第91話 神々に守られた国! 敵兵たちの嘲笑
第91話 神々に守られた国! 敵兵たちの嘲笑
◆◆◆結界を楽しむザルヴェイン
セレスティア帝国の上空。
黒い雲が空を覆い、その中を巨大な黒龍がゆっくりと旋回していた。
黒龍の前足が、何度も王国の結界へと振り下ろされる。
ゴオオオオッ!
激しい衝撃が広がり、結界の表面に亀裂が走った。
しかし、すぐに魔術兵士たちが魔力を注ぎ込み、結界を修復していく。
その様子を見ていたヴェルザーク帝国の魔術兵、ザルヴェインは、楽しそうに笑った。
「なかなかやるじゃあないか。まだ結界を維持できるとはな」
ザルヴェインは片手を掲げ、黒龍を自在に操っていた。
黒龍が大きく翼を広げる。
そのたびに強烈な魔力の風が吹き荒れ、結界を揺さぶった。
「くくく……。もう少しで壊れそうだな」
ザルヴェインは、結界の向こうにいるセレスティア帝国の魔術兵士たちを眺めた。
彼らは必死だった。
一人が魔力を使い果たせば、別の兵士が交代する。
何人もの魔術兵士が力を合わせ、国を守るために結界を支えていた。
その姿を見て、ザルヴェインはさらに笑みを深めた。
「いいねえ。必死になって守っている姿を見るのは、なかなか面白い」
バルゼルドの苛立ち
そのとき、少し離れた場所にいた魔術兵士がザルヴェインに声をかけた。
「おい、ザルヴェイン。何を遊んでいる。さっさと結界を片付けろ」
声をかけたのは、同じヴェルザーク帝国の魔術兵士、バルゼルドだった。
バルゼルドは腕を組み、退屈そうに黒龍を見上げている。
ザルヴェインは肩をすくめた。
「もう少し楽しませてくれよ。あちらの魔術兵士たちの顔を見てみろ。必死だぜ」
「そんなものを見て、何が楽しい」
「少しは頑張らせてやれよ。結界が破壊されたら、この国は崩壊なんだからさ」
ザルヴェインは笑いながら、再び黒龍へ魔力を送った。
黒龍が大きく口を開く。
その口元に、どす黒い魔力が集まっていった。
バルゼルドは、その光景を見ながら小さく笑った。
「まあ、そうだな。どうせ最後には壊れるんだ。少しくらい遊ばせてやってもいいか」
二人は、まるで目の前の戦いを遊びのように扱っていた。
セレスティア帝国の人々にとっては、国の存亡をかけた戦い。
しかし、彼らにとっては、ただの暇つぶしにすぎなかった。
◆◆◆神々に守られた国
バルゼルドは、ふと思い出したようにザルヴェインへ尋ねた。
「ところで、この小さな国はなんて言うんだ?」
「ん? この国か?」
ザルヴェインは少し考え込んだ。
「確か、確か……そうだ。セレスティア帝国だ」
「ああ、セレスティア帝国か」
「そうそう。神々に守られた国と言われているらしいぞ!」
ザルヴェインは、わざとらしく大げさに両手を広げた。
それを聞いたバルゼルドは、鼻で笑った。
「神々に守られた国だと?」
「ああ、そうらしい」
「ははは! どこに神々がいるんだ?」
「さあな! 神々が守ってくれるなら、こんな結界を必死に守る必要もないだろうに!」
二人は顔を見合わせ、声を上げて笑った。
「神々に守られた国か! はははは!」
「そんなもの、ただの言い伝えだろう!」
その笑い声は、戦場に響き渡った。
◆◆◆天界の怒り
その様子を、水晶の鏡越しに見ていた天界の神々。
ゼノは、二人の魔術兵士の言葉を聞いた途端、眉をぴくりと動かした。
「……ほう。神々がどこにいるか、だと?」
アテナも険しい表情を浮かべた。
「自分たちが何を相手にしているのか、分かっていないようね」
オルフェは静かに水晶の鏡を見つめていた。
「彼らは結界を壊すことしか考えていない。けれど、その結界の向こうには、多くの命がある」
フィオナも怒りを隠せなかった。
「人々が必死に守っている国を、遊びだなんて……。許せないわ」
ゼノは腕を組み、低い声で言った。
「セレスティア帝国は、確かに神々に守られている。だが、それは人間たちが何もしなくてよいという意味ではない」
「ええ。アレク陛下も、魔術兵士たちも、自分たちの力で国を守ろうとしているわ」
アテナは結界を支える兵士たちを見つめた。
「それなのに、敵はその努力を笑っている……」
ゼノの目に、強い光が宿った。
「よかろう。神々がどこにいるのか、いずれ思い知ることになる」
しかし、今すぐ神々が戦場に姿を現すことはなかった。
彼らには、リリアを守るという大切な役目もある。
そして、敵の魔術に潜む邪悪な力についても、慎重に見極めなければならなかった。
◆◆◆結界の向こうで
一方、セレスティア帝国では――。
魔術兵士エルセリオンが、結界の状態を確認していた。
「くっ……。また亀裂が広がっている!」
周囲の魔術兵士たちは、懸命に魔力を注ぎ続けていた。
「交代の兵士を呼べ! 一人も魔力を切らすな!」
「はい!」
エルセリオンは、黒龍を見上げた。
その姿から放たれる邪悪な魔力は、これまで戦ってきた相手とは明らかに違っていた。
「このままでは……長くは持たない」
それでも、彼らは手を止めなかった。
その様子を見ていたザルヴェインは、また楽しそうに笑った。
「おやおや、まだ頑張るのか。いいぞ、もっと見せてくれよ」
バルゼルドも笑いながら、黒龍を見上げた。
「そろそろ終わらせてもいいんじゃないか?」
「そうだな。もう少ししたらな」
黒龍の目が、不気味な赤い光を放った。
そして、その巨大な爪が再び結界へと向けられる。
天界では、神々が怒りを胸に秘めながら、その光景を見守っていた。
セレスティア帝国を守る戦いは、まだ始まったばかりだった。




