第88話 泡だらけのお風呂と迫り来る敵船!
第88話 泡だらけのお風呂と迫り来る敵船!
◆◆◆雪遊びのあとは大きなお風呂!
別荘の庭では、リリアとアリア王女が雪遊びを続けていた。
「ありあちゃま、えいっ!」
ぽすっ!
リリアが投げた小さな雪玉が、アリア王女の上着に当たる。
「リリちゃま、まけないよぉ! えいっ!」
ぽすっ!
今度はアリア王女の雪玉が、リリアの足元に落ちた。
「きゃはははぁ!」
「えへへへぇ!」
二人は何度も雪玉を投げ合い、雪の上を走り回った。
庭のそばには、ポポとピピ、リュリュのぬいぐるみが並んで置かれている。ノクスも黒い子猫の姿で、二人の近くを歩いていた。
けれど、しばらくすると――。
「……ふにゃぁ」
リリアが小さくくしゃみをした。
「リリちゃん、寒くなってきたわね」
エレナが近づいて、リリアの頬に触れる。
「おてて、つめたいわ」
アリア王女も、赤くなった手を両手で包んでいた。
「ありあ、ちゅめたい……」
「二人とも、そろそろお風呂に入りましょうね」
エレナの言葉に、リリアはぱっと顔を上げた。
「おふろぉ?」
「そうよ。大きなお風呂で、体を温めましょう」
「おふろ、いくぅ!」
「ありあもぉ!」
二人は手をつないで、別荘の中へ戻っていった。
ポポとピピ、リュリュのぬいぐるみも侍女が運び、ノクスも小さな足で二人の後をついていった。
◆◆◆泡だらけ大作戦!
別荘のお風呂は、とても大きかった。
広い浴槽には温かいお湯がたっぷりと張られ、湯気がふわふわと立ち上っている。
侍女たちが二人の体を洗い、髪を整えてくれたあと、リリアとアリア王女は浴槽の中で遊び始めた。
「わぁ〜! あったかぁい!」
リリアはお湯に手を入れて、にっこり笑った。
アリア王女も、嬉しそうに手をぱしゃぱしゃ動かす。
「ぽかぽかぁ!」
浴槽のそばには、ポポとピピ、リュリュのぬいぐるみが置かれていた。ノクスは濡れない場所で、二人の様子を見守っている。
そのときだった。
リリアの目が、浴槽に浮かぶ泡に止まった。
「……あわぁ」
小さな手で泡をすくう。
ふわふわ。
指先に乗った泡が、ぷるぷる揺れた。
「おもしろぉい!」
リリアの目がきらりと輝く。
そして、侍女たちに気づかれないように、そっと魔法を使った。
ぽんっ!
ぽぽぽぽぽんっ!
浴槽の周りに、次々と泡が生まれた。
「……あら?」
侍女が振り返った瞬間、泡がふわりと舞い上がった。
ぽすん!
ポポのぬいぐるみの頭に、大きな泡が乗った。
続いて、ピピのぬいぐるみも泡だらけ。
リュリュのぬいぐるみにも、ふわふわの泡がくっついていく。
ノクスの黒い毛並みにも、白い泡がちょこんと乗った。
「きゃはははぁ!」
リリアは大喜び。
「ぽぽ、あわあわぁ!」
「ぴぴもぉ! りゅりゅもぉ!」
アリア王女も、泡だらけになったぬいぐるみを見て大笑いした。
「みんな、しろいのぉ!」
リリアが手を振ると、今度は泡が空中にふわふわと浮かび上がった。
ぽんっ!
ぽんぽんっ!
泡は浴槽の上を漂い、ノクスの頭にも次々と乗っていく。
ノクスは黒い子猫の姿のまま、泡を頭に乗せてじっとしていた。
その様子が面白くて、リリアはますます笑った。
「のくす、あわあわぁ!」
アリア王女も、手をたたいて喜んでいる。
「のくす、しろいねぇ!」
侍女たちは、泡が増えていくお風呂場に驚いた。
「まあ! いつの間にこんなに泡が?」
「リリちゃん、楽しいのは分かるけれど、そろそろ泡を落としましょうね」
エレナが優しく声をかける。
「まだぁ! あわあわ、いっぱい!」
リリアは、泡を両手ですくって頭の上に乗せた。
「リリちゃん、お帽子みたいね」
エレナが笑うと、アリア王女も真似をする。
「ありあも、おぼうちぃ!」
二人は泡のお帽子をかぶったまま、顔を見合わせて笑った。
お風呂場は、最後まで泡だらけの大騒ぎだった。
◆◆◆おやすみの時間
お風呂から上がったリリアとアリア王女は、柔らかなタオルで体を拭いてもらい、暖かい寝間着に着替えた。
冷えていた体も、すっかりぽかぽかになっている。
「ままぁ、ぽかぽかぁ!」
「よかったわね、リリちゃん」
エレナが髪を優しく乾かしてあげる。
アリア王女も、ふわふわの寝間着を着て嬉しそうだった。
「ありあも、ぽかぽかぁ!」
「二人とも、今日はたくさん遊んだから、そろそろお休みしましょうね」
「ねんねぇ?」
「そうよ。明日も遊べるように、ゆっくり眠りましょう」
リリアはアリア王女の手を握った。
「ありあちゃま、いっちょにねんねしよぉ」
「うん! いっちょ!」
二人は大きなベッドに並んで横になった。
ベッドのそばには、ポポとピピ、リュリュのぬいぐるみが並べられた。ノクスは黒い子猫の姿で、ベッドの足元に丸くなっている。
「ぽぽも、ぴぴも、りゅりゅも、いっちょぉ」
リリアはぬいぐるみを見て、嬉しそうに笑った。
「みんないるわね。安心して眠れるわね」
エレナが布団をかけてあげる。
リリアはアリア王女の手をぎゅっと握った。
「ありあちゃま、だいしゅきぃ……」
「リリちゃま、ありあも、だいしゅきぃ……」
二人は寄り添うように眠りについた。
やがて、小さな寝息だけが部屋に響く。
エレナと侍女たちが部屋を出ていくと、静かな夜が訪れた。
そのとき、ぬいぐるみたちと黒い子猫の姿をした四匹は、そっと目を動かした。
『リリアもアリアも、ぐっすり眠ったね』
ピピが小さな声でつぶやく。
『今夜も、しっかり守るのだ』
ポポも真剣な表情でうなずいた。
リュリュは窓の外を見つめ、ノクスは耳を澄ませる。
四匹は、眠る二人を守るために、静かに周囲の気配を探り始めた。
◆◆◆敵船、接近の報告
そのころ、王宮では――。
アレクのもとに、騎馬隊の伝令が駆け込んできた。
「陛下! 海岸を監視していた騎馬隊から報告がございます!」
「報告せよ」
「沖合に確認された船ですが、敵国の船である可能性が高いとのことです!」
アレクの表情が引き締まる。
「船の数は?」
「現在確認できているだけで、五十から七十隻ほどです!」
「五十から七十……」
アレクは地図に目を落とした。
これだけの船が近づいているのなら、偶然の航行とは考えにくい。
「敵が上陸する可能性は?」
「まだ分かりません。しかし、海岸からの侵入を防ぐため、魔術兵士たちが結界を張りました」
報告を聞いたアレクは、魔術兵士の指揮官を呼び寄せた。
指揮官は地図を広げ、現在の状況を説明する。
「陛下。まずは海岸から敵が侵入できないよう、魔術兵士たちで結界を張っております。しかし、敵国の魔術がどの程度のものなのか、まだ分かっておりません」
「結界はどれほど持つ?」
「それも、現時点では判断できません。敵の魔術の強さによっては、破られる可能性もございます」
アレクはしばらく考えた。
「海岸だけでは不十分だ。町にいる魔術兵士とも連絡を取り、国全体に結界を張れ」
「国全体に、でございますか?」
「そうだ。海岸だけを守っても、別の場所から侵入される可能性がある。町も王宮も、すべて守らなければならない」
「承知いたしました!」
指揮官は深く頭を下げた。
「魔術兵士たちを集め、各地と連絡を取りながら結界を広げます」
「頼んだぞ。結界が破られない限り、敵は攻め込んでこられないはずだ。だが、決して油断するな」
「はっ!」
指揮官は急いで部屋を出ていった。
アレクは窓の外を見つめた。
別荘にいるエレナやリリア、アリア王女たちは、今ごろ眠っているだろう。
どうか、この戦いに巻き込まれずにいてほしい。
アレクは静かに拳を握りしめた。
◆◆◆天界に広がる不安
同じころ、天界では神々が水晶の鏡を囲んでいた。
鏡には、王国全体へ広がっていく結界の光が映し出されている。
「魔術兵士たちが結界を張り始めたわね」
アテナが静かに言った。
ゼノは、結界の輝きをじっと見つめていた。
「だが、長くは持たぬかもしれぬ」
「やはり、そう感じますか」
オルフェが尋ねる。
ゼノはゆっくりとうなずいた。
「敵の魔術に、普通の魔力とは違うものが混じっておる」
フィオナの表情も曇った。
「私も感じているわ。あれは、自然な魔力ではない。何かに汚されているような……」
「悪のエネルギーね」
アテナが言葉を引き継いだ。
「敵国の魔術のエネルギーが、悪の力に侵されている。だから、通常の魔術兵士たちが張った結界では、長く耐えられない可能性があるわ」
オルフェは水晶の鏡に手をかざした。
「このままでは、一週間も持たないかもしれません」
その言葉に、神々の間に沈黙が広がった。
「一週間……」
フィオナが不安そうにつぶやく。
「それまでに、こちらも手を打たなければならないわね」
アテナは、王国全体を包み込む結界を見つめた。
「魔術師兵士たちを送り込む準備を急ぎましょう。人間たちだけでは、あの力に対抗するのは難しいかもしれない」
ゼノは、別荘で眠るリリアの姿に視線を移した。
リリアはアリア王女と寄り添い、幸せそうな寝顔を見せている。
「今は、あの子を眠らせておいてやろう。目を覚ましたときに、何もかもが変わっているようなことにはしたくない」
神々は静かにうなずいた。
しかし、結界の向こうでは、敵国の船が少しずつ近づいている。
そして、その船に宿る魔力は、神々が知る通常の魔術とは明らかに異なっていた。
王国を守るために張られた結界。
その輝きがいつまで続くのか、まだ誰にも分からなかった。




