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第86話 迫り来る敵軍! 王宮に響く開戦の知らせ

第86話 迫り来る敵軍! 王宮に響く開戦の知らせ


◆◆◆オルガノス帝国、陥落


その日の午後。


皇帝アレクは、執務室で騎士団長たちから届いた報告書に目を通していた。


国内の魔術兵士の人数確認、海岸の警備強化、町への警戒要員の配置。


やるべきことは山ほどある。


アレクは書類を机に置き、深く息をついた。


「ヴェルザーク帝国は、いったいどこまで勢力を広げるつもりなのだ……」


そのときだった。


「陛下! ご報告いたします!」


廊下から、慌ただしい足音が近づいてきた。


扉が開き、海岸警備を担当している兵士が駆け込んできた。


兵士は息を切らしながら、アレクの前でひざまずいた。


「陛下、大変です! オルガノス帝国が……オルガノス帝国が滅びました!」


「何だと!?」


アレクは思わず立ち上がった。


「本当なのか?」


「はっ! 先ほど、海岸の警備所に届いた情報です。オルガノス帝国はヴェルザーク帝国の攻撃を受け、ついに陥落したとのことです。オルガノス帝国の陛下については……残念ながら、まだ詳しい情報が入っておりません」


兵士は悔しそうにうつむいた。


アレクは言葉を失った。


オルガノス帝国は、二万もの兵士を抱える大国だった。


それほどの国が、ヴェルザーク帝国の侵攻を食い止められなかったのだ。


「……そうか」


アレクは、かろうじてそれだけ答えた。


「それから、もう一つご報告がございます!」


兵士が顔を上げた。


「現在、海の向こうから何隻かの船が、こちらへ向かっているのを確認いたしました。敵の船なのか、逃げてきた者たちの船なのか、詳細はまだ分かっておりません」


「船の数と進行方向を確認し、決して目を離すな。敵である可能性も考え、警戒を怠るな!」


「はっ! 何か分かり次第、すぐにご報告いたします!」


兵士は再び深く頭を下げると、急いで海岸へ戻っていった。


扉が閉まる。


アレクは窓辺に歩み寄り、遠くの海を見つめた。


「オルガノス帝国まで……」


アーリー帝国に続き、オルガノス帝国も滅びた。


これで、ヴェルザーク帝国の侵攻を食い止められる国は、さらに少なくなってしまった。


「サン……。お前の国を救うことさえ、まだできていないというのに……」


アレクは拳を握りしめた。


だが、悲しみに沈んでいる時間はなかった。


敵が海を渡ってくるのなら、次に狙われるのは自分たちの国かもしれない。


そのとき、再び廊下から慌ただしい足音が響いた。


「陛下! 町の警備隊から緊急の報告です!」


「入れ!」


別の兵士が駆け込んできた。


「山の向こうから、激しい爆発音が聞こえたとのことです! さらに、山の向こう側から煙が上がっているのを確認したと!」


アレクの顔色が変わった。


「何だと……。敵の姿は確認できたのか?」


「いいえ! 山に遮られているため、詳しい状況はまだ分かっておりません!」


アレクは窓の外を見た。


海から近づく船。


山の向こうから響く爆発音。


そして、立ち上る煙。


それらが偶然の出来事だとは、とても思えなかった。


「……とうとう、始まったか」


アレクの声は低かった。


長い間、恐れていた瞬間がついに訪れたのかもしれない。


◆◆◆皇帝アレク、戦闘準備を命じる


アレクはすぐさま騎士団長たちを呼び戻した。


集まった騎士団長たちの表情も、緊張に満ちていた。


「山の向こうで爆発が起き、煙が上がっている。海からも正体不明の船が接近しているそうだ」


アレクは全員を見渡した。


「敵の侵攻が始まった可能性が高い。兵士たちに戦闘準備を命じよ!」


「はっ!」


「武器と防具を確認し、魔術兵士はそれぞれの持ち場へ向かわせろ。海岸の警備も、山沿いの警戒も強化するのだ。敵の位置と兵力が分かるまでは、むやみに突撃してはならない」


「承知いたしました!」


アレクは続けた。


「負傷者が出た場合に備え、医師たちにも準備を急がせよ。食料や薬が不足しないよう、備蓄の確認も忘れるな!」


騎士団長たちは一斉に動き出した。


王宮のあちこちで兵士たちが駆け回り、武器を手に取り、防具を身につけ始める。


静かだった王宮は、瞬く間に緊張に包まれた。


アレクは、最後に一つの命令を伝えた。


「それから、リリア王女とアリア王女、エレナを別荘へ避難させる。召し使いは必要な者だけを同行させ、医師と護衛もつけるのだ」


騎士団長の一人がうなずいた。


「陛下も、別荘へ向かわれますか?」


「いや。私はここに残る」


アレクは迷いなく答えた。


「皇帝である私が、国を守るために動かずしてどうする。王宮で指揮を執り、敵の動きを見極める」


「しかし、陛下……!」


「心配はいらぬ。今は、一人でも多くの者を守ることが先決だ」


アレクは窓の外を見つめた。


別荘は王宮から離れており、周囲の警備を整えれば、家族を守るための場所として使える。


リリアとアリア王女は、まだ幼い。


戦争の恐ろしさを、あの子たちに味わわせたくはなかった。


「エレナには、私から事情を伝える。二人を頼むと……」


アレクは、静かに言葉を続けた。


「必ず、無事に守り抜くのだ」


「はっ! 命に代えても、お守りいたします!」


騎士団長たちは深く頭を下げた。


アレクは再び机の上の地図を見つめた。


アーリー帝国、オルガノス帝国。


すでに二つの国が滅びた。


そして今、ついに自分たちの国にも敵の手が伸びようとしている。


「皆を守るために……ここで食い止めなければならない」


アレクは静かに決意を固めた。


王国の運命を左右する戦いが、今まさに始まろうとしていた。


第86話 迫り来る敵軍! 王宮に響く開戦の知らせ【後半】


◆◆◆リリアとアリア王女、別荘への避難


王宮の奥にあるエレナの部屋。


リリアは床に座り、ポポとピピと一緒におもちゃで遊んでいた。


リュリュは小さな翼をぱたぱたさせ、ノクスは窓辺で丸くなっている。


「ぽぽぉ、こっちぃ! いっしょにあしょぼぉ!」


「ポポにおまかせなのだ! どんな遊びでも、ポポは得意なのだ!」


ポポは胸を張った。


「じゃあ、これ、つんでぇ!」


リリアが積み木を差し出す。


「ふふん! これくらい簡単なのだ!」


ポポは積み木を一つずつ積み上げた。


ところが、最後の一つを置こうとした瞬間、ぐらりと塔が傾いた。


「あっ……!」


ガラガラガラッ!


積み木の塔は、見事に崩れてしまった。


「ぽぽぉ、こわれちゃったぁ!」


「な、なぜなのだ!? 計算では完璧だったはずなのだ!」


「ポポ、へたっぴ〜!」


ピピが笑う。


「な、何を言うのだ! これは、崩れるところまで計算した高度な遊びなのだ!」


リリアはきゃっきゃっと笑った。


「もっかい! もっかいしゅるぅ!」


いつもどおりの、のんびりとした時間。


しかし、その部屋の外では、召し使いたちが慌ただしく動いていた。


やがて扉が開き、エレナのもとへアレクからの知らせが届いた。


エレナの表情が変わる。


「……戦争が、始まったのですね」


「はい。陛下より、リリア王女とアリア王女を別荘へ避難させるよう命じられております」


エレナは一度、目を閉じた。


そして、すぐに顔を上げた。


「分かりました。必要なものだけを準備してください。医師と護衛も同行するのですね?」


「はい。召し使いも数名、同行することになっております」


「では、急ぎましょう」


エレナはリリアのそばに歩み寄り、そっと抱き上げた。


「リリア、これからアリア王女と一緒に、お出かけするわよ」


「おでかけぇ? ままぁ、どこいくのぉ?」


「別荘よ。少しの間、そこで過ごすの」


「べっしょー? おやちゅ、あるぅ?」


エレナは思わず、悲しさの中にも微笑みを浮かべた。


「ええ。おやつも用意してもらいましょうね」


「やったぁ! おやちゅ、たべりゅぅ!」


その隣では、アリア王女も侍女に抱かれていた。


「ままぁ、どこいくのぉ?」


エレナはアリア王女にも優しく微笑みかけた。


「アリア王女も一緒よ。みんなで別荘へ行きましょうね」


「うん! ありあも、いっちょにいくぅ!」


二人には、何が起きているのか分からない。


ただ、いつもと違う大人たちの様子に、少しだけ不思議そうな顔をしていた。


エレナはリリアを抱きしめた。


「大丈夫よ。みんな一緒だからね」


リリアはエレナの首に小さな腕を回した。


「ままぁ、だいしゅきぃ!」


「私も大好きよ、リリア」


やがて、別荘へ向かう馬車の準備が整った。


リリア、アリア王女、エレナ、数人の召し使い、医師、そして護衛たち。


一行は周囲を警戒しながら、王宮を出発した。


馬車が動き始めると、リリアは窓から外を眺めた。


「ぽぽぉ、どこいくのぉ?」


「別荘なのだ! きっとおいしいものがあるのだ!」


「ポポ、また食べ物のこと〜?」


ピピがあきれたように言った。


「大事なことなのだ!」


リリアは楽しそうに笑った。


「おいちいの、いっぱいあるといいねぇ!」


その後ろで、リュリュとノクスは静かに周囲を警戒していた。


人間たちには、ただの小さな生き物にしか見えない。


だが、二匹は神々から託された役目を忘れてはいなかった。


リリアたちに危険が迫れば、すぐに守れるように。


二匹は、誰にも気づかれないように魔力を巡らせた。


4 町の人々を守れ!


一方、王都ではアレクの命令が次々と伝えられていた。


兵士たちは町の広場や通りに立ち、住民たちに避難の準備を呼びかけていた。


「皆、落ち着いて聞いてくれ!」


兵士の一人が声を張り上げた。


「山の向こうで爆発が確認された! 敵の侵攻に備え、女性、子供、老人は地下室へ避難してほしい!」


町の人々は、驚いた顔で兵士たちを見つめた。


「本当に戦争が始まったのか?」


「敵がここまで来るのか……?」


不安そうな声があちこちから上がる。


兵士は、できるだけ落ち着いた声で続けた。


「詳しい状況はまだ分かっていない! だが、陛下は皆の安全を第一に考えておられる。地下室へ避難し、兵士の指示に従ってくれ!」


母親たちは子供たちの手を握り、老人たちは家族や近所の者に支えられながら、避難場所へ向かい始めた。


商店の主人も店を閉め、食料や水を持って地下室へ向かう。


泣き出す子供もいた。


「ママ、こわいよぉ……」


「大丈夫よ。みんなで一緒にいれば大丈夫だからね」


母親は子供を抱きしめながら、兵士の案内に従った。


兵士たちは、住民が混乱しないように声をかけながら、一人ひとりの避難を手助けしていった。


そのころ、王宮ではアレクが騎士団長たちとともに、次の報告を待っていた。


「陛下。町の住民たちの避難が始まっております」


「そうか。混乱が起きないよう、最後まで気を配ってくれ」


「はっ!」


アレクは窓の向こうを見つめた。


遠くの山から、まだ薄い煙が上がっている。


海岸からの報告も、まだ届いていない。


敵がどこまで迫っているのか。


どれほどの兵力を持っているのか。


何も分からないまま、時間だけが過ぎていく。


アレクは静かに拳を握った。


「どうか……皆、無事でいてくれ」


その願いは、家族に向けたものでもあり、王国の民に向けたものでもあった。


◆◆◆天界の神々、迫る戦争を見つめる


同じころ、天界では――。


ゼノ、アテナ、オルフェ、フィオナの四柱の神々が、水晶の鏡を囲んでいた。


鏡には、煙の上がる山と、避難を始めた王都の様子が映っている。


いつもなら、リリアのいたずらに笑い声を上げている神々も、今は誰一人として笑っていなかった。


「……とうとう、この時が来たか」


ゼノが、深いため息をついた。


アテナは険しい表情で水晶を見つめている。


「アーリー帝国に続き、オルガノス帝国まで滅びた。そして、今度はアレクの国にも敵の影が迫っている」


「これから長い戦いになるな……」


オルフェが静かにつぶやいた。


「敵の力は、私たちが予想していた以上かもしれない。人間界の兵士たちだけで、どこまで持ちこたえられるか……」


フィオナは、リリアたちが乗った馬車の映像を見つめた。


「リリアは、まだ二歳なのよ。今はまだ、戦争の本当の恐ろしさを知らないわ」


ゼノは目を伏せた。


「じゃが、あの子は困っている者を見れば、きっと助けようとするじゃろう」


「ええ。だからこそ、私たちが支えなければならない」


アテナは強くうなずいた。


「人間界へ魔術師を送り込む件も、急いで検討しましょう。リリアだけに背負わせるわけにはいかないわ」


ゼノは水晶の鏡に手をかざした。


その向こうでは、リリアが馬車の中でポポたちと笑っている。


「おやちゅ、まだかなぁ?」


「ポポも、おなかがすいたのだ!」


「さっき食べたばかりでしょ〜!」


ピピの声が聞こえる。


リリアは何も知らず、楽しそうに笑っていた。


ゼノは、そんな小さな姿をじっと見つめた。


「リリアよ……今は、まだ笑っていておくれ」


その声は、いつもの豪快な神の声ではなかった。


孫を思うような、優しい声だった。


しかし、水晶の鏡に映る煙は消えない。


海の向こうから近づく船も、山の向こうに潜む敵の姿も、まだ正体が分からない。


そして、この戦いがいつ終わるのかも、誰にも分からなかった。


神々は、これから始まる長い戦いを前に、静かにため息をついた。


人間界にも、天界にも、緊張が広がっていた。


王国の運命を懸けた戦いが、ついに幕を開けようとしていた――。


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