第85話 立ち上がる王国! アレクの決意と神様のとんでもない提案
第85話 立ち上がる王国! アレクの決意と神様のとんでもない提案
◆◆◆魔術兵士を集めよ!
アーリー帝国から逃れてきた魔術兵士たちの報告を受けた翌日。
皇帝アレクは、朝早くから謁見の間に騎士団長たちを集めていた。
机の上には、周辺諸国の地図が広げられている。
アレクは地図を見つめながら、静かに口を開いた。
「ヴェルザーク帝国が、わずか一週間でアーリー帝国を滅ぼした。そのうえ、現在はオルガノス帝国にまで攻め込んでいる。これは決して他人事ではない」
騎士団長たちの表情が引き締まった。
「陛下。アーリー帝国の魔術兵士たちの話では、敵の魔術は相当強力だったとのことです」
「そうだ。通常の兵士だけでは、対応できない可能性がある」
アレクは地図から顔を上げた。
「まず、国内にいる魔術兵士をできる限り集めてくれ。そして、現在何人いるのか、どこに配置されているのかも正確に把握するのだ」
「はっ!」
「それから、海岸の警備計画を見直す。魔術兵士を海岸沿いに配置し、敵の船や不審な動きを発見した場合、すぐに報告できる体制を整えてほしい」
別の騎士団長が一歩前に出た。
「町の警備についてはいかがいたしましょう?」
アレクは少し考えたあと、答えた。
「町にも魔術兵士を配置する。ただし、目立つ形で巡回させる必要はない」
「目立たないように、ですか?」
「そうだ。町の人々を不安にさせたくない。普段どおりの暮らしを続けられるよう、魔術兵士には町の中に紛れて警戒してもらう」
アレクは、窓の向こうに広がる王都を見つめた。
戦争の知らせが広まれば、国民は恐怖に包まれるかもしれない。
商人たちは商売をやめ、家族を守るために町を離れようとする者も出るだろう。
まだ敵が攻めてきたわけではない。
だからこそ、今は必要以上に人々を怖がらせず、しかし備えだけは万全にしておかなければならなかった。
「魔術兵士が足りない場合は、騎士団とも協力して配置を考え直す。決して無理はさせるな。敵の力が分からない以上、慎重に動く必要がある」
「承知いたしました!」
騎士団長たちは一斉に頭を下げた。
アレクは最後に、強い口調で告げた。
「これは、我が国だけの問題ではない。アーリー帝国には、我々と長い付き合いのあるサン陛下がいる。あの国の民も、今なお苦しんでいるはずだ。できることを一つずつ進めてくれ」
「はっ! 必ずや!」
騎士団長たちは、それぞれの任務に取りかかるため、謁見の間を後にした。
一人残ったアレクは、地図の上に置かれたアーリー帝国の印を見つめた。
「サン……どうか無事でいてくれ」
幼いころから知る友の顔が、脳裏によみがえる。
アレクは拳を握りしめた。
まだ、何も終わってはいない。
アーリー帝国の民を救い、捕らえられたサンを助け出すためにも、自分たちの国を守り抜かなければならなかった。
◆◆◆全兵士を広場へ!
その日の午後。
王宮の大きな広場に、国中から集められた兵士たちが整列していた。
騎士たちの鎧が日の光を反射し、広場には緊張した空気が漂っている。
兵士たちの中には、すでにアーリー帝国の滅亡を耳にしている者もいた。
しかし、詳しい事情までは知らされていない。
やがて、広場の正面にアレクが姿を現した。
兵士たちは一斉に背筋を伸ばす。
「皆、よく集まってくれた」
アレクの声が広場に響いた。
「今日は、皆に伝えなければならないことがある」
兵士たちは静かに耳を傾けた。
「海の向こうにあるアーリー帝国が、ヴェルザーク帝国との戦争に敗れた。敵はわずか一週間でアーリー帝国を滅ぼし、サン陛下を捕らえた。そして、国民たちも奴隷として連れ去られたという」
広場にざわめきが広がった。
「一週間だと……?」
「アーリー帝国には、我が国以上に多くの兵士がいたはずだぞ」
「そんな国が、どうして……」
兵士たちの顔には驚きと動揺が浮かんでいた。
アレクは、ざわめきが収まるのを待ってから続けた。
「アーリー帝国から逃れてきた魔術兵士たちも、敵の魔術に太刀打ちできなかったと報告している。さらに、ヴェルザーク帝国は現在、オルガノス帝国にも攻め込んでいる」
広場の空気が一段と重くなった。
「つまり、次は我が国が狙われる可能性もあるということだ」
兵士たちは顔を見合わせた。
だが、アレクは恐怖をあおるために、この話をしているのではなかった。
彼らに現実を知ってもらい、国を守る覚悟を持ってほしかったのだ。
「我々には、まだ分からないことが多い。敵の兵力も、魔術の全容も、今は十分に把握できていない。だからこそ、情報を集め、訓練を重ね、互いに力を合わせる必要がある」
アレクは、広場に並ぶ兵士たち一人ひとりを見渡した。
「アーリー帝国から来た魔術兵士たちも、我々と共に戦ってくれる。彼らは故郷を失いながらも、サン陛下の願いを果たすため、この国まで逃れてきたのだ」
アレクの声に、少しずつ力がこもっていく。
「我々が戦う理由は、自分たちの国を守ることだけではない。捕らえられたサン陛下を救い、苦しんでいるアーリー帝国の民を助けるためでもある!」
兵士たちは、真剣な表情で皇帝を見つめた。
「敵がどれほど強大であろうとも、戦う前から諦めるわけにはいかない。皆で知恵を出し合い、力を合わせ、必ずこの国を守り抜くのだ!」
アレクは、拳を強く握った。
「我々は、負けるわけにはいかない!」
その言葉が、広場いっぱいに響き渡った。
一瞬の静寂。
次の瞬間、兵士たちが一斉に声を上げた。
「陛下のために!」
「我が国を守るために!」
「アーリー帝国の民を救うために!」
広場を揺るがすような雄叫びが響いた。
アレクは、その光景を見つめながら、胸の中で静かに誓った。
――どれほど厳しい戦いになろうとも、私はこの国の民を守る。
そして、サン。必ず、お前を助け出してみせる。
戦争の足音は、少しずつ王国へ近づいていた。
◆◆◆天界でも始まる戦争対策会議?
同じころ、天界では――。
神々が大きな水晶の鏡を囲み、人間界の様子を見守っていた。
水晶には、広場で兵士たちを鼓舞するアレクの姿が映っている。
「アレクも、ようやく本格的に動き始めたな」
創造神ゼノが、ひげをなでながらうなずいた。
アテナは難しい顔で腕を組んでいる。
「でも、問題は魔術兵士の数よ。ヴェルザーク帝国の魔術兵士がどれほどいるのか分からないうえに、アレクの国にいる魔術兵士も十分とは限らないわ」
「アーリー帝国を一週間で滅ぼした相手だものねぇ……」
フィオナが心配そうに水晶を見つめた。
「オルガノス帝国も苦戦している。もし、あの国まで滅ぼされたら、次はどこが狙われるか分からぬ」
オルフェの言葉に、神々は黙り込んだ。
水晶の向こうでは、兵士たちがアレクの言葉に応え、決意を新たにしている。
しかし、気持ちだけで強大な魔術に対抗できるわけではない。
アテナは静かに言った。
「今のうちに、魔術兵士を増やす方法を考えなければいけないわね。人間界の兵士たちが努力しても、敵との魔力の差が大きすぎれば危険よ」
「うむ……魔術兵士が足りぬか」
ゼノは、腕を組んで考え込んだ。
しばらくして、突然、ぽんっと手を打った。
「そうだ! わしが行けばよいではないか!」
「……え?」
フィオナが目を丸くした。
ゼノは、すっかり乗り気になっていた。
「わしが若ければ、魔術師になりすまして人間界へ行くんだがのう! 敵の魔術兵士など、わしがちょちょいのちょいと倒してやるわい!」
「ゼノ様……」
アテナが額に手を当てた。
「あなた、創造神なのよ?」
「分かっておる!」
「人間界へ行って魔術兵士になりすます必要なんてないでしょう!」
「むむっ……それもそうか」
ゼノは一瞬考えたが、すぐに胸を張った。
「だが、わしも昔ほど若くはないからのー! 長旅は腰に響くし、最近は座っている時間が長いと足までしびれるのじゃ!」
「神様なのに、ずいぶん現実的な悩みね……」
フィオナが思わずつぶやいた。
オルフェも、こめかみを押さえている。
「そもそも、創造神が突然人間界に現れたら、大騒ぎになるだろう」
「ならば、わしではなく、誰か数人を魔術師として送り込めばよいのではないか?」
ゼノは、今度こそ名案を思いついたという顔で言った。
「人間界の魔術兵士たちを助け、敵の魔術を調べてもらうのじゃ!」
アテナはすぐには答えなかった。
「神が直接介入するのは慎重に考える必要があるわ。それに、送り込むなら、正体を知られずに行動できる者でなければならない」
「そうじゃな。では、誰がよいか……」
ゼノは神々を見回した。
フィオナは、そっと視線をそらした。
オルフェは、水晶の鏡を見つめたまま何も言わない。
アテナは、すでに送り込む場合の条件を考え始めていた。
ところが、ゼノはふと、水晶に映る別の光景に目を留めた。
◆◆◆リリアを守りたい神様たち
水晶の鏡に映っていたのは、王宮の一室。
リリアが、ポポとピピ、リュリュ、ノクスと一緒に遊んでいた。
「ぽぽぉ、こっちきてぇ!」
「ポポにおまかせなのだ!」
ポポは勢いよく走り出したものの、床に置かれたクッションにつまずき、ころんと転がった。
「ぽぽぉ、ころんちたぁ!」
リリアは楽しそうに手をたたいた。
「きゃはははっ! ぽぽ、ころんころん!」
「ち、違うのだ! これは敵の攻撃を想定した特別な訓練なのだ!」
「ポポ、クッションに負けたの〜?」
ピピが笑う。
「クッションは強敵なのだ……!」
リュリュはリリアのそばで、虹色に輝く小さな翼をぱたぱたさせていた。
ノクスも、何事もないような顔でリリアの足元に丸くなっている。
その様子を見たゼノは、思わず頬を緩めた。
「おお……リリアは今日も元気じゃなぁ」
「ゼノ様、今は戦争の話をしているのよ」
アテナが冷静に指摘した。
「分かっておる! 分かっておるとも!」
ゼノは咳払いをした。
「じゃが、リリアを守ることも大切じゃ。もし、あの恐ろしい敵がリリアにまで手を伸ばしたら……わしは絶対に許さんぞ!」
その声には、いつものふざけた調子とは違う、強い決意が込められていた。
フィオナもうなずいた。
「リリアはまだ二歳なのよ。戦争の恐ろしさを、すべて理解できる年齢ではないわ」
「それでも、あの子は困っている人を見ると助けたがる」
オルフェが静かに言った。
「先日、アーリー帝国から逃げてきた魔術兵士たちの傷を癒やしたのも、その気持ちからだったのだろう」
アテナは水晶の鏡を見つめた。
「リリア自身も、まだ自分の力をすべて理解していない。だからこそ、私たちが見守らなければならないわ」
ゼノは、ふむふむとうなずいた。
そして、再びとんでもないことを口にした。
「よし! 人間界に魔術師を送り込む話じゃが……リリアのそばを守れる者も一緒に考えようではないか!」
「ゼノ様! 今いる四人の護衛だけでは足りないとでも言うの?」
アテナが問い返す。
「そういう意味ではない! リリアを守りながら、王国の魔術兵士たちも助けられる者がいればよいのじゃ!」
「そんな都合のいい者が、簡単に見つかるかしら……」
フィオナが首をかしげた。
「探すのじゃ! 神界には、まだまだ優秀な者がおる!」
ゼノは力強く宣言した。
しかし、その直後。
水晶の鏡から、リリアの声が聞こえてきた。
「おやちゅぅ! りり、おやちゅたべりゅのぉ!」
「ポポも食べるのだ!」
「ピピも〜!」
「……結局、あの子たちはおやつのことしか考えていないのね」
アテナが小さくため息をついた。
ゼノは、そんなリリアたちを見つめながら、優しく微笑んだ。
「今は、それでよいのじゃ。リリアには、まだ笑っていてほしいからのう」
神々の表情から、笑みが消えた。
人間界では、アレクが国を守るために動き始めている。
そして天界でもまた、リリアと人間界を守るための新たな策が考えられようとしていた。
ヴェルザーク帝国の正体も、その目的も、まだ誰にも明らかになっていない。
だが、戦争は確実に広がりつつあった。
そして神々は、まだ知らなかった。
リリアの小さな手が、やがてこの戦争の行方を大きく変えることになるのを――。




