第92話 逆転の秘策! 幻影王都(げんえいおうと)と封魔禁呪(ふうまきんじゅ)
第92話 逆転の秘策! 幻影王都と封魔禁呪
◆◆◆限界に近づく魔術兵士たち
セレスティア帝国の王宮。
窓の外では、黒龍が何度も結界へ攻撃を仕掛けていた。
そのたびに大きな衝撃が王宮まで伝わってくる。
アレクは報告を受けながら、厳しい表情で戦況を見つめていた。
「魔術兵士たちの様子はどうだ?」
「陛下。交代を繰り返しておりますが、疲労が極限まで達しております。このままでは、結界を維持することが難しくなります」
報告を聞いたアレクは、拳を握った。
「彼らは我が国を守るために、必死に戦っている。これ以上、無理をさせるわけにはいかない」
すぐに医師を呼ぶよう命じた。
「医師たちに伝えよ。疲労回復の魔術薬を急いで用意するのだ。魔力を回復させる薬も、できる限り多く準備させよ」
「承知いたしました!」
さらに、料理人たちにも指示を出した。
「兵士たちの食事を急いで準備するように。温かい食事を十分に用意してくれ。交代の兵士たちにも必ず食べさせるのだ」
「かしこまりました!」
アレクは、結界を守る兵士たちのことを思っていた。
彼らが倒れてしまえば、国を守る力は失われる。
何としても、兵士たちを支えなければならない。
◆◆◆アレクと魔術兵隊長たちの作戦会議
その後、アレクは魔術兵隊長たちを集め、作戦会議を開いた。
部屋には、結界の状況を示す地図と、敵軍の配置を記した資料が並べられていた。
「このまま結界を維持し続けるだけでは、いずれ限界が来る」
アレクが口を開いた。
「結界が破壊されれば、敵軍が一気に攻め込んでくる可能性がある。そうなれば、国が滅びる危険さえある」
魔術兵隊長たちも、深刻な表情でうなずいた。
「陛下。敵の邪悪な魔術は、我々の想像を超えるほど強力です」
「黒龍を操る魔術も、通常の魔術とはまったく違います」
「正面から対抗し続けるだけでは、こちらの魔力が先に尽きてしまいます」
アレクは地図を見つめた。
「では、どうすればいい……」
しばらく沈黙が続いた。
誰も簡単には答えを出せなかった。
そのとき、一人の魔術兵隊長がゆっくりと手を挙げた。
「陛下。一つ、作戦を提案してもよろしいでしょうか」
「聞かせてくれ」
「偽の町と宮殿を魔術で作り出し、そこへ敵軍を誘導するのです」
アレクは顔を上げた。
「偽の町と宮殿だと?」
「はい。敵軍が本物の王都だと思い込むほど精巧な幻影を作り、敵をそちらへ導きます。敵が幻影の中へ入り込んだところで、魔術を封じ込めるのです」
隊長は、地図の上に指を置いた。
「その魔術は、幻影城塞、あるいは幻影王都と呼ばれています」
会議室にいた者たちは、驚いた表情で互いを見つめた。
◆◆◆幻影王都という作戦
「幻影王都……」
アレクは、その名前を口にした。
「敵軍を偽の王都へ誘導し、本物の王都から遠ざけるということか」
「はい。敵が幻影を本物だと信じて進軍すれば、こちらは本物の王都を守る時間を稼げます」
別の魔術兵隊長も、地図を見ながら意見を述べた。
「確かに、作戦としては有効だと思います。敵の目を欺き、進軍経路をこちらの望む場所へ変えられれば、大きな時間を稼げるでしょう」
「だが……」
アレクは慎重な表情を浮かべた。
「それほど大規模な幻影を作り出せる魔術兵士が、この国にいるのか?」
会議室に再び沈黙が広がった。
幻影王都は、普通の幻影魔術とは規模が違う。
町並みだけでなく、城壁や宮殿、周囲の地形まで再現しなければならない。
しかも、敵軍が近づいても幻影が崩れないほどの力が必要だった。
「誰か、この魔術を使える者がいるか、今すぐ調査してくれ」
「承知いたしました!」
アレクは続けた。
「それから、もう一つ確認したいことがある」
「何でしょうか、陛下」
「敵の魔術を封じ込めることまで、本当に可能なのか?」
提案した隊長は、少し考えてから答えた。
「幻影王都だけでは、敵の魔術を完全に封じることは難しいでしょう。しかし、封魔禁呪を組み合わせることができれば、可能性はあります」
「封魔禁呪……?」
「はい。相手の魔力の流れを封じ、一定の範囲内で魔術を使えなくする禁じられた術です。ただし、非常に高度な魔術であり、使える者は限られています」
アレクはすぐに命じた。
「幻影王都を使える者と、封魔禁呪を扱える者を探せ。心当たりのある魔術兵士がいれば、すぐに報告するのだ」
「はっ!」
◆◆◆天界の神々の心配
そのころ、天界では――。
ゼノたちが水晶の鏡を囲み、アレクたちの作戦会議を見守っていた。
「幻影王都か……」
アテナが感心したように言った。
「敵軍を誘導して、こちらの望む場所で足止めする。考え方としては、とても良い作戦ね」
オルフェもうなずいた。
「結界を維持するだけでは、いずれ魔術兵士たちの力が尽きる。戦い方を変える必要があるだろう」
しかし、フィオナは不安そうに水晶を見つめていた。
「でも、その魔術を使える兵士がいるのかしら?」
ゼノも腕を組んだ。
「そこが問題だ。幻影王都を作るだけでも相当な魔力が必要になる。さらに封魔禁呪まで使える者となると、そう簡単には見つからぬだろう」
「敵の魔術には邪悪な力が混じっているわ。普通の封印では、破られてしまう可能性もある」
アテナの言葉に、神々の表情が曇った。
「アレク陛下たちは、よく考えている。だが、作戦を実行できる者がいなければ意味がない」
ゼノは水晶の鏡を見つめた。
「どうか、力を持つ者が見つかってくれればよいのだが……」
一方、セレスティア帝国では、魔術兵士たちが候補者の調査を始めていた。
幻影王都を作り出せる者。
そして、封魔禁呪を使える者。
その二つの力を持つ者は、果たして見つかるのだろうか。
結界の向こうでは、黒龍が再び大きな翼を広げていた。
戦いの時間は、刻一刻と迫っていた。




