆れたように首を振った。
「いいか。封じ込めが失敗したら、俺たちの作戦はすべて無駄になる。それだけじゃない。多くの犠牲者が出て、この国そのものが滅びる可能性だってあるんだぞ!」
アルセリアの表情が少しだけ変わった。
「俺たちは、それほど責任の重い任務を任されているんだ。自分の力を見せつけるための戦いじゃない。国と人々を守るための作戦なんだ」
「分かってるわよ!」
アルセリアは、いら立った声で言い返した。
「あなたに言われなくても、私は私の任務を成功させるだけよ!」
「ならいい。焦らず、陛下の指示を守れよ」
「何度も言わなくても分かっているわ!」
アルセリアはぷいっと顔を背けた。
その胸の内には、強い自信と、任務を必ず成功させなければならないという緊張が入り混じっていた。
三人に与えられた役目は、王国の運命を左右するものだった。
失敗は許されない。
そして、敵の攻撃は今も続いていた。
◆◆◆敵国の魔術師たち
一方、王国の上空。
ヴェルザーク帝国の魔術師ザルヴェインは、巨大な黒龍を操りながら、王国を覆う結界を見下ろしていた。
黒龍は大きな翼を広げ、恐ろしい姿で空を舞っている。
その爪が結界に触れるたび、守護の壁には衝撃が走った。
しかし、王国側の魔術兵士たちは必死に結界を修復し、敵の攻撃に耐え続けていた。
「ほう……まだ結界を張り続けているのか。なかなか頑張るではないか」
ザルヴェインは面白そうに笑った。
隣にいた魔術師バルゼルドは、そんなザルヴェインを見て言った。
「いつまで遊んでいるつもりだ? そろそろ終わらせろ」
「ふふっ。そう急かすな。敵が必死に抵抗する姿を見るのも、なかなか楽しいものだ」
「遊びはもう十分だ。さっさと結界を破壊しろ」
ザルヴェインは黒龍を見上げた。
「そうだな……そろそろ遊びは終わりにしよう」
彼の目が、不気味に光った。
「さあ、遊びは終わりだ」
ザルヴェインは両手を大きく広げ、禁断の魔術を唱え始めた。
4 黒龍の破壊魔術
「深淵に眠る闇の王よ、漆黒の龍よ。
真なる破壊の力を解き放て。
天を覆い、大地を震わせ、
光の守りを打ち砕け。
守護の壁を滅ぼせ!」
その瞬間、黒龍の全身から黒い魔力が噴き出した。
空が暗く染まり、周囲の雲が渦を巻く。
黒龍は大きく口を開き、漆黒の光を集め始めた。
「グオオオオオオオオッ!」
凄まじい咆哮が響き渡る。
そして――。
黒龍の口から放たれた閃光が、王国を覆う巨大な結界に直撃した。
ドオオオオオオオンッ!!
激しい衝撃が大地を揺らした。
「な、なんだ!?」
王宮では、魔術兵士たちが空を見上げた。
結界全体に、次々と亀裂が走っていく。
一本、二本、三本。
亀裂は瞬く間に広がり、光り輝いていた守護の壁を覆い尽くした。
「結界が……!」
魔術兵士の一人が叫んだ。
「修復を急げ! 結界を維持するんだ!」
兵士たちは必死に魔力を注ぎ込んだ。
しかし、もう間に合わなかった。
ピシッ……!
バキバキバキッ!!
そして――。
パアアアアアンッ!!
王国全体を覆っていた巨大な守護の壁が、一瞬にして砕け散った。
空に広がっていた光の欠片が、まるで星のように降り注いでいく。
長い時間、敵の攻撃を防いできた結界は、ついに破壊されてしまったのだ。
◆◆◆神々が見た結界の崩壊
天界。
水晶の鏡に映し出された光景を見て、ゼノたちは息をのんだ。
「とうとう……結界が破られたか」
ゼノの声が静かに響いた。
アテナは、険しい表情で水晶の鏡を見つめていた。
「黒龍の魔力が想像以上に強いわ。あれほどの力で攻撃されたら、王国の魔術兵士たちだけでは対抗できないかもしれない」
「幻影王都の作戦は、ここからが本番だな」
オルフェが言った。
フィオナも心配そうにうなずく。
「セレス、ガル、アルセリア……どうか、作戦を成功させて」
そのころ、別荘ではリリアがまだ眠っていた。
「すぅ……すぅ……」
リリアのそばには、ポポとピピ、リュリュ、ノクスがいる。
人間の目には、ぬいぐるみと一匹の黒猫にしか見えない四匹。
しかし、彼らは神々からの指示を受け、リリアを守るために警戒を続けていた。
王国の結界が破られたことも、彼らには分かっていた。
いよいよ、敵が王国へ侵入してくる。
そして、幻影王都へ誘い込む作戦が始まろうとしていた。
王国を守るための最後の作戦。
その成否が、これからの戦いを大きく左右することになる。




